OracleによるSiebel買収の本質

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2005-09-19 12:54:59

9月12日、OracleによるSiebel買収のニュースが流れた。その日は、SiebelのライバルであるSalesforce.comのユーザー・カンファレンス開催日でもあった。同じ日になされた両社のアナウンス、すなわち、OracleによるSiebelの買収と、Salesforce.comによる新サービスAppExchangeの発表は、両社の対極的な戦略を象徴している。

OracleによるSiebel買収

OracleはSiebel買収により、既存のOracle、PeopleSoftのCRMに加え、3つ目のCRMソフトを持つこととなる。Oracleは、その3つ中でもSiebelをCRM戦略の中心に据え、Oracleの持つアプリケーション群との統合を図る「Project Fusion」に組み入れる方針だ。

Oracleは、このアプリケーション統合化の妥当性を裏付けるものとして、顧客のニーズを挙げている。先のZDNet記事から、Oracle CEOであるLarry Ellisonのコメントに触れた部分を引用してみよう。

Oracleの最高経営責任者(CEO)Larry Ellisonは、今回の買収について、パートナー各社や顧客企業からの要望に誘発されたものだと述べた。同氏によると、顧客の1社であるGeneral Electric(GE)では、アプリケーションの調達先を1社に絞り、統合プロセスも簡略化したいと考えているという。

また、Siebelサイドも顧客が「統合スイート」を欲していることを今回の買収正当化の根拠の一つとしている。つまり、Oracleの戦略は、アプリケーションの統合化により、更にアプリケーションの価値を高めようというものだ。

Salesforce.comの新サービスAppExchange

一方、OracleがSiebel買収を発表した日に、Salesforce.comが発表した新サービスAppExchangeは、オープンソースのサービスモデルを取り入れたものである。つまり、Salesforce.comは、AppExchangeを通じて、ユーザー企業やパートナー企業が開発したアプリケーションを、自由に選んで利用できるようにするプラットフォームを提供する。パートナー企業の開発したアプリケーションは有償ということだが、ユーザー企業同士がアプリケーションの無償供与を行えるという発想自体、これまでのソフトウェア・ベンダーにはないものである。

今回のSalesforce.comの新サービスが象徴するのは、オープンな環境での疎結合モデルである。Salesforce.comが「統合」という言葉に無縁であるかと言えば、そんなことはない。ただし、ASPモデルであるSalesforce.comが可能とするのは、Webサービスを利用した疎結合であり、Oracle-PeopleSoft-Siebelが想起させる密結合とは異なるものである。Salesforce.comの戦略は、自ら統合されたシステムを提供するのではなく、疎結合が可能なプラットフォームを提供することと言えるだろう。

Oracle-Siebel統合の行方

OracleとSiebelの共通点は、共にそれぞれの事業領域ではハイエンドの顧客をターゲットとしている点である。それゆえに、どちらの事業領域にも低価格の競合ベンダーがあり、また、オープンソースの波が押し寄せつつある。そうした中で、既にハイエンドに位置づけられる両社製品を統合することは、複雑性の増大を伴った高度化ということになる。その場合の課題は、Larry Ellisonの引用するGEほどの企業がどれほどあるのか、ということだ。

ここで想起されるのは、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」であり、大手顧客のニーズに忠実であるがゆえに、相対的には劣るが必要十分な機能を備えた低価格ベンダーに市場を奪われるという構図である。(クリステンセンは古くならないですね)

ここで低価格ベンダーを象徴するのがSalesforce.comとなる。OracleやSiebelがオープンソースから逃げるかのように製品の高度化へ邁進するのに対し、Salesforce.comはオープンソースのモデルを取り入れて、むしろそちらへ近づこうという素振りを見せる。

オープンソースやサブスクリプション・モデルが顧客に受け入れられる理由の一つは、ベンダーへのロックインの度合いが低いことにある。そうした流れが強まる中、OracleによるSiebel買収が成功するか否かは、プロダクト群の統合方針に依存するところが大きいのではないか。通常にイメージされる密結合を目指すのか、あるいは、よりオープンな疎結合を目指すのかで、その結果は大きく変わってくるだろう。大手顧客に忠実でありながら、いかにして新しい流れを取り込むか、という難しい課題である。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

2件のコメント
  • Kimoko

    OracleとSalesforce.comのビジネス戦略の対比が面
    白かったです。

    会社の対比ではなく、SI会社なんかでは、プロダクトオ
    リエンテッドの考えと顧客オリエンテッドの考えが同一
    社内に同居していることは往々にしてあると思います。

    OracleやSalesforce.comのようなある意味わかりや
    すいプロダクトを中心として顧客戦略を考える会社と違
    い、SI会社は、ITをコアにした顧客サービスをビジネス
    の中心に据えているために、基本的には顧客の求める最
    適なソリューションを提供する必要がある一方、利益率
    の高い自社プロダクトビジネスにも重点を置かざるを得
    ないという、場合によっては、社内利益相反な状態に陥
    ることが良くあると思います。

    こういう時は、組織力学など何らかの作用で、顧客の要
    望か自社プロダクトかが決まったりするんだろうなぁ、
    とは思いますが・・・。

    顧客サービスをコアとしてプロダクトを持たないコンサ
    ルティング会社とプロダクトを販売するシステム会社の
    中間に位置するSI会社は、そういう意味では、戦略的な
    ポジショニングが非常に複雑で難かしいとは思います。

    世間を見渡すと、プロダクトを核として顧客サービスを
    付加価値として提供する会社と顧客サービスを核とした
    会社が同じビジネスをしているように見えますが、そも
    そもの収益構造が異なることを考えると何らかの舵取り
    が必要なのだろうと思います。

    ユーザ(顧客)から見たら、ある程度会社の位置付けがは
    っきりしているSI会社の方が選定しやすいでしょうね。

    2005年09月21日

  • 415

    かなりわかりやすい二極化の事例ですね。

    ハイエンド・ローエンドというだけでなく
    背景にはユーザ側の矛盾したニーズもあるのではないかと
    考えました。

    ベンダが一社に集中し過ぎると
    最終的に競争が働かなくなりユーザにとっても
    不利益であるという側面、
    逆に一元化することで負荷をさげる、
    ボリュームディスカウントを期待するという側面。
    どちらの選択肢もユーザにとっては魅力的だと思います。

    ここまで端的に二極化したCRM市場の中で、
    顧客がこのバランスをどう取っていくのかにも
    着目していくと面白そうです。

    それにしても疎結合、密結合というのは非常にいいですね。
    イメージしやすいです。

    2005年09月21日

SpecialPR