イベントリポート:HCL CTO Straight Talk 2016  IoTで変わる製造業の未来、21世紀型企業に生まれ変わるには?

2016年11月に開催された「HCL CTO Straight Talk 2016」は、世界31カ国でITサービスを提供するHCLグループが、同社に蓄積されたITトレンドに対する知見をもとに、今後の企業のIT戦略のあり方を経営者やITリーダーたちに問いかけるイベントだ。「エンジニアリングが変わる ―第四次産業革命を味方にする成長戦略」をテーマに開催された今回は、本格化するIoTとその利活用をどう進めるべきかについて、講演やパネルディスカッションが行われた。

産業は顧客中心主義の時代へ、変革できない企業は生き残れない

 まず、「21st CENTURY TECHNOLOGIES - これからのエンジニアリングに求められる視点」と題された基調講演に登壇したのは、HCLテクノロジーズのGH Rao氏だ。Rao氏は、今日の企業が置かれている競争の激しさを示すために、次のように切り出した。


HCLテクノロジーズ
Engineering and R&D Services, President
GH Rao氏

 「企業の短命化傾向は年を追うごとに加速している。1957年に企業の平均寿命は61年だった。これが2015年には18年になり、2025年には15年以下になると見られている。時代に合わせて自身を変革できない企業は、生き残ることができない。テクノロジーの変化についていけない企業は潰れると言い替えてもよいだろう」

 では、時代の変化とは何か。現在に至る産業の変遷を「製造業の時代」(1900-1960)、「流通業の時代」(1960-1990)、「ITの時代」(1990-2010)と区分したRao氏は、2010年以降を「顧客中心主義の時代」と位置づける。

 「かつての企業は自身ですべてをコントロールしていた。しかし、現在のテクノロジーは、顧客のニーズにリアルタイムに対応することを可能にした。すなわち、現在は顧客がテクノロジーを介して企業をコントロールする時代だと言えるだろう」(Rao氏)

 Rao氏は、時代の変化に合わせて変身を遂げた企業の例として、IBMやロールスロイスを挙げる。どちらも100年以上の歴史を持ちながら、最先端のビジネスを展開している企業だ。

 「IBMはもともと作って売る製造中心の会社だったが、現在はサービスが中心だ。スーパーコンピューター上で人工知能を動かして、それをサービスとして提供している。ロールスロイスもジェットエンジンをIoTの仕組みを使って従量課金制のサービスにし、予防保全などのサービスを強化した。どちらの企業の変化もカスタマーエクスペリエンス(CX)の向上を目指した結果であり、顧客中心型の企業と呼べるだろう」(Rao氏)

 それでは、製造業の企業は、どのようにして顧客中心の企業へと転身を測ればよいのだろうか。Rao氏は、パーキング・メーターを例にその可能性を提示する。

 「パーキング・メーターの製造企業は、IoTを導入することで駐車場のオーナーと管理会社向けにクラウドベースの駐車場管理システムを付けて提供することができる。利用者向けには、駐車場の空き情報を提供することができるだろう。さらに、レンタカー会社と提携してビジネスを拡大することも考えられる。パーキング・メーターをスマート化してレンタカーの支払いができるようにすれば、乗り捨て型のレンターカーサービスが提供できる」(Rao氏)

 Rao氏は、パーキング・メーターの他にも複合機や医療機器などを例に、顧客中心ビジネスの可能性を紹介した。確かに製造業の時代は過去のものとなりつつあるのだろうが、Rao氏の講演を聞くと、IoTは製造業の企業が再びイニシアチブを取るための原動力になりえると感じさせたれた。

事例から学ぶIoT成功へのアプローチと課題

 基調講演に続いては、国立情報学研究所 所長補佐の佐藤一郎氏による特別講演「IoT時代のデータ収集・分析・利活用」が行われた。講演の冒頭、佐藤氏はIoTとビッグデータの関係について氏の考えを説明する。


国立情報学研究所 所長補佐 / アーキテクチャ科学研究系 教授 /
国立大学法人 総合研究大学院大学
複合科学研究科 情報学専攻 教授(併任)
佐藤一郎氏

 「ビッグデータはIoTより先に使われ始めた言葉だが、両者の違いは着目点の違いにほかならない。データ収集の部分に注目すればIoTだが、分析の部分に注目すればビッグデータとなる。データを収集・分析して何らかの価値を生み出すという意味で、両者の目指している方向は同じだ」(佐藤氏)

 佐藤氏は、IoTの現状と課題を端的に示すために2つの事例を紹介した。1つめは、NTTドコモが保有する気象データの例だ。

 「NTTドコモは全国の基地局のうち、4000カ所に花粉センサーを設定していて、内2500カ所には気象観測装置も設置している。この数は気象庁が設置しているアメダス観測所の1300カ所よりも多い。NTTドコモは、気象庁よりも詳細な気象データを保有しているわけだ。ただし、そのデータは研究目的には使えるが、実際にはうまく活用されていない。気象観測を行うには検定を受けた機器が必要であり、ドコモの機器は検定を受けていないからだ。法規制がIoTのニーズに追いついていないということもできるが、データを集めてから使い道を考えるというアプローチでは、あとから問題が生じることもあるということを示しているとも言えるだろう」(佐藤氏)

 2つめの例は、風力発電機の例だ。

 「風力発電機のトップメーカーは、シーメンスや三菱重工などだが、すでにIoT化されていて稼働状況や故障の監視、メンテナンスのためにデータが集められている。そして、シーメンスの発電機のデータはドイツで管理されている。国内の詳細な環境情報が国外で管理・利用されているわけだ。ここには、収集したデータは誰のものかという、データの所有者の問題がある」

 続けて佐藤氏は、IoTやビッグデータをビジネスに活用するうえで、重要となる考え方は「損を減らす」ことだと主張する。

 「IoTやビッグデータで新規ビジネスを創出して利益を拡大する、という話がよくされるが、これはなかなか難しいアプローチだ。むしろ、損を減らす手段として使うほうが失敗は少ない。例えば、日本でビッグデータの利活用が進んでいるのは、オンラインゲーム業界だ。彼らは、ユーザーの行動履歴を蓄積しており、ユーザーが契約を打ち切るのはどんなときかを分析している。そして、離脱者の行動パターンを検知して引き止めのためにキャンペーンを打つ、ということをしている」(佐藤氏)

 さらに「損を減らす」というアプローチには、次の段階があるという。

 「先ほど紹介したのは『自社の損を減らす』アプローチだが、その先にあるのは『顧客の損を減らす』というアプローチだ。例えば、最強のリース会社とはどんな会社だろうか。リース品の利用状況をIoTでモニタリングし、使われていないリース品のキャンセルを顧客に勧める会社だ。短期的には自社の損となるが、そうして勝ち得た信頼は長期契約につながるはずだ」(佐藤氏)

 この考えは、基調講演でRao氏が語った顧客中心主義と同質のものだ。

 IoTによって損を減らすというアプローチは、インフラの維持管理でも期待されているという。

 「トンネルや橋梁などは、安全性を確保するために定期検査が行われているが、異常がない状態で行われる定期検査は極端に言えば、無駄と言うこともできる。IoTを活用して対象物の状態をリアルタイムに確認できれば、定期検査を減らすことができるだろう。これに近いことを実現しているのが警備会社で、防犯センサーを活用することで警備員の巡回検査を減らしている」(佐藤氏)

 佐藤氏が警備会社のセコムから聞いた話では、セコムは国内で10の6乗オーダーの火災探知機を管理しているという。「センサー数で言えば、おそらく日本で最大のIoT事例」(佐藤氏)だそうだ。

 では、製造業の企業はIoTで何ができるのか。真っ先に考えられるのは徹底したコスト削減だと佐藤氏は言う。

 「例えば、温度変化による製造誤差が無視できない金型製造のような精密加工の場合、従来は完全温度管理の工場が不可欠だった。ところが、IoTを使って温度と誤差の関係を明らかにし、それも含めて加工機械をプログラミングすれば、大げさな工場は不要になる。莫大な設備コスト、ランニングコストが削減できるわけで、これは競争力強化につながる」(佐藤氏)

IoTのデータ収集・分析の課題とは

提供:株式会社エイチシーエル・ジャパン
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2017年2月28日
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