「キレンジャーカレー」と製品イノベーション

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-07-09 14:11:32

最近、個人的にカレーがブームなだけに、このニュースは見逃せない。永谷園がスーパー戦隊シリーズ30作を記念して発売した限定商品「キレンジャーカレー」。プレスリリースからちょっと引用すると、

 

“キレンジャー”は「秘密戦隊ゴレンジャー」の一人で、カレーが大好物の九州男児、なぞなぞが大好きなムードメーカーです。“キレンジャー”をメインキャラクターに起用することで、カレーのおいしさ、楽しさを伝えていきます。

 

う〜ん、楽しそうだ。ここのところ、イノベーションの話題が気になるだけに、この「キレンジャーカレー」の開発経緯も大いに気になるところだ。

さて、前々回に「ライフサイクル イノベーション」の書評をしようとしたものの、題材が悪くて思いを果たせなかった。どうやら今回も書評に適する題材ではなさそうなので、「キレンジャーカレー」の分析に入る前に書評を終わらせておこう。

キャズムを超えたイノベーション戦略論

ジェフリー・ムーアで有名なのは、あのキャズム理論である。今回上梓された新作にもキャズムの考え方を踏襲しているが、テーマは製品ライフサイクル全体に渡るイノベーション戦略となっている。製品のライフサイクルを成長市場、成熟市場、衰退市場に分け、それぞれの市場においてどのようなイノベーション戦略を選択するべきなのか、またそれを遂行するにはどうすれば良いのかを論じている。

企業のポジショニング戦略とイノベーション・タイプ

読んでいて面白いなと思ったのは、トレーシーとウィアセーマによる"Discipline of Market Leaders"(邦訳は「ナンバーワン企業の法則―勝者が選んだポジショニング」)の考えを援用して、イノベーション・タイプを整理していることである。

トレーシーとウィアセーマはその著書において、企業は以下の3つから自分達の拠って立つべきポジションを選択する必要があり、中途半端に全てを実現しようとすれば成功しないと説いた。

 

Product Leadership=製品力で勝負

 

 

Customer Intimacy=顧客志向で勝負

 

 

Operational Excellence=低コストで勝負

 

ジェフリー・ムーアはこれらのポジショニングを、先に述べた市場のライフサイクルと関連付けて説明している。成長市場で求められるのは"Product Leadership"であり、イノベーションも製品力強化に関連するものが求められる。一方、成熟市場においては、"Customer Intimacy"と"Operational Excellence"が必要であり、求められるイノベーションもそれらに関連したものとなる。これまで、ポジショニング戦略を時間軸においては一断面でしか捉えていなかっただけに、市場のライフサイクルと結びつけたムーアの説明には新鮮味がある。

コンプレックス・システムとボリューム・オペレーション

しかし、トレーシーとウィアセーマの主張は、3つのポジショニング戦略から1つを選べというものだ。それに対し、ムーアの説明に従うと、成熟市場では"Customer Intimacy"と"Operational Excellence"を同時に追求することとなってしまう。そこで登場するのが、「コンプレックス・システム」と「ボリューム・オペレーション」という考え方である。ムーアは、イノベーションを考える際に、自らのビジネスが大企業を対象とした、より統合的なビジネスであるのか、あるいは消費者を対象とした、より大量生産的なビジネスであるのか明確にする必要性を説いている。

つまり、それによってイノベーションへの取組みも変わってくるということだ。従って、その著書の全編に渡り、イノベーションの説明はコンプレックス・システムとボリューム・オペレーション毎になされている。先の成熟市場であってもそれは同様であり、"Customer Intimacy"に主軸を置くのはコンプレックス・システム型のビジネスであり、"Operational Excellence"に主軸を置くのはボリューム・オペレーション型の企業ということになる。

「キレンジャーカレー」の分析

さて、それでは「キレンジャーカレー」のイノベーションを分析して終わろう。レトルトカレー市場は、(多分)成熟市場だろう。我々が子供の頃からあるし、常にリテールストアにおいては一定の棚スペースを確保している。消費者向けの商品なだけに、基本的には"Operational Excellence"を狙ったイノベーションが行われるべきであるが、レトルトカレーの市場は"Operational Excellence"は既にやり尽くし、"Customer Intimacy"による差別化戦略へとシフトしているのではないかと推測する。

というのも、例えば中村屋は「インドかリー」シリーズだけで14種類も作っているのである。それ以外にもカレー棚を見るにつけ、結構高価格帯の単品ものが結構並んでいるのに気付く。顧客の微妙な嗜好を捉えた「製品ライン拡張イノベーション」で各社は競っていると言える。では、「キレンジャーカレー」もそうか?

いやいや、そんなことはない。「キレンジャーカレー」には、なぞなぞが裏に書かれたメンコがついているのである。そして、レトロ感を醸し出すためにあえて光沢の無い素材をパッケージに採用しているのである。「キレンジャーカレー」のイノベーションは、スーパー戦隊シリーズを活用した「マーケティング・イノベーション」である。レトロ感を味わえるところには「顧客エクスペリエンス・イノベーション」も少し混ざっているとも言えるだろう。そのイレギュラーぶりで気になってしまったのである。

さて、「ライフサイクル・イノベーション」だが、ポジショニング戦略とイノベーション戦略を併せて検討するには、とても参考になる。いろいろな会社のイノベーションをムーアのモデルで分析してみると面白い。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

SpecialPR