掲載日時: 2006-04-11 23:38

総合ソリューションをASPで提供するネットスイート:ソフトウェアのオンデマンド化を推進するASP(2)

セールスフォースに遅れること6年、この4月に日本法人を設立したネットスイートが、ASP業界に新たな風を吹き込もうとしている。

著者 : 藤本京子(編集部)

URL : https://japan.zdnet.com/article/20101088/

 Oracleなどの大手ソフトウェアベンダーが一部のソフトウェアのサービスメニューをASP形式で提供していることを除いては、これまで日本進出を果たしたASP事業者というとSalesforce.comのみというのが現状だった。そこへ新たに日本進出を果たしたのがNetSuiteだ。

 NetSuiteは、くしくもSalesforceのCEO Marc Benioff氏と同じくOracle出身者で、現在NetSuiteのCTOを務めるEvan Goldberg氏と、現在もNetSuiteの大株主となっているOracleのCEO、Larry Ellison氏が、NetLedgerとして1998年に米国で創業した企業だ。1999年に最初の製品を導入し、2002年に中小企業をターゲットとしたCRM、ERP、Eコマースの統合ビジネスASPスイート「NetSuite」をリリースした。

画像の説明 ネットスイート日本法人社長に就任した東貴彦氏

 ネットスイート日本法人が設立されたのは2006年4月1日で、セールスフォース・ドットコムより6年遅れてのスタートとなる。日本法人の社長に就任したのは、マイクロソフトに12年間在職し、ビジネスソリューショングループ経営戦略担当上級執行役兼取締役などを務めた東貴彦氏だ。NetSuiteは米国にて2006年中に株式公開を予定しており、将来的には日本法人での株式公開も視野に入れている。

 日本法人が設立されたばかりとはいえ、グローバル市場で事業を展開していたNetSuiteは、すでに日本国内でもユーザーを抱えている。例えば、ソフトウェア企業のアゾラテクノロジーズ、金融サービスを提供するメイヤー・アセット・マネジメント、卸売販売業のカファ有限会社などが同社の顧客だ。全世界での導入社数は約7000社で、ユーザー数は約10万人。Salesforceの2万5000社、40万ユーザーには及ばないものの、「3年でSalesforceに追いつくことを目標としている」と東氏は述べている。

 東氏は、これまでのASP事業者と、最近になって新たに登場したキーワード「Software as a Service」(SaaS)事業者との違いを明確に分けて定義している。それは、「従来のASPは、パッケージ版として提供していたソフトウェアを、ウェブでも提供する方式だったが、SaaSはウェブに特化したアプリケーションを提供する」という点だ。

 東氏はSaaS業界について、「日本でSaaS形式の業務アプリケーションを提供しているのは、現段階ではSalesforceとNetSuiteのみだが、米国では会社の業務を部分的にアウトソースする感覚で、人事代行や給与計算、さらにはオンラインバンキングなど、業務・業種別のSaaSが多く存在する」と話す。

 NetSuiteでは、ERP、CRM、Eコマースの3つのアプリケーションを統合して提供している。特徴的なのは、この3つのアプリケーションを結ぶデータベースが1つのみという点である。1つのデータをさまざまな形式で見せることで、ERPやCRMなどの機能を実現するのがNetSuiteだ。東氏は、「単一データベースのマルチビュー形式を実現することで、アプリケーション間のデータ移行などがスムーズに実行できる」とNetSuiteの強みを説明する。

 また、ERP、CRM、Eコマースという3つの組み合わせについても、「これらを中小企業に向けてすべて提供できているベンダーはまだ存在しない」と東氏。つまり、これまで別々のマーケットとして認識されていた市場がすべてNetSuiteのターゲットとなると言うのだ。「ユーザーは、それぞれのアプリケーションを単独で利用することもでき、各機能を連携して利用することもできる。例えば、ネット上でショッピングモールを立ち上げるためのツールはすべて揃っており、商品を展示させるためのツールやデザイン機能、決済機能なども用意されている。また、CRMを使ってネット店舗とリアル店舗というマルチ営業チャネルを連動させ、統合した管理も可能だ」(東氏)

 さらにNetSuiteでは、大企業もターゲットとしている。それは、「特に複雑な企業間取引が多く存在する日本市場で有効だ」と東氏は語る。同氏は日本市場の特徴として、「日本の企業の多くは、ディストリビューターとリセラーという関係が成り立っている場合が多い。企業同士の関係も大企業の子会社や関係会社、フランチャイズ関係などが数多く存在し、何らかのBtoB取り引きを行っている」と説明する。こうした取り引きのためのシステムは非常に高価で、システム構築の手間も多大となるが、「子会社や取引会社を多く抱える大企業がNetSuiteを利用すれば、BtoBのシステムが容易に構築できる。例えば各リセラー向けの個別ポータルを立ち上げることもでき、リセラーごとの価格設定やキャンペーンなど、それぞれに特化した情報を提供することも可能だ」と、東氏は大企業をターゲットとした市場での可能性について語った。こうしたBtoB形式での利用の提案を日本国内ではじめた結果、すでに10社以上からの問い合わせがあったという。

ライバル企業をどう見るか

 NetSuiteの株主には、OracleのLarry Ellison氏が名を連ねているが、Oracle自身も「Oracle On Demand」というASPモデルのサービスを提供しているほか、2005年9月にはオンデマンドサービスが順調に伸びていたSiebel Systemsの買収も果たしている。OracleとNetSuiteのビジネス領域がバッティングすることはないのだろうか。

 東氏は、NetSuiteが大企業もターゲットにするとはいえ、やはり「中心となるのは中小企業。米国の顧客も、1社あたりのユーザー数は平均約10名といった具合だ」と述べ、Oracleとターゲット層が重なることはないとしている。「お互いリーチできていない市場をカバーしあっている状況だ。もちろん、遠い将来Oracleのライバルとみなされるようになれば、それはそれでうれしいが」と東氏は笑う。ただ、市場規模としては中小企業マーケットが非常に大きいため、まずはこの分野での事業に注力するとしている。

 一方のSalesforceについても、「同じように中小企業が主なターゲットとなっているが、この市場は幅広いため、共存できるだろう」としている。

 Salesforceでは、さまざまな業務アプリケーションをSalesforce上にて提供する新サービス「AppExchange」を2006年に入って本格的に稼働させている。この動きについて東氏は、「必然的な成り行きだろう」と見ている。Salesforceが独自で提供しているのは、基本的にはCRMソリューションのみ。だが、通常企業の業務はCRMだけで成り立つことはなく、他の業務アプリケーションとデータを共有して運用しなくてはならないためだ。ただし、AppExchangeは、NetSuiteのように最初から1つのデータベースで3つのアプリケーションを動かす仕組みを用意しているわけではない。そのため「データ連携においてはNetSuiteが有利だ」と東氏は強調した。

 過去1年の顧客の中でも、SalesforceからNetSuiteへ乗り換えた例が新規顧客の約1割を占めたという。また、一番多かった例としては、Intuitの会計ソフト「QuickBooks」の乗り換えでSalesforceを検討し、同様のサービスとしてNetSuiteを比較したところ、「NetSuiteはQuickBookとSalesforceの機能がすぐに利用できる上、Eコマース機能までついているということで、NetSuiteを選んだユーザーが多かった」と東氏は述べている。

 NetSuiteは、自らを「小さなSAP」と表現しているが、そのSAPも2006年2月、ASP型のCRMサービスを発表している(関連記事、日本国内でも近日中に発表予定)。このように、多くの企業がASP市場へ参入していることについて、東氏は「自分のポジションをどう作るかが重要となる。こういう顧客に採用してもらいたい、というターゲットを明確にしなくては」と述べている。

 「NetSuiteの場合は、統合ソリューションでの提供が中心となるため、理想的なユーザー層はインターネットでビジネスをしたいと考える企業だ。フロントでEコマースができるツールを提供し、そのフロントシステムをバックエンドで会計や顧客管理システムと結びつける。これを通常のシステムで実現しようとすると、中小企業にとってはコスト的にもシステム的にも大きな負担となってしまう。セキュリティに関しても、自らサーバを持ち管理するよりも、NetSuiteに任せる方が安価で安全だ」(東氏)

 さらに、同氏がネットスイート社長に就任するまで在職していたマイクロソフトも、米国で発表した「Dynamics CRM」の最新版でサブスクリプション方式の料金体系を用意したばかり(関連記事)。東氏は、「Microsoftの基本的な考えは、1台のPCになるべく多くのMicrosoft製品を実装させることだ。WindowsやOfficeはもちろんだが、次の一手としてビジネス製品を拡大しようとしている。それがSaaSモデルに移行するとどうなるのかわからない」とコメントした。

販売はオフサイトで

 日本で中小企業をターゲットとした事業展開といえば、これまで対面販売が基本だった。それを東氏はあえて覆し、「対面販売ゼロを実現したい」と話す。製品デモやサポートがすべてウェブ上またはウェブ会議で実行できるASPモデルならではの考え方だ。

 東氏は過去の経験から、中小企業にITが普及しない理由のひとつとして、ベンダー自身が中小企業を敬遠していることを挙げる。中小企業の場合、導入金額が比較的少額であるにも関わらず、対面営業やオンサイトでのサポートが求められ、大規模システムと同等の時間と手間が必要となるためだ。「オフサイトでもわれわれのモデルでは十分なサポートが提供できる」と東氏は強気だ。

 NetSuiteインターナショナル版は、すでに日本語が利用可能となっているが、日本版はインターナショナル版を元に、日本語処理の高速化や日本特有の機能強化などを行う。日本語のふりがなに対応するといった基礎的な部分はもちろんだが、大幅な機能のロードマップとしては、2006年夏に業種別テンプレートや携帯電話との連携、配送連携、決済連携などを予定している。また、2007年夏には日本専用の帳票・報告書や税務処理、会計処理機能などを提供する予定だ。

 ERPといえば、世界市場ではSAPのシェアが大きいものの、国内には数多くの国産ERPベンダーが存在し、特に日本特有の会計機能などが中小企業に好まれるケースが多い。こうした国産ベンダーの中には、NetSuiteと同じくASPモデルでサービスを提供する企業も存在するが、東氏は「こうした企業と敵対するのではなく、協業できるのではないか」と見ている。「このようなモデルで作られたシステムは、Webサービスがベースとなっているため、機能の統合もそう難しくはないはずだ」と話す東氏は、すでにこうしたベンダーとの協業について検討を始めている。「OEMモデルも考えられるし、ジョイントベンチャーもありえるだろう」と、東氏は国内企業との協業に積極的な構えを見せていた。

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