ちと古いネタで恐縮であるが、半年ほど前に会社の先輩が引越した。厳正なる比較の末に選んだ引越業者が「プロレス運輸」。「プロレスラーが運ぶのか?」と問えば、「否」と言う。でも、新日本プロレスと提携していて、藤波辰巳や獣神サンダーライガーの色紙が貰えるんだそうだ。「では、プロレスラーが運んでくれる引越業者は無いのか?」と問えば「それは、レスラーズ運輸だ」と。さすが先輩、即答である。
さて、今日のテーマはイノベーション。せっかく読んだジェフリー・ムーアの「ライフサイクル イノベーション」の知見を活かして「プロレス運輸」と「レスラーズ運輸」のイノベーション戦略を紐解いてみる。
両社の置かれているのは引越業界。別に詳しくないけど、肌で感じる限りにおいて、激しい価格競争に晒されるマチュアな市場と推察される。とはいえ、需要が無くなるわけでもないので、衰退もしていない。ジェフリー・ムーアは市場を大きく「成長市場」「成熟市場」「衰退市場」に分けているが、引越業界はきっと「成熟市場」だ。
そこへ引越業界にイノベーションをもたらそうとして登場した2社。プロレス運輸は、プロレスラーが運ぶ訳では無いのだが、プロレスラーの強そうなイメージでブランド力を強化した。ジェフリー・ムーアの言うところの「マーケティング・イノベーション」である。ムーアはその著書においてはナイキを例に引き、同社がマイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズをブランド・イメージ構築に役立てたとしている。プロレス運輸であれば、藤波辰巳と獣神サンダーライガーがそれに相当する。
一方のレスラーズ運輸。こちらはプロレス業界から引越業界へ参入したが故に、荷物をプロレスラーが運んでくれる。プロレスラーを製品と捉えれば、それをプロレス業界というマーケットから引越業界というマーケットへ適用したということになる。つまり、既存製品を新市場へ持ち込んだということで、ムーアの定義であれば「アプリケーション・イノベーション」という事になる。でも、待てよ。ムーアの説明だと、「アプリケーション・イノベーション」は成長市場におけるイノベーションのパターンだから、成熟市場である今回のケースには当てはまらない。プロレスラーが運んだからといって、引越業界が大きく成長する訳でもないし、引越業者の人たちはプロレスラーほどでないにしろ、そもそもタフなのだ。
とすると、何か。「顧客エクスペリエンス・イノベーション」である。このカテゴリーで一番最初にムーアが取り上げている事例はディズニーランドである。競争激しいテーマパークの中でも、映画のシナリオなどを活かした独特の顧客エクスペリエンスによって競合他社との差別化を図っている。レスラーズ運輸も、プロレスラーが運んでくれるというエクスペリエンスが独特であることは間違いなく、それを他の業者が真似ることは容易ではない。
「ライフサイクル・イノベーション」はコモディティ化の激しいテクノロジー業界に主たるフォーカスを当てた本だが、プロレス運輸とレスラーズ運輸のイノベーションを見てみると、なんか勇気が湧くのである。引越業界に今から参入するなんて、普通に考えたらやらないだろう。サカイとかダックとかアートとか、競合ひしめく中で生き残っていけるものなのか?とても楽とは思えない。そんななか、同じ「プロレス」をキーワードにしながらも異なるイノベーションで引越業界にチャレンジする2社には脱帽である。テクノロジー業界だって、まだまだ頑張りようはあるでしょう。
本当は「ライフサイクル イノベーション」の書評を書こうと思ったのですが、プロレスの話では無理がありました。またの機会に。。。
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