Talkin' About O. S.

八田真行(Masayuki Hatta) 2005-07-04 02:35:30

ついこないだ、というには日時が経ってしまったが、先立って「OSS Roundup」というイベントに出た。事前に募った質問を肴に5人の出演者がああだこうだと喋るという趣向で、講演や学会発表よりはもう少しくだけた雰囲気の中、僭越ながらまつもとゆきひろさんや小飼弾さんのような優れたハッカーに交じって思うところを述べるのは新鮮な経験だった。質問を数多く寄せて下さった方々、及び朝早くからご来場くださった観衆の皆様には、出演者の一人として深く感謝したい。

当日は様々なタイプの質問が俎上に乗せられた。答え易いものもあり、答え難いものもあったが、中には若干気になる内容のものもあった。たとえば、「出演者には、オープンソースについて語るだけの価値、資格があるのか」というような問いである。その場では他の出演者が大いに語って下さったので、私自身はこの質問にあまり明確な答えを述べなかったような覚えがあるのだが、改めてここでお答えしたい。「当然ある、そして、あなたにもある」と。

オープンソースについて語るだけの価値、あるいは資格とは何か、そもそもこれ自体が曖昧だ(そもそもここでの「オープンソース」は何だという話もあるが、本題から外れるので今回は深入りしない)。とりあえず、広い意味でのオープンソースに、何らかの形で、すなわちコード書き以外も含めて多少なりとも関わった、という程度にしておこう。思うに、この程度まで「資格」の範囲を水増ししたとしても、そういった「資格」の無い人がオープンソースについて語って一向に問題ないのである。なぜかと言えば、問題は語る「資格」ではなく、語る「内容」だからだ。

上の話には一つ条件がある。誰が何を語っても構わない。その代わり、間違っていたときには容赦のない批判を浴びる可能性があるということを分かっていてほしい、ということだ。言い替えれば、そういった批判に晒されるリスクを引き受けることが、オープンソースについて語るための唯一の「資格」だと私は思う。前述のような大変広い意味での「資格」すら無い人が発言する場合、おそらく議論はリアリティを欠いたものとなり、批判を受けるリスクは高まるだろう。それでペナルティとしては十分だ。そうやって多くの議論が淘汰され、残ったものが吟味の上鍛えられていけば、多少効率が悪くてもそれで良いと私は考えている。

こういった話は別にオープンソースなどという狭い世界に限ったことではないのだが、オープンソースではとりわけ重大だ。というのも、今まで述べてきたことは実のところオープンソース、厳密には広義のオープンソースの一部であるバザール型開発が拠る原理そのものだからである。資格が云々されてこういった自由闊達な議論ができなくなれば、それはおそらくオープンソースの死を意味する。「資格がなければ意見を述べてはならない」などという風潮が一般的だったら、Linuxの草創期には一介の学生に過ぎなかったリーナスが、斯界の権威タネンバウム教授に反論するなどということが果してできただろうか。

結局、オープンソースでは権威ではなく内容が唯一の判断基準なのである。そして、判断は基本的にオーディエンスが行う。オーディエンスには当然あなたも含まれるのである。確かに、誰もが言いっ放しでは困るし、間違った(と思われる)意見が大勢を占めるのもまずい。そのためにも、私たちは厳しいオーディエンスでなければならない。優秀なオーディエンスは希少な資源だが、そこはうまく出来ていて、オーディエンスの獲得についてもある種の競争があり、プロジェクトの死命を制するような重要な議論にはそれなりの論客が集い、どうでもいいことにはどうでもいいオーディエンスしか集まらないように思う(これはかなり楽観的な見方かもしれない)。そしてもちろん、オーディエンスだからといって安全地帯にいるわけではないのである。

ところで、私たち5人の出演者を、あたかもオープンソースの代表者であるかのように見た向きもあるようだが、これは全く正しくない。オープンソースに名付け親は存在するが、代表者はどこにも存在しない。私が語るのは、私のリアリティに過ぎない。他の出演者には他の出演者なりのリアリティがあり、そして、あなたがたにはあなたがたのリアリティがあるはずだ。もし私のリアリティとあなたがたのリアリティが異なるならば、どこが異なるかをぜひ伺いたいと常々思っている。それを聞かせてもらえる可能性を確保するためにも、私は「資格の無い人間が語ってはいけない」などという論には強く反対する。そして、あなたの感じた違和感を、私たちにも分るように言語化する労力を惜しまないでほしいと思うのだ。それを見て、私たちは自分の考えを深めることができる。これもまた、オープンソースへの大きな貢献なのである。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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