松岡功の「今週の明言」

セールスフォースが「世界最大のエンタープライズアプリケーション企業」を掲げた理由

松岡功

2022-12-02 11:42

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏と、富士通 フェロー SVPの津田宏氏の発言を紹介する。

「Salesforceは『世界最大のエンタープライズアプリケーション企業』である」
(セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏)

セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏
セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏

 セールスフォース・ジャパンは11月29日、自社イベント「Salesforce World Tour Tokyo」を都内ホテルとオンラインのハイブリッド形式で開催した。上記の発言はその基調講演で、小出氏が「見せた」ものである。

 同イベントは、Salesforceが2022年9月に米国サンフランシスコで開催した「Dreamforce」を皮切りに全世界の主要拠点でも最新のテクノロジーやユーザー事例を紹介するもので、東京がサンフランシスコに続く2番目の開催地となった。

 その基調講演で小出氏は、「当社の主力製品であるCRM(顧客関係管理)は、9年連続で全世界での市場シェアがナンバーワンだ。日本でももちろんナンバーワンだ」と、図1を示しながら胸を張った。IDCの調査結果をベースにして競合他社との比較を表したこのグラフは、これまでも幾度か目にした、まさにSalesforceのダントツぶりがうかがえる内容だ。

図1:SalesforceのCRM市場での世界シェアの推移(出典:「Salesforce World Tour Tokyo」での提示資料)
図1:SalesforceのCRM市場での世界シェアの推移(出典:「Salesforce World Tour Tokyo」での提示資料)

 続けて同氏は図2を示し、「Salesforceの売上高は2023年1月期で310億ドルの見込みとなっている」と述べ、外部から「社会貢献のリーダー」「イノベーションのリーダー」「企業文化のリーダー」と評価されていることも紹介した。

 その内容もさることながら、図2において筆者が注目したのは、タイトルにある「世界最大のエンタープライズアプリケーション企業」という表現だ。実は、この表現については、小出氏は口にしなかった。だが、自ら紹介している図のタイトルに掲げているということは、すなわち自らの発言だと捉え、今回の「明言」として取り上げた次第である。

図2:売上高の推移(出典:「Salesforce World Tour Tokyo」での提示資料)
図2:売上高の推移(出典:「Salesforce World Tour Tokyo」での提示資料)

 世界最大のエンタープライズアプリケーション企業はどこかと問われれば、SAPが思い浮かぶ。そうした中で、Salesforceが自らをそう表現したのはなぜか。それは、小出氏が説明した「Salesforceの売上高は2023年1月期で310億ドルの見込み」というのが、SAPの2022年12月期の売上高見込みを上回る可能性が出てきたからだ。上記の表現は、それを見越したものと見受けられる。

 Salesforceはこれまでの成長過程の中で、世界のソフトウェア市場で売り上げ規模のシェアが4位になった時も、盛んにそのことをアピールしていた。上位には、Microsoft、Oracle、SAPといった有力ブランドが名を連ねており、Salesforceは4位になったことよりもそうした有名ブランドに仲間入りを果たしたと受け止めている印象を当時、強く感じた。

 そう推察すると、今回、世界最大のエンタープライズアプリケーション企業と掲げたのも「SAPをキャッチアップした」との思いを込めたものと捉えることができよう。

 さらに、2位のOracleとは年間の売り上げ規模でまだ100億ドル超の差があるが、売り上げ規模そのものでは、Oracleの4分の3を占めるところまできた。筆者はSalesforceの規模がまだ小さかった頃、「いずれはOracleに買収されるのではないか」と幾度か記事にも書いたが、もはやそれはあり得ないだろう。

 Salesforceは「クラウドサービス専業最大手」という代名詞がよく使われるが、もはやソフトウェアメーカーの代表格でもある。同社創業者で会長 兼 CEOのMarc Benioff(マーク・ベニオフ)氏は、クラウドサービス専業と共にソフトウェアメーカーとしてのこだわりも強い印象があるので、今回の話は感慨深いのではないだろうか。

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