新たな局面を迎えたスマートデバイス活用--ZDNet Japanセミナーレポート - (page 2)

2014-03-28 18:14

「イノベーション=新しいものを作る、新しいことをする」ではない

 特別講演は「スマホ+タブレットを生かした新規事業の創り方」のスピーカーとして伊藤忠テクノソリューションズのITビジネスアナリスト、大元隆志氏が務め、スマートデバイスを用いたイノベーションを創出方法についてもヒントを提示した。

 経営者の「制約にとらわれず新しいことをやれ」という鶴の一声から、新規事業開発がスタートするケースは少なくない。大元氏は、多くの人はこのような指示を受けると、スティーブ・ジョブズ氏のiPhoneのような、それまで世の中に存在しなかったまったく新しい何かを創造しなければならないと考える傾向にあると指摘する。このようなミッションでは目標やゴールの設定ができず、とりあえず情報収集やブレインストーミングを重ねてみるも時間ばかりが過ぎ、一向に成果が生まれないといった状況に陥りやすい。


伊藤忠テクノソリューションズのITビジネスアナリスト・大元隆志氏

 一方、大元氏は国内企業によるさまざまな先進的な取り組みを取材する中で、イノベーションとは必ずしも新しい何かをすることではないと気付いたという。自動車メーカーがカーライフをサポートするスマートフォンアプリを提供する、テレビ局がスマートデバイスをセカンドスクリーンとして活用する、小売店がソーシャルメディアやRFIDなどを使って店舗に付加価値を付けるといった事例で、実際に顧客満足度や売上の向上を実現したが、それらはまったく新しい概念を生んだわけではなかった。

 

 大元氏は、iPhoneが「アイデアの改革」であったのに対し、既に存在しているものやプロセスに新たな実現方法を適用することを「手段の改革」と呼び、前者が天才の才能しか及ばない領域であるのに対し、後者は新規事業に取り組む多くの人が採用できるアプローチであると説明。特に一般企業の従業員は、ベンチャー企業のように立ち上げ段階でアイデアをじっくり練る時間があるわけではなく、多くの場合時間や利用できるリソースに制限がある。アイデアよりは手段の検討に時間を割くほうが合理的だ。

 スマートデバイスを用いる企画のポイントがいくつか挙げられたが、そのひとつが「今風にアレンジする」こと。昔の携帯情報機器は通信速度が低速で、取得できる情報も限られていたが、現在のスマートデバイスはLTE回線を通じてどこでも高速通信が可能で、GPSや各種センサーの情報も取得できる。また、クラウドを組み合わせればサービスのために専用のシステムを開発しなくても必要な機能を実装することができる。大元氏が審査員を務めるモバイルソリューションのコンテスト「MCPC award」では、過去にフィーチャーフォンで構築していたシステムをスマートフォン・タブレット向けに作り直すことで、十分に革新性を感じられる製品として生まれ変わったものも多く出展されているという。

 新規事業は従来事業と比べると規模が小さいため、事業の評価に売上や利益といった従来と同じ指標を用いるのは望ましくないこともある。ビジネスである以上、売上を完全に不問とするのは難しいが、例えばメディアへの露出数や、問い合わせ・商談の件数なども評価軸に入れ、売上そのものよりもこれらの話題性・インパクトを優先して評価するといった考え方もあり得る。

 また、複数の事業者の協業によってプロジェクトを進めることで、リスクの分散や、事業の早期実現につなげることもできるほか、ユーザーコミュニティを巻き込むような企画の場合、クラウドファンディングやクラウドソーシングを用いる手もある。このように、リソースの調達方法を改革すること自体が新規性を生み、イノベーションにつながる可能性もある。

※クリックすると拡大画像が見られます

 大元氏は「スーパーマンのような人が一人で何でもやってきたという例はない」と述べ、作業をアシストしてくれる仲間の重要性を強調した。共同作業者は大勢存在必要は無く、成功事例では大企業においても4~5人のメンバーが中心となって動いていたケースが多かったという。

 そのほか、講演では最近報道されることが多いウェアラブル機器も話題に上った。現状では、デザインやバッテリーといった機器自体の問題や、利用に至る動機も十分ではない。このことから大元氏は、ウェアラブルが一般コンシューマー市場へ浸透するかは未知数としつつも、特定業務やテーマパークでのエンターテインメント用途などのB2B市場ではそれらの欠点があまり問題とならないことから、現状でも受け入れられる可能性はあると指摘する。また、B2C市場でも健康管理や子守など利用場所が宅内に限定される用途であれば、見た目や他者の視線は気にならなくなるため、欠点の一部は軽減される。

 ウェアラブル市場での事業の立ち上げは容易ではないが、既にあるものを「手段の改革」でウェアラブル風にアレンジしたり、適用範囲をニッチに絞り込んだりすることで、現状でも活路を見いだせる。ニーズが温まるのを座して待つのではなくできることから小さく始めることで、初動期の市場においても事業の展開が可能になると指摘した。

 セミナーではスマートデバイス関連ソリューションを手がけるベンダー各社によるセッションも設けられた。これらの模様は別記事でレポートする。

  • スマートモバイルBYODの実践に向けて(日本ユニシス株式会社)
  • 3ステップで考える。マルチデバイスに対応したITインフラ構築術(株式会社ソリトンシステムズ)
  • 利便性と安全性の両立を実現!スマートデバイス管理の基本(クオリティソフト株式会社)

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