JSOX法可決?J-SOX対応は本当に大丈夫か?(6)

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-06-09 20:30:01

JSOX法成立

6月7日に「金融商品取引法」が、国会で可決した。これは、投資家保護を目的として、これまで金融商品を管理する法律がばらばらだったものを、全て包括して管理するもので、内部統制の強化が盛り込まれており、日本版SOX法とも呼ばれているものである。今お騒がせの村上ファンドも規制の対象となる。

上場企業は2008年4月(2009年3月決算期)より、財務内容が適正であることを担保する内部統制報告書を届出しなければならない。金融庁が準備中という実施基準がいつ出てくるのか不明であるが、いよいよ対策を打つことが義務付けられた。

中央青山監査法人の業務停止ショックのその後

前回、緊急提言 中央青山ショックへの善後策?J-SOX対応は本当に大丈夫か?(5)を提言したあと、さまざまな反響があった。

監査法人の方や、経営企画など管理業務を担当されているからは、実際に問題となっているという話をお聞きし、深刻さを実感した。

監査費用が高騰しているのは、紛れも無く事実だという話である。そもそも、監査法人のビジネスとしては、大きく分けて、企業の監査業務とクライアント向けコンサルティングの2つがあった。手間のかかる監査業務をベースとして企業に深く入り込み、企業内に発生しているさまざまな問題やニーズを察知する。付加価値の高いコンサルティング業務を行い、監査業務のコストを補っていたということである。

エンロン事件で、監査法人の独立性を求め、これからは監査に専念しなさい、という話になってほとんどの監査法人が監査とコンサルティングを2つに分離したため、監査のフィーを上げざるをえないという話であった。これはもっともな話で、監査の現場を間近で見ていた私としては、企業内の財務関連帳簿を契約書から伝票まで隅から隅まで見るということになると体力作業となり、とても儲かる話にはならないと思う。

システム監査の世界も同じである。これも手間隙かかるが、そこからシステム構築サービスのビジネスチャンスを得ており、これがなくなると監査そのものの価格をあげなければならないだろう。

ましてや、日本の監査人は1万6千人しかいない。既存のクライアントのフィーを急に上げるわけにはいかないので、新たな業務であるJSOX対応(内部統制)については、高いフィーを提示せざるを得ないという話だ。いずれにしても、急に内部統制を全公開企業とその関係会社に適応せよ、といわれてもマンパワーが不足して対応できないという話である。

JSOX対応のコンサルタント手当ては6月中遅くても7月中?

JSOX対応をどういうふうに外部コンサルに委託するか決めかねている企業の反応としては、「6月の株主総会が終わってから決める。」という意見と、「6月以降実施基準が提示されてから考える。」という意見があった。それにあわせ、中央青山が7月から業務停止となる。中央青山のクライアント企業は今後監査法人を変えるかどうするか、態度保留のところが多いようである。7月に入れば、一気に動く可能性が高く、大混乱を引き起こす可能性が高い。資金力のある大手が優先され、小さな企業ははじかれてしまう可能性が高い。したがって6月中に目処をつけておくべきである。遅くても7月かもしれない。最初から大手を考えず、中堅で対応してくれそうなところを手当てしておくべきかもしれない。もちろん前述のように、中堅の監査法人は人が非常に少なく、すぐに満杯になってしまうだろう。

それを逃すと、次の策を考えねばならない。

開けられないパンドラの箱?海外現地法人

もう一つ大きな問題が存在することがわかってきた。むしろこちらの方がやっかいである。米国SOX対応で問題になった話でもあったが、連結対象となる海外の現地法人への対応である。特に海外に生産委託している企業は、海外現地法人が問題になるだろう。仮に日本のコンサルを確保できたとしても、次に海外をどうするのか、という問題が起こる可能性がある。特に中国はどうだろうか?近年、中国に進出し、生産拠点の(一部)移転をした企業が少なくないと思うが、自社の子会社のみならず、委託先も対象と考えたほうがよい。上場企業ですら、売上を10倍以上膨らませた財務諸表を提出していた企業もあったというほどで、粉飾が横行している(さすがの中国でも、10倍はひどすぎる話だったようで、社長とCFOは牢屋に入ったそうである。)。外資は合弁企業が原則なので、中国の意向も汲まないといけない。したがって、現実的には非常に大きな困難を伴う話であろう。これまでパンドラの箱であったものが、開かれることになる。いやいや、これは正確ではなく、開くことすらできないままで、ブラックボックスが存在しており、問題であるという事実だけが公表されるだけだ。

SOX対応の不備の影響?Delphiの事例

有名な事例として、米国自動車部品メーカーのDelphiの事例がある。SOX法対応企業約3000社のうち1割以上が「重大な欠陥」があるとして公表された。そのうち、特に問題が多いと指摘を受けた同社は、格付会社から大幅格付ダウンを受け、わずか1ヶ月で株価が3分の1に急落した。

海外現地法人の体制構築を急ぐ必要ある。安易に、「安いから」という理由だけでリスクを念頭に入れず移転した企業は後悔することになるかもしれない。痛いしっぺ返しを食らってしまう可能性がある。安いことには、わけがあって、必要なコストをかけていないのである。

米国証券取引委員会(SEC)は小規模企業への例外を排除の意向

ところで米国の動きであるが、上場企業では、SOX法404項への対応が思いのほか大変だったという話が噴出しており、緩和の措置がなされるのではないかという観測があった。少なくとも、小規模企業へは、株価総額ベースで上場企業の全体で占めるインパクトが小さいため、除外されるのではないかという期待があった。実際に、小規模企業への適応は延期されてきた。しかし、SECコックス議長によると、小規模企業への免除はしないだろうと発言をしており、期待できそうにない(但し何らかの措置はあると思うが)。日本はどうなるかわからないが、同じように、一律に対象になる可能性が高い。コンサルとして、監査法人の手当てができなかった中堅上場企業、しかも、海外に生産移転をしたところはどうすればよいのだろうか?

海外での内部統制のアイディア

製造委託を中国にシフトし管理に成功している事例として、以前、ワタベウエディングの話を聞いたことがある。その考え方は参考になると思う。品質管理部門を作り、日本人ではなく現地のスタッフを登用して、上手に内部牽制を働かせているのだ。顧客の仕様に合わせたウエディングドレスを、中国で縫製している。縫製部門はチーム制にして競わせ、生産量にあわせ歩合制で給料を支払う。すると普通は粗悪品の乱造になりがちだが、品質管理部門を強化し、強力な権限を与えている。そこのOKが出ないと、絶対に出荷しない。

両方中国人同士だとお互いに馴れ合いになってしまう懸念があるが、顧客からクレームが出るたびに、ペナルティとして、製造部門ではなく、品質管理部門の担当者の給料から差っ引くようにしている。こうすると、品質管理の担当者は、血眼になって問題になりそうなところを捜す。内部牽制の一つの成功事例だ。

JSOX対応にも応用ができそうである。内部管理部門を強化して、現地スタッフにしっかりと給料を与えるが、一方で監査で問題が発生すると、ペナルティを課して給料を差っぴくなどすればよいのではないか。これは単なるアイディアでしかないが、他にもパンドラの箱を開けないまま対処できる方法が存在することを祈っている。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

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