M田君とOracleのスタック戦略 - 「Unbreakable Linux 2.0」の意味

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2006-10-29 18:45:28

M田君の企画提案と言えば、ハサミ型シュレッダー。情報セキュリティーソリューションとして是非扱いましょうというのだが、ボツ(詳細はこちらのエントリー)。

今回は、もっと凄いのを見つけましたと言ってきた。それがこのプロダクト

一体何が違うんだと訊けば、刃の数が5枚から9枚に増えました!! という。あぁ〜、これがM田の単純スタック戦略。同じものをひたすら積み重ねて機能向上を図ろうというもの。別に良いのだが、ボツになったのは性能要件が不十分であったからではないので、やっぱりボツ。

そういえば、この単純スタック戦略にはまっているのが替刃式ヒゲソリのマーケット。1年近く前のエントリーでSchick 4枚刃で驚嘆したことを書いているが、それに対するGilletteは何と6枚モノを出してきた。正確には「5+1」と表現していて、6枚目はピンポイント・トリマーなのだそうである。

とは言っても、私はSchickから貰った4枚刃用ホルダーにロックインされてしまっているので、6枚刃が出たところで容易にはマイグレーション出来ない。そんなことより、ヒゲソリ業界の製品差別化戦略が今後どこへ向かうのかが気になるのである。

Unbreakable Linux 2.0

さて、関係ない話がまた長くなったが、今回取り上げてみたいのは、Oracle Open Worldで発表されたOracleの「Unbreakable Linux 2.0」。これは、OracleがRed Hat Linuxのサポートサービスを提供しようというものだが、ZDNetからの記事を引用すると、「Red Hatのサービスに比べ低コストで、バグの修復が早く、法的な保護も手厚い」のだと言うのである。要は発売元よりも良いサービスを安く提供してしまおうと言うものだ。一体何故そんなことになってしまうのか。そして、Oracleの狙いは何なのだろう?

ここ数年のOracleの関心事は、どちらかと言えばApplication層へ向かうものであった。つまり、データベースのレイヤーよりは基本的には上である。アプリケーション・サーバーの開発から始まり、PeopleSoftやSiebelといった業務アプリケーション・ビジネスの買収と統合といった動きはまだ記憶に新しい。それに対し、今回のRed Hat Linuxへの関心は、レイヤーとしては下に向いたものであるという点で、これまでと異なっている。

その戦略的意味

ビジネス・ラインの拡張として上位レイヤーのみならず、下位レイヤーも狙ったものと取るならば、面白いアプローチと言えるだろう。アプリケーション・ベンダーならば、まだ十分に成熟し切っていなかったために、企業買収という手段を取ることが出来た。しかしながら、オペレーティング・システムという下位レイヤーとなると、Microsoft、IBM、HP、SUNと言った巨大ベンダーがターゲットとなる上に、OS以外にもいろいろなものが付いてきてしまう。そこで目を付けたのがオープンソースのサポート・ビジネスということである。上位レイヤー以上にコモディティ化が進んでいるのであるから、ライセンスビジネスよりもサポート・ビジネスのみに特化しようというロジックである。

しかし、そこには矛盾点もある。これは、アプリケーション層へ進出した際にも指摘されたことであるが、データベース・ビジネスと上下のレイヤーは補完関係にあるため、上下のレイヤーにおいて特定のソフトウェアにコミットしてしまうと、データベース・ビジネスと矛盾することとなる。例えば、オラクルはSiebelをOracle製のデータベースだけで動かしたいが、それをやるとSiebelのマーケットが狭まってしまう可能性がある。同じように、OracleがRed Hat Linuxのサポートを強化するならば、Oracle製データベースの親和性もRed Hat Linuxに優先度を置きたいところだが、恐らくそれは出来ない。また、今回もRed Hatそのものからも強い反発を受けていることも不安要素だ。

勝算とソフトウェア・ビジネス

そうした矛盾や問題点を無視してでもOracleがOSレイヤーへ突入するのは何故か。それも、提供元であるRed Hat Linuxより低価格で提供しようとすることに勝算はあるのだろうか。そこに見えてくるのは、スケールのビジネスとしてのソフトウェアという現実である。つまり、Oracleは、自らが持つデータベースとアプリケーションの顧客ベース、そしてそれらとOSによって構成されるスタックの方が、OSを単体で販売・サポートするビジネス以上にスケール・メリットが働き、顧客をロックインし易いと考えているはずだ。さもなければ、Red Hatよりも低価格とするビジネスプランは描けない。

ハードウェアから始まったインターフェースの標準化とモジュール化は、ソフトウェアの領域にあってはSOAという形でサービス化に向かいつつある。これは、一方では多様なソフトウェア・ベンダーの存在を許すはずであるが、現実にはソフトウェア・ベンダーは統合の波に飲まれ、巨大ベンダーによるソフトウェア・スタックが構築されつつあるようにも見える。つまり、結局は密結合と変わらないものとなる可能性がある。

ここでソフトウェア・ビジネスの将来展望について何か結論めいたことを言うほどに考えは整理できていない。しかし、Oracleがその方向性の1つの可能性を示していることは間違いないだろう。M田君のスタック戦略よりはよほど面白い動きである。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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