DellのLinuxビジネスとサッカーのシャツビジネス

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-06-11 11:02:18

さて、ワールドカップ。イングランドは無事第1戦をものにした。

私がかつてイギリスはマンチェスターへ移り住んだとき、実はサッカーになど興味はなかった。しかし、マンチェスターといえば、あのManchester UnitedにManchester Cityと2つのプレミアチームを擁し、試合のある日はそれぞれのチームシャツを着込んだ老若男女が街中をウロウロしている。でかい試合のある日など、パブは当然のごとく立錐の余地もない。ほとんど避けようがないくらいに、生活に密着しているのである。

ちなみに、Manchester Cityのファンの方が地元色が強く(つまり怖い)、Manchester Unitedのファンの方が洗練されている感はある。Manchester住民からしてみると、Unitedはもう自分達のものではないのである。また、スタジアムの警備は、対戦相手によってそのレベルを変える仕組になっている。当然ながら、近隣クラブとの試合の方が、警備レベルが高い。Manchester Cityとの試合はもちろんのこと。

ちょっと脱線したが(そもそも最初から脱線しているという話もあるが)、更に面白いことに、サッカー・ビジネスがMBAの授業の題材として取り上げられ、Manchester Unitedの幹部が講演に大学を訪れ、しまいには学生はManchester Unitedへインターンシップに行ってしまうのである。つまり、サッカーはビジネスとしてもしっかりとイギリス経済に根付いているのである。

シャツビジネス

さて、そんなことからサッカーに強制的に馴染まされてしまった私は、帰国する頃にはManchester UnitedとEnglandのサッカー・シャツをしっかりと買い込むに至る。しかも結構高い。確か1枚50ポンドくらい(1万円)する。更にひどいことに、期限付きなのだ。つまり、定期的にデザインが変わるのである。

サッカー・シャツのデザインが定期的に変わるということ自体は不思議ではない。ワールドカップ日本代表だって、毎回新しいデザインのシャツで行くわけである。しかし、あまり頻繁に変えられてしまうと、例えばサッカー好きの子供を持つ親からすると堪らない。その度に新しいシャツを買ってくれとせがまれるのである。

一方、ビジネスサイドからすると、シャツが一通りファンに行き渡ってしまえば、誰もが持っているコモディティ商品となってしまい付加価値も下がる。普段から着るものではないので、買い替え需要もほとんどない。壊れない家電みたいなものである。そこで、ビジネスサイドとしては需要を作り出さねばならないので、定期的にデザインを変えるのである。チームのブランド力が強い限りにおいて、この作戦は通用する。スポーツがブランドビジネスと言われる所以である。

DellのLinuxビジネス

さて、Dellである。Dellと言えばWintelベースのサーバー製品という印象が強いが、先週見かけたCNETのニュースによると、「Linuxが法人顧客からの売上の4分の1を占めるようになった」のだと言う。

Dellはここ最近、自ら徹底的にコモディティ化を仕掛けたPCサーバーの価格下落に苦しみ、やや成長力に陰りが出てきていた感がある。一方でR&D投資を増やしてハイエンド市場へ参入するというのは、Dellのビジネスモデルとは相容れない。言うなれば、古いデザインのシャツがいい加減行き渡ってしまって、今度のデザインはどうしようかなぁといった状況である。

そんななかで見えてきたLinux売上の増加というのは、興味深い流れである。Linuxベースのサーバーと言えば、HPやIBMが力を入れているという印象が強いが、今回の報道によると、Dellはサポートサービスについても、「Red Hat LinuxのディストリビューターであるRed Hatの力を借りずに、同オープンソースOSに関するサービスの問い合わせの90%以上を処理できる」ようになったという。

これは、Dellにとって見れば、新しいデザインのシャツという話であるが、他のサーバーベンダーからしてみれば、自分達のシャツのデザインをそろそろ変えないとまずいという話である。Dellが主力製品として取り扱うということは、オープンソースであってもLinuxは最早特殊なものではなく、それを取り扱うこと自体の付加価値が今後徐々に低下する可能性を示唆する。いよいよLinuxもLate Majorityの時代へと入っていくのかという印象だ。

ITビジネスとサッカー・ビジネス

サッカーのビジネスは、その売上がチケット収入ではなく、多分にその周辺領域、つまり放映権であったり、シャツに代表されるような関連商品売上に依存している。つまり、クラブの持つブランド力が収益の源泉となるビジネスである。それゆえに、ブランド力が強い限りにおいて、シャツのデザインを変えれば需要が創出される。

一方、ITビジネスはブランド・ビジネスではない。特にエンタープライズ層においては。古いマシンをディスコンにすれば、顧客が喜んで新しいものに買い換えるということはない。そこには、必ず顧客ビジネスへもたらすバリューによる正当性が伴う必要がある。デザインを変えるだけでは駄目なのである。そこが、難しいところでもあり、面白いところでもあるのだが。さて、Dellの新しいシャツは売れるだろうか。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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