シリコンバレーに進出する日本の大学

徳田浩司(Koji Tokuda) 2007-01-16 12:00:00

シリコンバレーにて日本の大学主催のナノテクシンポジウムが開催

先週、JUNBA主催による第一回のシンポジウムがシリコンバレーにあるスタンフォード大学で開催され参加した。

JUNBAとは、Japanese University Network in the Bay Areaの略で、日本の大学によるシリコンバレー連絡会である。第一回のシンポジウムとして、ナノテクがテーマに取り上げられ、研究発表がなされた。ナノテクと聞いても、ほとんどの読者はあまりなじみがないかもしれないが、簡単にご紹介したい。

ナノテクを一言で言うのは非常に難しいが、私としてはナノ(10のマイナス9乗・メートル)の領域という微細なレベルでの物性を生かした技術と製品の総称と考えている。具体的な製品としては「カーボンナノチューブ」や「フラーレン(C60)」という炭素原子を微細なチューブに構成したものやサッカーボールのような形状にしたものが有名で、工業材料の話が多い。一見、エンタープライズコンピューティングにあまり関係がなさそうだが、実は大いに関係してくる。半導体への応用が期待されており、コンピュータの機能アップを支える重要な技術になる可能性があるのだ。現在の半導体の技術は、集積度が高まるにつれ、課題が増大している。例えば、最近、PC用のCPUはDual Coreにシフトしたが、これは、シングルコアのまま高速化を図ると、半導体に描くパターンの微細化が必要だが、発熱の問題などが生じていた。そのため、微細化は据え置いて、2つのCPUを並列化することで高速化を実現し、発熱の問題などを回避しようとするものである。現在の技術、材料の延長線上では微細化を進めることに困難が生じており、新しい発想の半導体材料、半導体素子が求められている。ナノテクがブレークスルーになるという期待により、半導体企業は開発にしのぎを削っているのである。

今回、研究発表したのは、日本の大学の教授陣で、世界の最先端を行く研究成果であり、非常にすばらしいものばかりだった。中でも私が興味を持ったのは、東北大学の大野英男教授の「半導体スピントロニクス」大阪大学の川井知二教授による「DNAナノサイエンス」であった。「半導体スピントロニクス」は近未来での新デバイスの可能性を感じ取ったし、「DNAナノサイエンス」は、人間のDNAの導電性を活かして、半導体の上にDNAを載せて電子デバイスを作るというユニークな研究である。バイオと半導体の融合と言え、非常に興味深かった。いずれも、ベースは半導体の技術なので、ナノテクを利用した半導体の開発に成功すれば、日本の半導体産業とコンピュータが、再び世界をリードする時代が到来するかもしれない。

半導体産業の集積地であるシリコンバレーでもナノテクは注目され、盛んに研究されている。IEEEのシリコンバレーにおけるナノテク部会の会合が、ナショナルセミコンで開催されるので、私もときどき参加する。しかし、実際にナノテクを利用したビジネスと言う話になると、大半のテーマがカーボンナノチューブを使ったものである。偏りを感じていたが、日本の技術は多様で、世界の先端を行くものだと感じた。そもそも、カーボンナノチューブ自体、日本人の飯島博士が発見したもので、日本人がパイオニアなのである。

シンポジウム前日に、東北大学発のベンチャーである、イデアルスターの役員の方ともお会いする機会があった。原子内包フラーレン(C60、サッカーボールの形状の炭素分子の中に原子を内包させたもの)の半導体やセンサーなどへの実用化の可能性をお聞きしたこともあり、この分野での日本の将来性を感じた。

世界に進出を始めた日本の大学

最近、目立った動きとして日本の大学がシリコンバレー(含むその他米国)に進出することが盛んであるということである。東北大学、東京大学(現在閉鎖中)、法政大学、早稲田大学、慶応大学、横浜市立大学、大阪大学、九州大学、鹿児島大学など有力大学が進出乃至は進出準備をしており、質量ともにそれなりの数にもなってきた。こういうシンポジウムを開けるところまでコミュニティができてきたということである。

2000年前後に大挙して進出し、ITバブル崩壊後一斉に引き上げた日本企業を尻目に、日本の大学は、続々とシリコンバレーに進出してきている。その背景としてあるのは、行政改革の一環として、国公立大学が法人化されたことが大きいと思う。国立大学ですら、もはや日本の政府、企業だけには頼っていられず、国際化が必要だと、自ら動き始めたのだろう。今後人口減少による税収の減少が起これば、さらに教育財源がカットされていくのだ。それだけ、大学側の危機感は強く、自ら外に向かって活動を行う必要性を実感しているのだと思う。

大学の論文の参照件数では、日本の大学は非常に多く、レベルが高いと世界的に認められている。これまで、日本の大学は日本の企業と組んでも、大学側にはほとんど収益をもたらさなかった。企業が儲ければ、回りまわって税収として回収できたわけである。しかし、今後はお上が頼りにならなくなっており、大学自ら運営費をまかなう努力が必要となった。大学は知識や研究成果の宝庫だ。知的財産のビジネス化はスタンフォード大学が優れている。スタンフォード大学がGoogleの設立時に出資し、莫大な利益を上げた話は有名だ。同じように、日本の大学も知的財産部が設立され、大学発ベンチャーの投資を行ったり、IPのライセンシングビジネス化を積極的に推進している。

今後、若年層の減少による人材不足と、財源不足になることは、大学もひとごとではない。新しい道として国際化を進めることが、必要である。大学は既にその道を選択し始めたのである。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

SpecialPR

  • 「奉行シリーズ」の電話サポート革命!活用事例をご紹介

    「ナビダイヤル」の「トラフィックレポート」を利用したことで着信前のコール数や
    離脱数など、コールセンターのパフォーマンスをリアルタイムに把握するに成功。詳細はこちらから

  • デジタル変革か?ゲームセットか?

    デジタルを駆使する破壊的なプレーヤーの出現、既存のビジネスモデルで競争力を持つプレイヤーはデジタル活用による変革が迫られている。これを読めばデジタル変革の全体像がわかる!