個人の力で市場を予測できるか

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-04-02 23:30:52

野村證券が個人投資家の株式市場への相場観を指数化して4月から毎月公表するという(日本経済新聞 3/30 1面)。「ノムラ個人市場観指数」と呼ばれるそうだ。インターネットで個人投資家1万5千人にアンケートを実施し、1千人分集まると公表するという。株式市場における個人投資家の影響力の強さを反映したものとも読めるが、さて、個人の相場観を集めると有意な情報となるのだろうか?

株式市場は2.0的

そもそも取引市場というのは、ビッドとオファーを集めて取引を成立させることで手数料を受け取るもの。参加者からの情報を集約し、その上にビジネスを成り立たせているという点で、実に2.0的なビジネスモデルだ。そして、それがネット経由で行えるようになったことで、個人投資家の影響力が増大した。

とはいえ、市場価格は当然のことならが、個人投資家のみならず、機関投資家やヘッジファンドなどの意向も反映されて決まってくる。情報に透明性があるという前提において、様々な視点から企業価値が測られ、最終的に形成される価格はその企業価値を表しているというのが建前となる。

そこから、仮に個人投資家のみを切り出して、その市場観を捉えるとどのようになるだろうか? 影響力は大きくなったとはいえ、市場を形成する要素のあくまで一部分である。そこで考えてみたいのが、果たして個人の集合知は正しいのか正しくないのか、という点だ。

Web上の情報伝播

そのときに前提としなくてはならないのが、個人間での情報伝播ルートとしてWebが存在し、個人の市場観形成もその制約を受けるということだ。さて、Web上での人々の繋がりが6次以内である、つまり5人の人を経由すれば6人目までには、Web上の誰とでも繋がっている、といわれている。こうしたインターネットの持つネットワーク特性は市場観の形成にどのような影響を与えるだろうか?

『複雑な世界、単純な法則』によると、こうしたネットワークを作るには二つの方法があるという。一つは、人々をその周辺の人々とのみ繋げて、均等なネットワークを作り、その上に距離の離れた人々を繋ぐイレギュラーな線を何本か加えるというもの。これによって遠く離れた人と人を繋ぐブリッジが出来上がり、どんな人とも6次以内で繋がるようになる。もう一つは、ネットワーク上にコネクションが集中するハブを配置すること。つまり、繋がりは特定の人に集中し、ネットワークの均質性は失われる。ただし、そのハブを経由することで、他の人たちとの距離が短縮される。

さて、容易に想像がつくと思うが、Webは後者の特性が強いネットワークである。均等なネットワークではなく、ポータルであるとか著名なブロガーであるとかがネットワークのハブとして機能しており、それ以外のサイトのコネクションは決して多くない。

集合知の力

さて、Webがそうしたネットワークであるとしたとき、個人の株式相場観はどのように形成されるだろうか。集合としての知が機能するための条件として、各個人が一定の独立を保っている必要がある。もし、全員が同じ情報に基づいて行動するのでは、知を集約する意味がないからだ。個々人が異なる情報を持ち、それらをぶつけることで正しい判断力を得ることが出来る。

しかしながら、先ほど見たように、Web上の情報伝播はハブを経由するのが一般的であるため、著名な情報発信者の影響を多くの人が短期間に受ける可能性がある。従って、インターネットにおいては多くの人の意見を容易に発信することが可能な一方、多くの人の意見が特定の人の意見に影響を受け易いという、矛盾した要素が共存している。

集合知は働くだろうか

とはいえ、インターネット上の情報伝播がどの程度まで個人の独立性を維持し、どの程度まで特定の個人の影響を受けるのかは判らない。野村證券がこれから発表する個人投資家の相場観が果たしてどの程度まで実際の市場の動きを予測することになるか。その乖離の度合いにより、株式市場の予測に関して個人の集合知がどの程度機能しているのか見えてくるかもしれない。

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