中央青山監査法人の業務停止の影響
J-SOX(日本版SOX法)対応で重要な役割を担っている監査法人であるが、大手一社である中央青山監査法人が業務停止の事態に陥ったことで、J-SOX対応の遅れが大変心配される。詳しくは「J-SOX対応は本当に大丈夫か?(4)」をご覧いただきたい。監査法人のコストが約半分と申し上げたが、J-SOXの現状を見るともっとそれ以上かもしれない。今期に入って大手監査法人へのJ-SOX対応依頼が急増していることは聞いていたが、昨日、ある日本の大手監査法人との会談で、その実態を知って愕然とした。3億円、5億円クラスの仕事は既にお断り状態で、これからは、10億円くらい出さないと引き受けてもらえないかもしれないというのだ。費用は何倍にも高騰している状況である。これは、ぼったくりということではなく、マンパワーが絶対的に不足しており、もうこれ以上の仕事を増やすのは事実上不可能な状況で、値段を吊り上げてでも仕方なく断らざるを得ない状況にあるということだ。大手はいずれも同じ状況のようだ。すでに監査法人など外部コンサルを引き当てされている大手上場企業はそれほど問題なさそうだが、これから外部専門家の手当てを考えているところは、いっそう確保することが困難となってきた。
それに追い討ちをかけて、中央青山監査法人の今回の業務停止の措置だ。ご存知の通り上場企業の会計監査人は、大手監査法人4社の寡占状態である。というより、それ以外の監査法人で、上場企業の監査ができるところはほとんどないと言ってよい。中央青山、新日本、トーマツ、あずさの大手4社が400、500人の監査人を抱えている。それ以外の中堅では、東陽が70人とそれなりの規模を誇るが、それに続く三優、太陽になると20人以下と非常に小粒である。大手4社は、世界の大手4社とそれぞれ提携しているので国際企業への対応が可能だが、それ以外の中堅監査法人では、対応はなかなか難しいだろう。ちなみに港陽は、ライブドア事件で解散となってしまった。したがって、大手1社が機能停止してしまうことは大打撃である。中央青山の米国提携先であるプライスウオーターハウスが受け皿会社を作り、そっくりそのまま顧客毎引き受けることを発表しているが、それは今回の罰則の抜け道となり、金融庁が認めてくれるかは非常に疑問だ。クライアントの中には、すでに監査人の変更の検討を始めたところが出ている。クライアントの中央青山離れが進むと、最悪のケースでは、中央青山がばらばらになる可能性がある。そうなれば、全ての既存クライアントは、新しい会計監査人を探さなければならなくなる。J-SOX対応どころの話ではなくなってしまう。しかし、J-SOX対応で既存の監査法人もアップアップ状態で、新しい顧客の引き受けもままならない状態である。仮に最悪のケースを逃れたとしても、大混乱は必死である。
本当に大変なことが起こったのである。もはやJ-SOX対応は手遅れなのだろうか?
救世主として期待されるシステムコンサルタント
しかし、ここに一つの救世主が現れる可能性があると思っている。システムインテグレーターの活用である。特に経理システム、ERPシステムなどの開発を行うSI企業、システムコンサルティング会社はこれに相当する。
「J-SOX対応は本当に大丈夫か?(3)」で、ITソリューションの市場規模は、ベンダーが期待しているほど、さほど大きくないだろうというお話をした。それなのに、なぜSI企業が救世主になりうるのか?それはITベンダーに、単にソフトやハードの提供を依頼したり、システム開発を依頼するというのではない。業務プロセスの文書化と業務改善の提案という、経営コンサルティング・監査業務の作業の一部を依頼するのだ。そうすることで、会計監査人がまるまる受注して、膨大な作業になっている事務作業の一部を代替することができるのではないかということである。SOX法対策でのアンケートで、外部コンサルがSOX対応コストの34%とあったが、特定の業界に強く、業務知識が豊富なシステムコンサルタントには、この部分を代替することが可能であると見ているのだ。
SOX対応業務とは具体的には何か?
そもそもSOX対策の業務とは、具体的には何をすることなのだろうか?細目は6月に決定されるという発表があったばかりで、まだ正確なことは言えない状況だが、SOXの目的は、正当なディスクロージャーを担保することである。財務諸表が間違いなく作成されるよう、社内の各組織で、きちんと業務が行われていることを担保することであり、業務をきちんと目に見える形にしておき、不正やミスが発生しないようにすることを担保することである。
既に稼動している米国SOX法の対応を見てみたい。初年度の作業の中で、業務プロセスの文書化の仕事が大半を占めるところが少なくなく、当初予想していた以上に大変だったという話である。その業務プロセスを文書化するということはどんなことなのか?
ITGI(IT Governance Institute) から発表された“IT CONTROL OBECTIVES FOR SOX”が参考になる。それによると、
業務プロセスは組織の利害関係者に対して価値を創造し、実現する仕組みである。 入力、処理、出力が業務プロセスの機能である。業務プロセスはますます自動化され、複雑で極めて効率的なIT システムに統合されつつある。
とある。
紙面の関係で詳細まで述べることができないが、文書化とは以下の概説がある。
ほとんどの組織では、最低でも、以下の文書を作成する必要がある。?全社レベル
- 統制に関する記載と、統制の実在性と長期間にわたる継続的な有効性を確認するための手法。
?業務レベル
- 当該プロセスと関連するサブプロセスの記載(説明文の形式をとる可能性があるが、フローチャートとして記載するとより効果的である)。
- 発生した場合に及ぼす影響と発生する可能性の分析を含む、プロセスまたはサブプロセスに関連したリスクの記載。プロセスまたはサブプロセスの規模と複雑さ、そしてこれが組織の財務報告プロセスに及ぼす影響を考慮する必要がある。
- プロセスまたはサブプロセスのリスクを許容できるレベルにまで軽減するために設計された統制目標ならびにCOSOのフレームワークとの整合性に関する記載。
- プロセスまたはサブプロセスに関連する統制目標を満たすために設計され、実施された統制活動の記載。
- 統制活動の実在性と運用上の有効性を確認(テスト)するためにとった手法の記載。
- テストの結果、統制の有効性についての結論。
システム分析・設計ツールのJ-SOX業務プロセス分析への応用
上記を見ると、システム開発の最初に取り組む機能要件定義のプロセスと重なる部分が多いではないか。実際にSOX対応文書の事例を入手して見たところ、システムのフローチャートに酷似している。Y2K(2000年問題)でリスク分析を行ったインテグレーターは、その経験が生きると思われる。J-SOX対応では、内部牽制の観点から、必要となる業務プロセスの改善点などが提案できるはずだ。つまりシステムインテグレーターが、業務プロセス文書化コンサルタントとして対応できる可能性があるということである。例えば、会計ソフト開発のビジネスソフトという会社は、J-SOX対応サービスを開始することを発表しており、そのサービスは大いに期待したい。
私自身の経験でもそうだ。かつて私は、銀行の傘下の総合研究所にてシステムコンサルティングを含めてコンサルティングの仕事をやっていた。システム開発には、外部のツールを採用しており、Mind SAシリーズというものを使っていた。これは、プログラミングのツールではなく、システム分析・設計ツールであり、システム開発のための、クライアントの経営課題の捉えかたとか、それを明文化する視点、具体的名成果物などをまとめたものである。もともとは情報システムのシステム分析ツールとして作られたものであるが、すばらしいことに、これを情報システム以外にも活用することで、業務改善・業務改革、BPR(リエンジニアリング)、各種企画立案,各種提案、営業提案、各種問題解決などに応用できる。業務改善プロジェクトを担当したことがあったが、現場の作業を一つ一つ吟味し、積み上げ方式で進め、そこから高度な経営判断を下せるように業務全体の改善を提案していくようなコンサルティングプロジェクトには、大いに活用できた。
MIND-SAをご存知の方はご理解いただけると思うが、その中の成果物の一つに、業務機能関連図というのがあり、業務フローチャートに相当する。ほかにもいろいろなシステム分析手法があると思うが、同様の業務フロー図を作成すると思う。
これは、現場の問題から改善すべき課題を抽出し、業務プロセスを文書化し、最終システム化によりソリューションを提供するもので、SOXのプロセスは一緒だ。プログラマーや下流工程しか担当できないSEには難しいだろうが、深い業界知識、高いコミュニケーション能力とすぐれた問題解決能力を併せ持つSE及びシステムコンサルタントは、十分これに該当する。
そこにビジネス化のチャンスがある。すぐにシステム開発につながらなくても、業務プロセスをフローチャートに落とす作業は、システム開発の仕様決めの作業であり、優秀なシステムコンサルタントの得意中の得意の仕事だ。システムコンサルティングの機能をもつ企業及び上流工程を担当できるコンサルタントはこの領域を代替できるはずだ。
但し、Mind SAのような分析ツールは汎用性が高いため、特定業務への個別対応についてはあまり提示されていない(注)。特定業界向けの業務プロセス系ITソリューションで、業務フローのサンプルがあれば、利用することが可能だ。そういう国内外のソリューションから得られるテンプレートを、まずは、顧客のIT化ではなく、自社のコンサルツールとして活用すればよい。
(注:その後、読者からの指摘があり、10業種向けに、業種別プロセス設計レポジトリというものが提供されていることがわかった。関心ある方は、そちらをご参照いただきたい。)
システムインテグレーターは、優秀なプロジェクトマネージャーに、開発手法を再度教育させる必要があるかもしれない。そうすれば、今後外部コンサルが逼迫した状況が予想されるが、非常に単価の高い仕事が受注できるはずだ。しかも、文書化の次にはIT化が来るため、引き続きシステム開発の仕事も芋づる式に受注できる可能性が高くなる。
会計コンサルタントとの共同プロジェクトの立ち上げの提案
もちろん経営の根幹に関わる話が多く、単純にシステムインテグレーターだけでは対処できないものがある。中堅の会計監査法人や、会計や内部統制に強いコンサルティング会社と共同で、プロジェクトを受注するなどの動きは有効であると思う。全社レベルでの統制の考え方のとりまとめを経営コンサルタントが行い、個別業務のフローの作成作業をSI及びシステムコンサルで分担するというやり方はありうると思う。そして、特定業種ごとにテンプレート(雛形)を持つ、海外SOXソリューションの導入は、この急場をしのぐ対策として大いに期待される。
優秀なシステムコンサルタントにとってビジネスチャンス拡大である。ということよりも、中央青山ショックという大変な事態による市場の大混乱を回避するためにも、会計や特定業務に強いシステムインテグレーターには、J-SOX対応コンサルティングビジネスに参画していただきたい。その救世主としての役割を担って欲しいと切に願う。
この提言へのご意見、およびJ-SOX関連情報など頂戴いたしたい。
jsox2006@yahoo.co.jp
(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz)
追 記
9月1日追加情報
9月1日、旧中央青山の流れを組む、あらた監査法人と、みすず監査法人は業務を開始した。これは、旧中央青山監査法人の業務停止が8月31日で終了したことを受ける。
提携先である米国プライスウォーターハウスクーパースが「あらた監査法人」を設立し、900人強でスタート。一方旧中央青山監査法人は、「みすず」に名称変更し、た業務をを再開した。
みすずは、2500人。約3500人強いた旧中央青山監査法人のうち、約1000人が減少したそうである。一方、「あらた」は約900人でスタート。契約上場企業数はみすずがが3割減の580社、あらたが約400社だそうである。
旧中央青山の受け皿ができてひとまず安心である。ところでJ-SOX法であるが、対応の遅れは否めず、幸か不幸かガイドラインの発表も遅れており、中央青山の業務停止の影響は表面化はしていないが、どんどん対応が後ろ倒しになり、あとでそのツケが回ってくる可能性がある。
(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz)
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