掲載日時: 2007-07-30 17:30

日本人技術者の“感性”をLinux/OSSに実装したい--The Linux Foundation

Linuxを企業の情報システムに、社会全体に普及させるには、コミュニティーの草の根的な活動に、IT企業・ITユーザーの要件を融合させる必要がある。コミュニティーとともにLinuxの普及促進を目指す団体の一つが、The Linux Foundation(TLF)だ。

著者 : 田中好伸(編集部)

URL : https://japan.zdnet.com/article/20353657/

 オープンソースソフト(OSS)であるLinuxの進歩を支えているのは、言うまでもなく開発コミュニティーだ。しかし、開発コミュニティーの成果物であるLinuxを企業の情報システムに、社会全体に普及させるには、コミュニティーの草の根的な活動に、IT企業・ITユーザーの要件を融合させる必要がある。そうした開発コミュニティーとともにLinuxの普及促進を目指す団体の一つが、The Linux Foundation(TLF)だ。

 TLFは、2007年2月にOpen Source Development Labs(OSDL)とFree Standards Group(FSG)が合併して誕生した非営利組織。TLFで日本担当ディレクタを務める工内隆氏は、日本でのLinuxコミュニティーとの交流、各ワーキンググループ(WG)、主要メンバー会社との協調を通して、日本での活動全般に責任を持っている。その工内氏は、TLFの現段階での目的について「Linuxの普及促進、保護、標準化にある」と語る。

ビジネス要件とコミュニティーとのギャップ

 TLFの目的である、Linuxの普及促進のためにThe Linux Foundation Japanはシンポジウム主催といった活動を続けている。

 「シンポジウムは“コミュニティーとの橋渡し”という意味を込めて、開催しています。日本で開催するシンポジウムが目指すものは、二つあります。一つは、コミュニティー参加者の母数の増大。もう一つは日本の技術者が持つ、技術に対する“感性”をもっとLinuxをはじめとするOSSに実装したい、というものです」(工内氏)

 現在、Linux/OSSは日本はもちろん世界的に、企業の情報システムの基盤として採用されているが、つぶさに検証していくと、企業が求める要件とコミュニティーの“思い”との間にはまだギャップが存在しており、企業システムのある部分では、Linux/OSSがビジネス要件にフィットしないこともまだある。

 「たとえば、帳票のけい線をきっちりキレイに印刷するといったことについては、日本人技術者の感性が非常に適していると思っています。またシステムにバグがあることが判明した場合、その原因究明や修正についても、日本人は非常に優れています。そうした技術に対する感性を実装したいのです」(同氏)

 海外の技術者に比べて物静かと言われる日本人技術者の感性をシンポジウムを通して、発言していってほしいという思いも工内氏にはあるのだ。

日本人技術者開発の機能がカーネルに実装

 日本で開催するシンポジウムが目指すものをいかに実現しているかというと、Linuxのトップメンテナーを講演者としたセミナーや日本人技術者による成果報告を開催しているのである。またそうした場では、できるだけ双方向の議論を展開するために、セミナーに加えて議論の場所として「Birds of a Feather」(BoF)も同時に開催している。

 実際、これまでに開催されたシンポジウムやセミナーは、2006年に3回、2007年もすでに2回開催されている。毎回、100〜150人もの技術者が参加しているという。来日したトップメンテナーは、現在米Googleに所属するAndrew Morton氏、米IBMのTed Tso氏、米SteelEyesのJames Bottomley氏、米Red HatのChris Wright氏、米NovellのGreg Kroah-Hartman氏といった一流である。

 日本から海外への発信という点で、工内氏が強調するのが、開発を競うシンポジウムである「Ottawa Linux Symposium」で日本人発言者が増加していることだ。この7月に開催された同シンポジウムでは、日本人が4人発言しているという。また、シンポジウムとは別に、開発コミュニティー本来の活動の中で、日本から出たパッチは質・量がともに向上しているともいう。さらには、日本人が開発した機能がLinuxカーネルに取り入れられているという事例も出てきている。

 美田晃伸氏が開発した「Linux Fault Injection」は、エラー発生機構と呼ばれるもので、Linuxカーネルの任意の場所で指定した頻度でエラーを発生させることができる。この機能を使うことで、カーネルでエラー処理が適正に処理されるかというテストができ、ソフトの堅牢性を高めることができるのである。この機能は、カーネル2.6.20から実装されている。

 「Fault Injectionは、ソフトの品質を高めるうえで非常に有用で、いかにも日本人らしい発想ですが、開発コミュニティーの中核メンバーにも非常に受け入れられて、実装されました。しかし、この機能が日本人によるものだということがあまり知られていなかった。こうしたことを日本人にももっと知ってもらって、日本からの提案をもっと増やしたいと思っています」(工内氏)

 事実、美田氏のFault Injectionは、この7月に開催されたシンポジウムで、その開発経緯や仕組みなどについて講演している。

ウェブでも情報を発信

 もちろんTLFが進める普及促進活動は、シンポジウムだけにとどまるわけではない。ウェブでの情報発信も展開している。ウェブでの情報発信はもともと、OSDLに参画していた企業が、SIerやシステムの運用管理者、あるいはユーザー企業の立場で具体的な改善策を検討・実施していくことを目的に、SI Forumとして情報を発信している。現在、SI Forumには、以下のような情報が蓄積されている。

日本でも開発者をサポート

 TLFの活動では、Linuxの保護も重要だ。開発の中核メンバーであるLinus Torvalds氏は、現在TLFから経済的支援を受けて開発活動を続けている。また、先に挙げたMorton氏も、Googleに移籍する前には、OSDLから経済的支援を受けていた。工内氏は「Torvalds氏やMorton氏に匹敵する、あるいは彼らに次ぐような開発者を日本で同様の形でサポートすることがあり得るだろう」と話している。

 開発者へのサポートという点では、シンポジウムやウェブからの情報発信で、「たとえばGnu Public License 3(GPLv3)がどのような影響をもたらすかなどの内容のレクチャーなどを計画したい」(同氏)との意向も示している。

 TLFのもう一つの目的である標準化ももちろん重要である。Linuxでの標準化とは、Linuxの内部構造の標準化を行う「Linux Standard Base(LSB)」だ。これはTLFを母体にしたLinuxディストリビューションの共同プロジェクトである。

 「2年前までは、日本語処理の不足がLinuxの課題として取り上げられていましたが、これはFSGの成果により、最新のLinuxでは一通りのことができるようになりました」(同氏)

 日本語処理はある程度は解決されたとしても、まだLSBが果たす役割は大きい。複数のディストリビューション間、あるいはバージョン間の互換性、アプリケーションの移植性、デバイスドライバなど、LSBの活動はこれからも続いていく。そうしたなかで工内氏は、「再度、日本のベンダー各社の関心を喚起することが必要になっている」と、今後の標準化活動の方針を明らかにしている。

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