ITILのコースの受講者すなわち資格取得希望者が、ITIL Foundation の試験が2003年11月に日本語化されてから、急増しました。それまでは、日本国内の資格取得者は100名前後といわれていたのですが、2005年10月末でちょうど2年になりますが、日本国内で6,000名を越えているだろうと予測されます。
ITILに関しては、今までにIT業界で起きた流行とは違った面があるように感じています。何よりも日本と米国のキャッチアップが、ヨーロッパに比べてかなり遅れたことが挙げられます。その原因は、方法論やプロシジャーが細かく用意されたものではなく、自由度が大きい反面、どこから手を出してよいか判断がつけにくいといった、大雑把さが許されているということだと考えています。手は出しにくいが、使い込めば適合性が良いことが解ってくるようです。歴史的にも、すでに10年以上の実績があるのに、日本で注目され始めたのはせいぜい4年前になります。こういった状況を踏まえて、ITIL Essentialなどの講師を1年半以上実施して感じたことを述べてみます。
ITILの教育の背景
ITILは従来から、3P(Process, People, Product)のバランスを取ることが、インフラストラクチャのマネジメントにとって重要である、ということを述べています。基本的にはProductではなくTechnologyで説明されています。ITILの導入はプロセス指向のITサービスマネジメントの導入です。ITサービスマネジメントも、サービスを提供するにあたっての戦術面からの検討に必要なプロセス群、すなわちサービスデリバリと、提供しているサービスを維持、改善するための日々の運用面として必要なプロセス群、すなわちサービスサポートとから構成されています。
これらのプロセスは目標が定義され、プロセスごとにアクティビティのレベルまで細分化されています。また、ITILで使用する用語に関しては、独特な用語もあれば通常の適用範囲と異なる定義がなされている用語もあるという状況です。ITILの実装、導入時に最も重要視されるのがコミュニケーションですが、その基本を確立する必要があるわけです。ITIL導入のプロジェクトが発足するなど、実装時の活動を考慮すれば、プロジェクトマネージメントの観点からも、コミュニケーションが最も重要であるということはご理解いただけると思います。ITIL実装、導入に当たって基本となるコミュニケーションが円滑に進むことが必要です。また、実施に当たって、抵抗勢力の排除や、抵抗力の逓減にITILの理解が役立ちます。
コミュニケーションの基本
コミュニケーションが取れるようにするために重要なことは何でしょうか。
「理解できないことを納得させることはできない」という状態を超えることだと考えられます。
関連する人々が、共通の理解の下に共通の用語を使用でき、共通のイメージを形成することができる状態であることが望ましいのです。ITIL Foundationの資格のレベルとして要求しているスキルが、このレベルです。
ITILのコースの受講者から、講義の後で次のような質問がよくだされます。
「ITILを推進したいのですが、上司をどうやって説得すればいいですか」
「ITILのメリットを上手く説明したいのですが、どうしたらいいですか」
こういった質問には、なるべく会社の状況をお尋ねしてお答えするようにしていますが、会社によってそれぞれ異なるのです。会社の課題を見つけ、改善の方向に動き出すことが、ITILのプロセスの導入によって促進されるようにならなければならないのです。
当事者の立場の違い
ITILの実装に当たっては、大きく分けて次の三者の立場が存在します。
・ITサービスの利用者
・ITサービスの供給者
・外部のITサービスの供給者
この三者が共通に用語を理解し、ゴールを共有できなければ、実装プロジェクトはどこかあらぬ方向に向かってしまうはずです。アセスメントの結果から、改善の方向付けをしようとするときに、とんでもない方向を向いてしまいます。ましてや、これにコンサルタントが入るとなると共通の知識、認識のベースラインを保証できるものでなければならないでしょう。立場、文化、戦略が異なっても、このベースラインを保障できるのが、国際資格 ITIL Foubdation になります。資格は、受講者の理解度の尺度としても活用でき、企業の戦力としても評価できるものとなっています。
ITIL教育の対象者
ITIL Essential コースの受講者は、当初はSI事業者やアウトソーシング事業者などのサービス供給者が圧倒的でした。最近の傾向は、自社でITサービスを運用されている担当の方々が受講されるようになってきていると感じます。とくに、外資系のグローバル企業ですでにITILの導入が本社を中心として行われているので、日本での対応も要求されているので、まず人材育成からというケースもよくあります。会社がBS15000の認証を取得したので、ITIL Foundation の取得が義務付けられている、という方もいらっしゃいました。
運用の担当者は、業務上の必要性から受講されるのは当然のことと思いますが、実は、必ず受講していただきたいのは、ITILのプロセスオーナになられる方なのです。プロセスオーナという言葉自体、あまり日本に馴染がないのですが、プロセスに対するアカウンタビリティを有する役割が割り当てられている方のことです。アカウンタビリティは説明責任という言葉で一般的に翻訳されています。会社の社会的責任にまで及んで、事実に基づいた説明と責任範囲を、ステークホルダーに対して明確にすることです。プロセスオーナは計画について知っているだけでなく、プロセスの実装、アクティビティの遂行にあたって正しいマネジメントと、積極的な関与が要求されるので、アクティビティのレベルまで把握しておく必要があります。
さらに、ITILを導入するにあたっては、経営者のコミットメントが必須です。経営者にも、ITILとは何であるかという、概要のレベルの知識と規格、認証との関連は是非知っておいて頂きたいところです。資格試験はありませんが、概要コースも用意されています。ビジョンの設定、戦略の提示が自分には関係ないと思っている経営陣はいらっしゃらないはずです。ITILプロセスの設定されたゴールが矛盾していないという検証も必要です。
ITIL導入によってもたらされるもの
ITILを導入することによって、もたらされるものとして以下のことがよく言われます。
・顧客との関係を良好に保つこと(CRM:カスタマーリレーションシップマネージメント)ができるようになる
・ITサービスに対する顧客満足度(CS:カスタマーサティスファクション)が向上する
・ITサービスの品質が向上する
・ITサービスの供給範囲が拡張できる
・ITサービスの収益率が向上する
よく質問されることですが
「どのプロセスから始めるべきでしょうか」
「全部のプロセスを導入しないと効果がないように見えますが、どうしたらいいですか」
「ITILに書いてあるとおりにやらなければいけないのですか」
「本当に、いわれているような効果が出るのですか」
など…
会社にはそれぞれの文化、風土があります。会社にはまた、ビジョン、戦略があります。
それぞれの会社にとって、ITILのかかわり方が異なるのです。サービスデスクを導入しただけの会社もあります。サービスレベルマネジメントから導入しはじめ、可用性管理とキャパシティ管理に、今、手をつけている会社もあります。変更管理、リリース管理、構成管理を一気に始めた会社もあります。明確なことは、戦略に基づいてマネジメント可能な範囲から始めることです。ITILの講義で知識は習得できます。でも本当に会社に役立つためには、ITILの導入、実装を通して、プロセス改善、課題を明確にする最適なKPI(業績評価指標)の設定方法を修得することです。
ITILの教育コースについて話してきましたが、ITILの知識を理解するのは先決ですが、プロセス手法、改善サイクル(デミングサイクル)、ゴールデントライアングル(Quality, Cost, Delivery )これを常に意識できるようになれば、ベストプラクティスを自ら作り出すことができるようになります。ITILの知識を習得するだけでなく、講習後には、実践を通じて、ITIL導入に向けた会社の現状を見極める力をつけていただくところまで成長していただきたいと願って講習に励んでおります。
前田 隆
※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。
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