マイクロソフトのクリスマス・プレゼント - Office Open XML

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2005-12-25 12:28:12

マイクロソフトがMS OfficeのファイルフォーマットであるOffice Open XMLを、標準化団体であるECMA Internationalに提出した。これを受けてECMAは、Office Open XMLに基づく標準を策定するための委員会を設置したという。この話だけを聞けば、いよいよマイクロソフトも標準化の流れに乗ったかとも受け取れるが、SUNとIBMは、このクリスマスプレゼントを受け取る気はなさそうだ。(関連するニュースはこちら)

ファイルフォーマットのランドスケープ

SUNとIBMが反対するのにも訳がある。両社は、同じく標準化団体であるOASISにおいてOpenDocumentと呼ばれる標準フォーマットの普及を推し進めているのである。SUNは、自らののオフィス・スイートであるStarOffice(日本ではStarSuite)においてOpenDocumentをサポートしているし、IBMもデスクトップ製品において採用する意向である。また、オープンソースであるOpenOfficeもOpenDocumentを採用している。一方、マイクロソフトは、OpenDocumentをネイティブサポートする意向はない。

これではまるで、標準化団体もその役割を果たしておらず、単なる代理戦争の様相を呈していると言わざるを得ない。そして、その顔ぶれを見ると、それは、マイクロソフト対アンチ・マイクロソフト連合とも解釈できるし、マイクロソフト対オープンソースとも読める。しかし、今回の争いの本質は、プロプリエタリー対オープンと捉えるべきだろう。

ここで注意すべきは、プロプリエタリーが必ずしもマイクロソフトのみを指すわけでは無いことだ。Office Open XMLもOpenDocumentも、双方が互換性を担保するまでは、共にプロプリエタリーである。つまり、IT業界としてドキュメントの標準化に踏み切れるか否かが問われていると言える。

ファイルフォーマットの意味

ファイルフォーマットの標準化を通じてこれだけ揉めるのは、それが典型的な囲い込み戦略の一環として利用されてきたからに他ならない。ファイルフォーマットには、ネットワーク効果が強く働くため、同じフォーマットを共有できる人が多ければ多いほど、そのフォーマットをサポートするオフィス・スイートの価値は高まる。ユーザーが多ければ多いほど強いということだ。

そして、一度、特定のフォーマットで作成されたドキュメントの数が増え始めると、他のアプリケーションに切り替えることのスイッチングコストが高まり、ユーザーは特定のソフトウェアへとロックインされる。故にマイクロソフトの切り崩しは容易ではない。

しかし、ファイルフォーマットが標準化されれば、ファイルフォーマットによってユーザーが特定のソフトウェアにロックインされることはない。つまり、マイクロソフトの牙城を切り崩すことも夢ではなくなるのである。

推移する戦場

一方、マイクロソフトもこれ以上ロックイン戦略で、ライセンス収入を上げ続けることが出来なくなることは予測している。先日のBill Gatesのメモはそれを象徴している。また、オフィス・スイートがオープンソースとして提供されつつある現実を見るにつけ、一般ユーザーの利用するデスクトップ・アプリケーションの機能はかなり限定的で、それらは既にコモディティ化していることが汲み取れる。

ゆえに、マイクロソフトによるドキュメントフォーマットの公開は来たるべくして来たものである。マイクロソフトの課題は、むしろ、いかにその移行プロセスをマイクロソフトにとって有利なものとして進められるかにあると言える。つまり、ライセンスモデルからサブスクリプション、あるいは広告といった新しい収入モデルへの移行をいかにスムースに進められるかが重要なのである。

仮に、ファイルフォーマットの標準がOpenDocumentとなったならば、Office製品のシェア縮小のスピードが速まり、移行プロセスは急激なものとなる。一方、Office Open XMLがスタンダードとなれば、それを既にサポートしているOffice製品の方が有利であることは間違いなく、移行プロセスはゆっくりしたものとなるだろう。

標準化の新しい次元

今回の標準化議論は、異なるフォーマットの互換性に関する議論ではない。これまでは、囲い込みの道具としてお互いに開示することのなかった、フォーマットそのものの標準化という議論である。故に、本来であれば、囲い込みの議論とは無縁のはずである。

しかし、ぶつかり合う2つの標準が、顧客囲い込みを議論の中心に据えているとすれば、これはまだプロプリエタリーな世界での争いということとなる。一方で、オフィス・スイートがオープンソースとして提供されつつある状況を鑑みれば、ベンダーが顧客ロックインの道具として今回の標準化を捉えることは非常に危険である。

もし、マイクロソフトが標準化団体をコントロールして、フォーマット標準のイニシアチブを握り続けるようなことがあれば、きっとユーザーから厳しい反発を受けることになるだろう。しかし、同様の罠に、OpenDocumentサイドが陥る可能性だってある。ポイントは、今回の戦いが、プロプリエタリー対オープンであることを忘れないことだろう。

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