ITILが英国政府で実施されてから、ヨーロッパならびに英国との関連の強い国々を中心として拡大してきました。日本では2003年頃から急激に知識獲得や、導入、実践を行う組織が増えてきたというところでしょうか。
そんな中で、日本の企業がITILを導入しようとするときに、経営者や情報部門の管理職とか越えなければならないハードルにぶつかります。また、ITILを推進することになったプロジェクトマネージャと担当者の前に立ちはだかる壁も存在します。この壁やハードルをうまく乗り越えなければならないのですが、その存在を理解していない場合が多いのに気付きました。原因は、外国企業と文化というか企業風土が違うためだと思っています。『超えなければならない』ということを言い換えると、『共通の理解を形成することによって、企業文化の改善に役立てる』となると思います。言葉や概念が取り入れられるということは、その背景を理解できて初めて可能になるのではないでしょうか。
それではまずトップダウンで決定していく事項について考えましょう。
トップダウンで提示されるものの代表といえば、ビジョンです。ビジョンをどのようにして作るか、ということ自体テーマとなるほど大きな課題です。単純に、5W1Hで分析していくことにします。
WHAT
“WHAT”は示せるでしょう。どんな事業、どんな経営、社会や社員に対してどんな貢献がしたいかというところです。これを正しく伝えるために、誰もが理解でき、共有でき、達成できるものにでなければならないのです。単なるお題目では意味を成しません。組織の要員が個々に理解し、共通の認識の下に、それぞれに割り当てられた役割を遂行することを通じて、達成に貢献できるということが意識されなければならないのです。やれるはずがないと思われたビジョンほど、士気を低下させ、コミュニケーションを阻害し、勝手な理解による部分最適化に進んでいく、負のサイクルを生じさせます。
WHY
“WHY”についてはどうでしょうか。なぜ実施しなければならないかという、ビジョンに対する理論武装です。日本の組織は、この面の弱さがめだつようです。この部分が弱い組織ほど、精神論的な面を拠り所とする傾向が強いようです。なぜそのようにしなければならないかということを、共通に理解するために示さなければいけない根拠です。
通常、ビジョンとして示されるものは、“WHAT”であり、それを共通に理解できるように、説明するのが“WHY”ということです。ビジョンはこの2要素を含んでいれば理解を得られると思います。こう考えてみると、ビジョンは概念的であり、概略的であるということができます。包括的であるために、現状から乖離したビジョンが設定されることも在ります。概念的なことを嫌い、達成することを急ぐあまりに、数値目標化されたターゲットを設定してしまうという傾向もみられます。
また、ビジネスから乖離したビジョンを設定される場合も少なくありません。組織が、ビジネスを通じて何を実現したいか、どのように社会に貢献していくか、社会との関係を保っていくかを表明したものがビジョンとなるべきでしょう。“時価評価額が世界最高の会社を目指す。”といったビジョンを掲げた会社は、ビジネスを通じてということを除外してしまい、時価評価額が上がるためにすることは、会社にとって正しいことであるという勘違いを起こしてしまったのではないかと推測されます。
HOW
“HOW”:は、その実現方法です。ビジョンに比べ、より実践面の要素が強くなってきます。『どのような方法でビジョンを実現すればよいか』ということです。ビジョンがブレークダウンされ目標とされたものを達成するのにどうすればよいか、ということです。組織によって、この段階のギャップがあると、次のような現象がみられます。
●“WHAT”だけを提示する。
●ビジョンを目標化できない。
●目標設定の責任の所在が不明確。
●施策への展開ができない。
つまり、経営層と管理職層のギャップがある場合に、上記の課題が顕在化してきます。意外と多いギャップです。ITILのコースの受講者は、運用の担当者、管理者がほとんどで、管理職クラスや経営者層の方は非常にまれです。ところが、いざITILを導入しよう、実践しようとなったときにいわゆる、上層部のコミットメントがもらえないという現象が起きるのです。コミットメントとは、計画承認や予算承認だけではなく、積極的な参画をすることを承諾してもらわなければならないのです。
ITILを導入するといった場合は、プロセスの適用の宣言。経営層のコミットメントとプロジェクト要員のコミットメントの両方を含んだ、プロジェクトへのコミットメント。そして導入の対象とする適用範囲(SCOPE)の宣言が必要です。
戦略は、基本方針の設定だけでは単なるスローガンに終わってしまうことになります。きちんとした説明ができなければ、種々の解釈理解が存在することになって、ビジョンが勝手な理解で実行されてしまう事態に陥ります。ビジョンを設定し、なぜそれを達成しなければいけないかといった理論武装と、その説明責任を果たすところまでは、経営トップと経営層の役割です。これを戦術に落とし込んでいくのが経営層とプロセスオーナの役割で、どのような手段で達成するのか、詳細化が必要になります。最終的にゴールを示すのはプロセスオーナで、詳細化の程度は数値目標化されたターゲットのところまで持っていけなければならないのです。ビジョンは戦略的な面であり、これをいかなる手段方法で実現するかが戦術面であり、日々の処理の中で発生するのが運用面という3階層で構成されます。
次回は、残りの3W(WHEN:いつまでに実施しなければならないか。WHO:関与する人は誰か。WHERE:どこで実施するか。)について述べる予定です。ビジョンからターゲット設定の範囲を解説していくことにします。
前田 隆
※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。
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