顧客が仕掛けるオープン・スタンダード戦略 - JPMorgan Chase vs IBM

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-07-05 00:13:48

メッセージングに関わるスタンダード策定の話題。それ自体はいかにもありそうな話だが、今回のプロジェクトの仕掛人はベンダー側ではなく、ユーザー企業側である。しかも金融業界のパワープレーヤーであるJPMorgan Chase。さて、この動き、IBMを含むメッセージング・ミドルウェアのベンダーにとっては聞き捨てならない話と思われるが、どのように理解すれば良いのだろうか?(記事の詳細はCBR誌の"JPMorgan leads move to commoditize messaging"を参照されたい。)

JPMorgan Chaseによる標準化プロジェクト

さて、記事によればJPMorgan Chaseの意図は、アプリケーション間のメッセージングに関わる標準化を実現することにある。そのために、JPMorganのJohn O'Hara氏はCiscoなど複数のテクノロジー・ベンダーに加えオープンソースの専門家などによって構成されるプロジェクトを組成し、AMQP(Advanced Message Queuing Protocol)と呼ばれるメッセージング・プロトコルの標準を策定しつつある。

そのユニークな点は、それを単なる社内標準として策定しているのではなく、一般に開放されることを前提にオープン・スタンダードとして策定している点にある。記事はO'Hara氏のコメントとして以下のように引用している。

"the standard is NOT controlled by JPMorgan (any more)" and "copyright is owned by all the contributors, but the license is immediately granted to all in the spec, including any necessary patent rights. This is open to stay open, and cannot be retracted."

つまり、JPMorgan Chaseによって始められたプロジェクトであるものの、そのアウトプットはJPMorgan Chaseのものではなく、またそのコントロールも受けないということである。

メッセージング・ベンダーへの挑戦

さらに、記事の中では、O'Hara氏がプロプリエタリーなメッセージング・ミドルウェアを開発するベンダーに対して、策定される標準に準拠することを呼びかけている。ベンダーとしては、それぞれ同分野において主導的な役割を果たしているIBMやTibcoの名前が挙げられている。今のところ、各ベンダーともに、今回動きに対しては静観する姿勢を保っているようだ。

今回、JPMorgan Chaseが、あえてメッセージング・ミドルウェア・ベンダーに対して挑戦的な行動に出ている背景には、サービス指向アーキテクチャーを実現するための自由度を高めたいということがあるようだ。

The AMQP initiative derives from the perception that the lack of a standard message-queuing protocol not only leaves the way open for proprietary tie-ins, but also has been an obstacle to the widescale adoption of service-oriented architectures and web services.

JPMorgan Chaseの懸念は、メッセージング標準の欠如が、結局はベンダー・ロックインに繋がり、真の意味でのSOAの実現を阻むというものだ。サービス指向アーキテクチャーは、今やあらゆるテクノロジー・ベンダーがキーワードとして掲げるが、最終的にはアプリケーション連携のレイヤーにおいて、そこで採用する基盤に依存することは否めない。つまり、特定ベンダーのプラットフォーム上におけるSOAは実現できても、異なるベンダーを跨ってのSOAはやはり実現困難なのではないか、というのがJPMorgan Chaseの言わんとするところであろう。

ユーザー企業によるオープン・イノベーション戦略

今回のJPMorgan Chaseの動きで面白いのは2点。1つは、テクノロジー領域におけるスタンダードを顧客サイドが主体となって実現しようとしている点。例えば、オープンソース・プロジェクトは、開発者、テクノロジー・ベンダー、顧客企業、誰もが参加できるが、やはりテクノロジーの提供者側である開発者やテクノロジー・ベンダーが主体者であることが多い。それに対して、顧客企業側がメッセージング・ミドルウェアの領域にイノベーションを起こすべく、自らがメッセージングに関わるスタンダード策定を主導したことは注目に値する。

2つ目は、策定されるスタンダードをオープンなものとすることで、オープン・コミュニティの力を活用しようとしている点。ベンダーと協力して社内標準を策定するなら普通の話であるが、それを公開して他社へも利用を促し、またプロプリエタリー・ベンダーへも標準への準拠を促していくというのは、注目すべき動きだろう。

ITビジネスとは、オープン化とコモディティ化に翻弄されながらも、レイヤーを移動させつつ顧客ロックインによる収益確保を実現してきた。その安定が崩れるのは、テクノロジーのコモディティ化に伴い、他社との競合が激化することによるのが一般的であったが、JPMorgan Chaseの動きは、それが顧客セクターからも訪れることを示唆している。まさに、イノベーションのオープン化である。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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