「電子母子手帳」を標準化--マイクロソフトやインテルなどが参加

大河原克行

2014-01-24 21:05

 母子健康手帳を電子化する「電子母子健康手帳」の標準化を目的とした電子母子健康手帳標準化委員会が1月24日に発足した。同委員会には、日本マイクロソフトとインテルが参画、製品とサービスを提供、技術的に支援する。

 電子母子健康手帳は、公益社団法人の日本産婦人科医会と日本栄養士会、公益財団法人の母子衛生研究会、一般財団法人の医療情報システム開発センターのほか、インテル、日本マイクロソフト、ミトラ、タニタ、NTTドコモ、KDDIなどが参画する。企業と団体が連携することで、今後半年から1年後に、標準化を目指す。

 母子健康手帳の電子化に向けては複数の企業や団体によるプロジェクトが進行している。だが、記録する内容やデータの記録法は統一された方式が採用されておらず、多数の独立方式が乱立し、相互に連携できない、統合活用ができないという点が懸念されている。

 標準化委員会は、内閣官房や厚生労働省の母子保健課、総務省の情報流通高度推進室の賛同を得て、電子母子健康手帳の全国への普及と、海外支援活動を行うことを目的に設立。新生児や乳児、学童期の管理に必要な体重、身長、体温などの各種パラメータの記載のほか、新生児や乳児では感染症予防が重要であることから、そのための感染症やワクチン接種情報のIT化(自動識別取り込みと記録、副反応などの安全性情報の記録)、新生児聴覚検査、発達などに関する記録を電子化するための標準作業を行うことになる。

原量宏氏
香川大学 瀬戸内圏研究センター 特任教授 原量宏氏

 香川大学 瀬戸内圏研究センター特任教授の原量宏氏は「乳児死亡率が最も低いのが日本であり、そこに70年の歴史を持つ母子手帳の役割は大きいといえる。今ではインドネシアなどのアジアにも広がっている」と重要性を説明した。

 「15年ほど前からは、妊婦を対象にした周産期電子カルテネットワークの構築に取り組んでいるおり、2008年には電子母子健康手帳のIT化を進めるという方針を出した。だが、それが進まずにいた。今回、内閣官房を通じて、厚生労働省に提案された。標準フォーマットに記録することで、産婦人科で診療したデータを小児科医院で見られるといったように、医学の発展に寄与するとともに、公衆衛生の観点からも役立つ」と、原氏は電子母子健康手帳への取り組み経緯と標準化の役割を説明した。

中林正雄氏
母子愛育会 総合母子保健センター 所長 中林正雄氏

 母子愛育会 総合母子保健センター所長の中林正雄氏は「東日本大震災の際、岩手県ではすべての患者のデータが電子化されており、妊婦がどこに里帰りしても出産できた。このように災害に強いシステムを全国に広げてほしいとの要望が内閣官房からあがった。これを受けて活動を開始し、マイクロソフトやインテルなどの賛同を得た」と補足した。

 岩手県では、岩手県周産期医療情報ネットワークシステム「いーはとーぶ」を2009年に構築し、県内の医療機関と市町村をつないで運用して実績があり、母子手帳番号をIDとして活用。災害時にも電子母子手帳が役立つことを実証した経緯がある。

 日赤医療センターでは、電子母子健康手帳のデータを匿名の上で利用することに対して、3000人の母子手帳所有者の全員が同意したという例を挙げ、「母子のために役立つということに対して情報を提供することには前向きであった」(中林氏)とした。

生まれた時からライフログを管理

 電子母子健康手帳の基盤にIaaS/PaaS「Windows Azure」を採用。アプリケーションの開発環境として、インテルの「Atom」プロセッサベースのWindowsタブレットを提供。ミトラが開発した電子母子健康手帳のWindowsストアアプリ「Mamaのーと」を活用する。

織田浩義氏
日本マイクロソフト 執行役 パブリックセクター統括 本部長 織田浩義氏
川原優子氏
インテル 法人営業推進本部 本部長 川原優子氏

 Mamaのーとは、従来の母子健康手帳と同様に身長や体重などの基本情報やスケジュールなどを記入。将来的には、医療機関などの電子カルテや予防接種管理システムと電子母子健康手帳を連動させることで、タブレットのカメラアプリでワクチンのバーコードを読み取れば、即時に母子健康手帳と電子カルテの双方に登録できるようにし、妊産婦と医療機関の手間を省き、より安全性を高めるための高度な活用にも取り組むことができるようなるとする。

 日本マイクロソフト 執行役 パブリックセクター統括本部長の織田浩義氏は標準化委員会に参加する意義をこう説明した。

 「健康情報管理の仕組みに対する重要性が高まる中、生まれた時からライフログを管理するという、将来に向けて関心の高いプロジェクトとなる。Bill Gates氏をはじめ、当社は医療に分野では高い優先順位で取り組んできた経緯がある。今回の日本での取り組みを通じて、世界に発信していきたいと考えている。WindowsタブレットとAzureを活用することになるが、これらの製品やサービスがどんな貢献ができるかといった取り組みともいえる」

 インテル 法人営業推進本部 本部長 川原優子氏は「まずは妊産婦がメリットを享受することになるが、将来的には、幅広い活用が想定される。技術で社会問題を解決できる。日本から誕生した質がいいサービスを世界に適用し、利活用の後押しをしたいと考えている」と取り組む意義を強調した。

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