グリーンスパンの「謎」とオフショアリングの終焉

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2008-04-12 23:39:45

トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』は上巻が面白いが、アラン・グリーンスパンの『波乱の時代』は下巻が面白い。なぜかと言えば、これらの巻がグローバルなテーマを取り上げているのに対し、対を成す巻は自国アメリカに焦点が絞られているからである。小説ではないので、セットで読まなくとも、それぞれの巻を読むだけでも十分意義がある。『フラット化する世界』については以前取り上げたので、今回は『波乱の時代』について少し取り上げたい。

この中でグリーンスパンは、米国、欧州、日本、南米、そして印・中・露の経済体制に関し、自由競争とセーフティネットを対比させつつ分析をする。同じ資本主義と目される国でも、「経済体制のなかで自由資本市場体制が最善のものである」(P34)という命題に対し、アメリカ人は71%が同調する一方、フランス人は36%しか賛意を示さないという世論調査の結果が示され、いかに国の歴史・文化的背景が各国の経済体制に色濃い影響を与えているかが明らかにされる。

これは経済体制に関する一例であるが、他にも所得格差、高齢化社会、コーポレート・ガバナンス、エネルギー資源など、グリーンスパンは様々な経済事象に対して鋭い持論を展開している。しかし、その著作の第二十章には「謎」という奇妙なタイトルが付けられている。ここでは、このグリーンスパンですら、その原因が理解できなかった事象について語っている。

グリーンスパンが解けなかった「謎」

それは、2004年6月にフェデラル・ファンド金利の誘導目標を引き上げた際に起こったという。通常であれば、上がるはずの十年物アメリカ国債の金利が上昇せずに低下した。金融引締めの初期段階では起こりえないが故に、FRB議長は困惑した。しかも、同様のことが2005年の2月と3月にも起きたのだという。

議長は当時その原因を証明することは出来なかったというが、その推測は海外へのアウトソーシングによる「資本効率の向上と、名目単位労働コストの低下(P171)」によりディスインフレ圧力が強まっていたというものだ。つまり、グローバリゼーションによりコスト抑制が働き、ディスインフレ状態となっていたというのである。

オフショアリングとディスインフレ

これをIT業界に当てはめれば、今でも拡大し続けるオフショア開発となる。これによって、ITリソースに関わるコストの上昇が抑えられるわけである。しかし、オフショアリングも一定のレベルまで進めば、優秀な人材の供給が止まり、価格も上昇へ向かうこととなる。インドでは、人材コストの上昇から、単なるリソース供給から高付加価値ビジネスへと転換が進みつつある。

一方、グリーンスパンによれば、中国でも数年内に都市部への人材流入が一段落し、それが引き金となって世界的にディスインフレ圧力は弱まるだろうと予測する。つまり、その時こそは中国のオフショア企業も高付加価値ビジネスへの転換を余儀なくされる。なぜなら、これ以上価格では勝負出来なくなるからだ。

日本へのインパクト

日本のITセクターからのオフショアリングはインドよりも中国の方が大きい。それは、中国の方が日本語に堪能なエンジニアが多いことや距離的な近さなど複数の要因によるだろう。そのために、インドの高付加価値サービスの日本への流入速度は遅かった。しかし、逆に中国が高付加価値サービスへ乗り出せば、その流入スピードはかなり速いものとなるだろう。

高付加価値を狙えばすぐに実現できるというものではないが、その転換点が訪れるまでグリーンスパンによれば3年も無い。そのときオフショアリングという概念は終焉し、グリーンスパンの「謎」も解消するのである。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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