ヒゲソリはSchick、プリンターはCanon

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2005-11-23 11:29:51

1ヶ月前に吉祥寺を歩いていたら、ヒゲ剃りを貰った。正確には、替刃式のヒゲ剃りのホルダーに刃が1つ付いたものを貰った。別に流行のバズ・マーケティングを狙ったキャンペーンなんかではない。男が「髭剃りはやっぱりSchickだよね」とかいう会話を交わすことはないのである。

貰うのは2回目、刃の枚数も2倍

私の後ろで貰った人は、「やった〜、得した」と喜んでいたが、貰うのが2回目である私は、「あぁまたやられてしまった」と思うのである。前回貰ったのは5年前か、あるいはもっと前だったかもしれない。前回は渋谷、やはりShick。その時は2枚刃であった。そして今回は何と4枚刃。5年以上も使っているヒゲ剃りのホルダーは、いい加減汚い。だから新しいのを貰ったら、やっぱり古いのは捨てる。

そして、そろそろ刃を替えたいなと思ったときに、改めて思うのである。あぁ、また完璧にロックインされたと。ヒゲ剃りホルダーなんて、何個も買うわけないし、タダでもらったんだから、それを使い続けるものである。そして今回、刃が増えた分だけ替え刃も高い。そして、当然のように、ITっぽく言えば、下位互換性はないのである。つまり、2枚刃は4枚刃用のホルダーには装着できない。

プリンターのカートリッジ

このヒゲ剃りの話で連想してしまったのが、プリンターのカートリッジである。先日(10/31)の日本経済新聞朝刊にキャノンが、カートリッジのリサイクル品を販売する業者に対して訴えを起こしているというニュースが取り上げられていた。同様のニュースがHPでもあった。結構前から議論されているテーマだが、プリンター・メーカーが特許を保有するプリンター・カートリッジに、インクを再充填してリサイクルするのが特許侵害に当たるのか否かという話である。

リサイクルといえば、環境に易しく良い話と思えるが、プリンター・メーカーにとってはビジネスモデルが崩れるのでまずいのである。プリンターは、一度買えば当面同じものを使い続けることになり、その間は何度もインクカートリッジを買い換える。先ほどのヒゲ剃りの替刃と一緒である。つまり、ロックインされてしまうのだ。それゆえに、プリンタ本体の価格を抑えつつ、カートリッジで収益を上げるというモデルは、ビジネスとしては十分合理的なのである。

プリンターは、購入時にカートリッジがいくつか付いてくるので、カートリッジが意外と高いことに気が付くのは購入後しばらく経ってからとなる。だからといって、消費者に安いリサイクル・カートリッジを買われては困るのである。なぜなら、プリンター・メーカーは、カートリッジからの収益をビジネスプランに盛り込んでいると思われるからである。ヒゲ剃りホルダーを無料で配ったのに、誰も替刃を買ってくれない、といったような状況になってしまうのだ。

顧客ロックインの限界

とはいえ、最近は写真を家で印刷することも多くなって、プリンターのヘビーユーザーもかなり増えたのではないだろうか。とすると、消費者の側も賢くなって、プリンターを初期コストだけでなく、カートリッジも含めたランニングも合わせて見るようになってくる。環境への意識も徐々に高まり、ごついカートリッジが使い捨てという方が不自然に見えてくる。そんな違和感を感じるポイントが、ロックイン戦略の限界ではなかろうか。

ならば、いっそのこと、カートリッジの仕様を公開して、いろいろな会社にカートリッジを作らせてカートリッジの低価格化を推し進めるメーカーが出てこないものだろうか。そのかわり、このプリンターメーカーはカートリッジからの収入が限定的となるため、プリンターの値段を上げることになる。でも、ヘビーユーザーなら、カートリッジの安いこのプリンターを買うかもしれない。

顧客をロックインする戦略というのは、ある一定のレベルまでは供給側のビジネスモデルを安定させ、顧客側と供給側の双方にメリットをもたらす。しかしながら、それが一定のレベルを超えると顧客側には徐々に不信感が芽生え始める。そんなポイントが、ロックイン型ビジネスがそのモデルを転換すべきタイミングなのかなと思う。これは、今のIT全般でまさに起こりつつあることでもある。

ところで、ヒゲ剃りの替刃ももうちょっと安くならないものですかね。5年後には8枚刃にロックインされてしまうのでしょうか?

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

5件のコメント
  • e-Tetsu

    ヒゲソリとの付き合いもいろいろあるようですね。
    DELLのように、インクが減ってくると注文画面が出てくるというのは、オペレーショナルな技ですね。中身や特許ではなく、オペレーションで勝負するDELLらしいやり方です。他のメーカもやってるんですかね?

    2005年12月04日

  • とある大馬鹿者

    ヒゲソリはSchick、プリンターはCanonではなくEPSONですが、
    ヒゲソリに関しては数種類使っていたりします.
    それはさておき、プリンタメーカーはそろそろインクカートリッジではなく
    中身のインクで儲ける様になって欲しいです.
    プリンタが幾ら高性能でも、カートリッジに当たり前のインクを詰めて
    売っている限り、永久にこうした問題は付き纏うでしょうから.
    私が使っているエプソンのPXシリーズは、全色顔料インクを採用していて、
    それ故のデメリットもありますが、カートリッジはともかくとして
    中身が専用のインクでなければ機械を壊す可能性もあります.
    インクの製造に特殊な技術やライセンスが必要になれば、
    「リサイクル品」や「模倣品」の流通を幾らか防げると思いますし、
    純正インクの優位性が明白で、それが消費者に認知されれば
    そもそも非純正品が商売にならなくなるのではないでしょうか.

    2005年12月02日

  • とおりすがり

    CDやMDは一般的なメディアとして規格化しています。
    髭剃りはなんとなくそうはならない気がします。
    プリンタはどちらでしょうか?

    CDが機械ごとに使えないと著しく困りますが、
    Schickの替え刃が、貝印でつかえなくても
    そんなには困らないです。
    プリンタも、困らないように思います。

    とても感覚的な話ですが、どれも互換性があったら便利ですが
    互換性がなくて困るかといわれるとそうでないものもありますね。

    規格化されるものは、それ自体が社会的インフラを担うものである
    といえるかもしれません。

    ITビジネスにおいてもニッチな部分にビジネスがあったりするのは、
    それが規格化されない領域であるからと考えられます。
    規格化が必要なものはニッチなものが一般化していくタイミング、といえると思います。

    2005年11月30日

  • zak

    私も原宿でSchickをもらって同じ事を考えました。
    MBA病ですね・・・。

    SIのロックインといえば、やっぱりIBMじゃないでしょうか。
    Eclipseをタダにしましたが、ちゃんとWebSphereへの水路を工事していたり、Rationalを買収してリンクさせよう
    としてみたり、うまくいってるかは別にして極めて戦略的だと思います。
    開発環境は技術者にとってロックイン効果があるといいますか、スイッチングコストが高いですからね。

    確かに、最近流行の「デュアル・ライセンス」もロックインになりうるでしょうね。

    既存の国内SIerでそれが難しいのは、どうしても変動費型管理(コストと売上を一致させたい)から離れられず、このような先行投資を許せるカルチャーが育成されにくいといったところがあるからじゃないでしょうか。戦略差別化がしにくいのもこれが原因かも・・・。

    2005年11月28日

  • manutd04

    私はBraunの電動モノを使いますが、このビジネスモデルがまた素晴らしい。ひげそりの交換部品が高いのはもちろんのこと、最近は殺菌機能付きアルコール洗浄剤も消耗品として純正品を高く売っており、顧客単価アップが図られています。また、Braunはブランド力があるので、ひげそり本体も他より高く売れたりして、ダブルで儲かってるでしょうね。素晴らしい。

    さて、プリンターカートリッジ仕様公開と同じような概念はCDプレーヤー、DVDプレーヤー、古くはVHSなどに見られると思います。CDやDVDなどのメディア仕様は統一(+Rやら-Rやらありますが)されているので、多数メーカーがメディアを販売しています。ハード側を見ると、かつて10万円もしたCDプレーヤーは今や数千円、DVDプレーヤーも1万円切ったりしますので、中国企業や船井電機じゃないと儲けは出ません。VHS然り。

    やはり誰も好んでこの状態(perfect competition)になりたくないのでプリンターカートリッジ仕様を公開する輩はなかなか出て来ないのではないでしょうかね・・・その意味ではApple ipodがWindows Media PlayerやMP3と互換性のない仕様にし、圧縮技術仕様を公開しないのも同じかと思います。

    ITのロックインはAdobeのAcrobatモデルが美しいですが、こんなモデルをSIの世界でも適用できないんでしょうか?保守・メンテでのロックインではなく、補間関係にあるシステムやソフトの低価格(無償)提供と高価格(有償)提供や有料バージョンアップなど・・・

    2005年11月26日

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