ITILの効果を示すには

itil 2006-02-10 13:35:42

ITILに関して、実務的、実際的な導入に当たって次のようなことを尋ねられたり、相談されたりすることが多くなりました。

・効果があるのかどうかを、示せないので計画が進まない

・投資対効果をきちんと評価できないとプロジェクト化できない

・具体的な成功事例が同じ業界ではないのか

・ITILを導入した後は何をすればいいのか

今回は、これらの疑問にお答えするために、ITILの効果をどのように示したらよいか。ITIL導入に当たっての最終目標をどのように設定したらよいかについて、お話しましょう。

第1ステップ:ビジネスの最終目標を確認しましょう

最終目標とはGoalです。そのほか似た言葉が使われていますので、それぞれITILにおける英文と日本語の定義を対応付けて確認しておきましょう。

Goal:最終目標

Objective:達成目標

Aim:目的

Target:目標値

となります。ちょっと脇道にそれたような気がするかもしれませんが、定義をきちんと共通で把握することが、コミュニケーションの基本です。

ビジネスの最終目標はどのように設定されますか。とくにITILのプロセスのゴールすなわち最終目標を設定するのは誰でしょうか。ITILのプロセスモデルといわれている、通称ミッキーのモデルといわれる耳の部分です。前回のシリーズのプロセスの解説のところで出てきています。そして、この最終目標を設定するのがプロセス・オーナーであり、その拠所になるのは会社のビジョンです。会社の戦略、ビジョンに則してビジネス面を考慮してプロセスが達成すべき最終目標を決定しなければなりません。こんなことが会社でおきます。

・上司は「ITILをやれ」と上層部から言われます

・あなたは、上司からITILの計画を立てるように上司から命令されます

・あなたは、一生懸命ITILの知識を身につけ、事例を探します

・ITILを導入すると、何やらいい方向に向かいそうだと理解できました

・いろいろ事例を見たけれど、ピッタリと当てはまる事例は見つかりません

・投資対効果を明確にしないと、プロジェクト予算が獲得できません

・そもそも、どの程度まで突っ込んでよいのかという判断がつきません

・上司に、ドラフトを持って、予算規模と概略の完了時期を伺いに行きます

・上司が気にしている課題を解決できるかどうかを、あなたに話しかけます

・「未解決で保留になっている件数が多い、と苦情が出ている」などです

・あなたは、ITILのプロセスの話を始めます

・上司は、プロセス化して定義されていないことに気付きます

・業務をプロセスで見た場合の成熟度が分らないことも理解できます

・現状を把握しなければ、何に手をつけていいかわからないことに気付きます

第2ステップ:現状を把握しましょう

そこで、いろいろ話し合った結果、現状を把握したうえで詳細計画を作らないと脇道にそれてしまうかもしれないことが認識されます。日常的に行っている業務は、意外と狭い範囲しか理解していないことに気付きます。アセスメントが必要なことは認識できますが、他部門の話を尋ねたりしても、抵抗があったり、うるさそうに適当にあしらわれることは目に見えています。従って、アセスメントは、客観的で専門的な立場で評価を実施してくれるところ、つまり外部の第三者が適切だと判断しました。

・アセスメントを実施してくれるところを探します

・アセスメントが役立つかどうか、過去の実績を問い合わせします

・何社か見積りと提案書を取り寄せ、上司に伺いをたてます

・1社に絞り込みます

・「ITIL導入のための現状分析」計画書を作成し稟議書を作成します

・アセスメントの予算は確保できました

第3ステップ:どうやって目標を達成するか

アセスメントの結果、プロセスごとの成熟度が提示されます。ここで、プロセスの成熟度について、いろいろな組織から異議が提示されます。報告は、アセスメントを実施した外部の第三者が実施するでしょうが、あなたはじっと耐えなければなりません。こんな言葉が飛び交うのです。

・このプロセスの成熟度がこんなに低いわけがない

・どんなヒアリングを実施したのか見せてみろ

・会社の業務が分らないで、評価なんてできないだろう

・ITIL(アイテル)にさくリソースが空いてる(アイテル)わけがない(よくこの駄洒落が出てくる)

などなどの苦情やら不満やら、そのうち犯人探しもしかねない状態にさえなることもまれではありません。やっと冷静に評価結果を受け入れられるようになって、会社のビジネスプランとつき合わせができるようになるのです。ビジネスの最終目標を達成するために最も貢献するのはITILのどのプロセスなのかマッピングしてみることです。とかく、ひとつのプロセスだけに注目しがちになりますので、全てのプロセスを一気に導入するとことも考慮してみるといいでしょう。

・このままで手をつけなくてもいいプロセスはありますか

・ボトルネックとなっているプロセスはないですか

・他のプロセスに悪影響を及ぼしているプロセスはないですか

・ビジネスの最終目標の達成を支援する業務は何ですか

・その業務はITサービスによって支援されていますか

・そのITサービスで提供されている役割は何ですか

・その役割に結びつくITILプロセスのアクティビティは何ですか

・このアクティビティを有するプロセスが特定できましたか

・関連するプロセスは特定できましたか

・実施範囲を特定できましたか

そのほかに以下のことも考慮してください。プロジェクトを成功させるためには把握しておかなければなりません。

・抵抗勢力は把握できましたか

・協力体制はありますか

・上司、役員は積極的な参画を期待できますか

・推進するうえでの権限は誰にありますか

・予算執行の承認は誰が行いますか

・プロジェクトの参加メンバーの評価は誰が行いますか

・プロジェクトの完了の定義は明確ですか

・報告は誰に行いますか

・成果物の引継ぎの相手は決まっていますか

ITILで導入するプロセスの最終目標が設定できましたか。この段階ではまだ仮の目標になっているかもしれませんね。この時点までに社内の啓蒙活動はしておくことも大事な成功要因となります。

上記の範囲で、ビジネスの最終目標を支援するためのITサービスマネジメントのプロセスが特定されていると思います。さらに、そのプロセスの最終目標も設定できていると思いますが、いかがですか。こんな面倒くさいことをやらなくても、直感的に設定できてしまう場合もよくあります。意外と正しいことが多いのですが、検証はきちんとやっておきましょう。つぎは、アクティビティが特定されていることが重要です。アクティビティが特定されていないと、どんな役割を、どのようなスキルがあるリソースに割り当てればよいかが決定できないでしょう。

第4ステップ:どうやって目標達成を計測するか

さて、ITIL推進プロジェクトも、ようやく予算と活動開始の目途がついてきました。でも油断は禁物です。ここで欲が出てくるのですね。まわりからの便乗も始まります。ITILの導入することになっていることを前提にして、いろんな要件、要求が一人歩きし始めます。

・こういうこともデータから出せるはずだよね

・報告にはこういう管理情報も入れておいてくれよ

・ついでに、こんなこともできるといいのだけどね

こういったことが続くようでは活動が長続きしていきません。いつの間にかプロジェクトは消滅してきますね。誘惑や甘言に乗せられてはいけません、実施プロセスの最終目標を繰り返し見てみましょう。そして次のことを検証してください。

・最終目標から達成目標へのブレイクダウンは正確ですか

・達成目標は数値化され目標値として設定されていますか

・設定された目標値の単位は明確ですか

・目標値を計測する手段は確立されていますか

・計測が可能で、その方法は容易ですか

・過去のデータで比較対照が可能なデータはありますか

・重要業績評価指標として妥当な項目ですか

・この役割を実施するリソースは、重要業績評価指標として認識していますか

・監査可能なデータですか

・追跡可能な項目ですか

・目標達成できない場合のフィードバックが可能ですか

・目標達成した場合の行動は決められていますか

以上が、ITILで言われているところの“4つの質問”に基づき、計画を進めていく段階を解説したものです。「サービスマネジメント導入計画立案」では6つのステップで記述されています。基本になっているのは、デミング博士の提唱した“PDCAサイクル”です。改善活動を継続的に実施できるような組織を形成すること、そのためにプロセス指向の繰り返し活用できるマネジメント手法を採り入れているわけです。

組織が目指すところは競争優位性の確立と維持改善だと思います。ITILは事例集といわれていますから、いろいろな事例を参考にされるのも良いでしょう。でも、ITILが事例から学んだ共通の事柄を、汎用的な形に表現したものであるということを忘れてはならないと思います。ITILの効果があることを具体的に示す報告を行うためには、計画段階から最終目標・達成目標・数値目標を矛盾なく設定すること。測定可能で論理的な目標値であること。統計的手法により分析可能な参照データがあるところに目標値を設定するのが成功の鍵になります。計測できるものをKPI(重要業績評価指標)として設定すればいいということではなく、戦略の実施に貢献していることが示せるKPIであることが重要です。いくら計測できても、過去に比較するものがなければ相対評価ができないということですね。

ITILは自由度が高く、使用基準とか実施マニュアルは準備されていません。手順を明確にし、使用ツール、テンプレートを準備し標準化を推進するという意味では社内標準の構築と同じです。変えてほしいのは意識です。その意識に基づいた行動です。それらが定着した会社の文化です。経営マネジメントの品質を支えるのがITサービスマネジメントの品質といえるわけですね。だからISO/IEC20000として制定されるようになったりするわけです。

前田 隆

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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