J-SOX対応は本当に大丈夫か?(1)

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-04-12 03:49:02

J-SOXが3月に閣議決定された。詳細は決まっていないものの、いよいよ本当に始まることが決まった。上場企業は全てJ-SOX対応を打たねばならない。2007年4月という大方の予想とは異なり2008年4月スタート(2009年3月期の決算から対象)となったが、いずれにしても始まる。J-SOXは何かということや、技術的な対応については、おいおい述べるとして、まずは現状での私の感想を述べさせていただきたい。

米国ベンチャーバブルが崩壊後の2001年、エンロン、ワールドコムなど、立て続けにバブル時には成長企業と囃し立てられていた企業による粉飾決算が発覚した。それに即応して、サーベンスオクスリー法(いわゆるSOX法)が2002年制定された。上場企業の経営トップには、嘘をついていないと宣言させ、内部統制の仕組みを作り上げさせる。社員のみならず経営トップまでもがその仕組みによって、ルール違反をしないよう監視されるということである。罰則規定も厳しく、最高20年の懲役である。要は、上場企業は粉飾をするな、粉飾決算をしたら牢屋にぶち込むぞとの脅しで、証券市場の健全化を担保しようとするものである。実際に、SOX法対応を怠り(間に合わず)、訴えられたCEOは何十人といるそうだ。

急成長企業はどうしても先行投資がかさみ、回収までタイムラグがあるので、赤字になるケースは少なくない。成熟企業でも、業種によっては経営環境の浮き沈みがあり、一時的に業績悪化のこともある。そういうまともな理由のあるケースは、それ自体悪いことではないが、赤字と聞くと投資家や銀行がお金を出してくれなくなる可能性がある。しかも、物言う株主によって、経営者のクビをすげ替えられることすらある。本来リストラしたり責任を取って辞めるべきところなのだが、黒字だといい続けているうちはお金が出るので、赤字を黒字と言ってしまいたくなる誘惑に駆られる。いったん嘘をつけばそれを維持するために嘘を重ねることになる。嘘をついたCEOとCFOは牢屋に入ることになる。

顧問をしているシリコンバレー企業の経理担当者から聞いた話だが、以前いた企業で、海外子会社へ価値のなくなった在庫を売却することで、売上を計上していたそうである。しかし、それはいつまでも続かず金融当局の調査が入ることになり、書類は全て押収された後、会社の運営に支障が出て、数週間後には倒産したということである。どこかの国でも聞いたことのある話である。

私自身、粉飾は多数目撃している。銀行でベンチャー向けファイナンス業務を長年担当しており、ベンチャー企業の決算書は何百社と見てきた。銀行は、決算書の粉飾はあるものとの前提で、それを発見するシステムを構築している。お恥ずかしいことだが、信頼していた取引先から苦し紛れに粉飾をされたことがある。こちらは金融のプロであり、そんなことはすぐにわかってしまう。ベンチャー相手なのでそもそも赤字・倒産は覚悟の上だ。何年か先に、取引先に公開してもらうことが何よりの報酬だ。したがって社長には、金の出し手として長期間我慢をすることを約束したし、逆に、どんな悪いことがあっても隠さず相談して欲しいと約束してもらった。しかし、信頼関係が崩れた以上、残念ながらいつまでも支援できない。

これらは未公開企業の話なのであるが、上場企業でも存在した。信じられないことに、売上を膨らませて公開した企業があり、上場後発覚し業績を大幅に下方修正した。その企業の再生にコンサルで入ったことがある。これは非常に大変な思いをした。中に入り込んでいろいろと精査をしてみると、価値の無い資産も多かった。倒産前夜といってよく、一刻を争う状況だったからである。幸い本業は健全だったので、膿を全て一気に吐き出すことで再生に成功した。別のつきあいあった社長も公開企業であったが、海外子会社を使った粉飾が発覚し倒産した。大なり小なりどこの会社にも決算のお化粧(粉飾)はあり、銀行員としてはそれらとの戦いの連続であった。

そんな背景もあり、J-SOXの導入に恐れ慄いている経営者は少なくないと想像する。当然のことであるが、経営者が会社の全責任を負うわけで、意図的な粉飾はもちろん論外であるが、企業が大きくなればなるほど、末端まで目が届かず、知らないうちにルール違反を犯しているかもしれない。それをきちんと管理できる仕組み作りは急務である。これまで日本企業に内部統制がなかったわけではないが、日本では人材の流動性が少なかったこともあり、その企業だけの独自のルールや仕組みが多かった。しかも、日本人はお互いに細かく言わなくても、あうんの呼吸で十分に回っていた。もちろん外からはよくわからない。J-SOXは、内部統制の仕組みをきちんと明文化せよということなので、大変なのである。

日本でも罰則規定が厳しく決まる方向となっている。しかし、何をすべきかわからず、全然動けていないところも多いと聞く。日本の上場企業のJ-SOX対応は本当に大丈夫だろうか?心配である。

((徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

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