掲載日時: 2008-07-10 22:46

カスペルスキー会長が語る:ロシア市場、IPO、企業買収、業界再編

ネット企業が続々とIPOに向けて準備を進めるロシアのIT市場。カスペルスキーも昨年8月、IPOを視野に入れた組織再編を実施した。同社会長のナタリア・カスペルスキー氏にロシア市場や企業戦略について話を聞いた。

著者 : 冨田秀継(編集部)

URL : https://japan.zdnet.com/article/20376992/

 IT企業による大型IPOのニュースがめっきり減った昨今、ロシアが元気だ。

 検索サイトを運営するYandexはYahooの元幹部を招聘し、ネット企業の屋台骨となる研究開発部門を充実させた。年内の米株式市場への上場を視野に入れての増強だ。comScoreの調査によると、Yandexはロシアの検索市場において1位。Googleを超えるシェアを保有している。ポータルサイトとしても国内外の競合を抑えて1位を獲得している。

 ロシア第2位のポータルサイトのmail.ruも年内にはロンドンで上場するべく、準備を進めている。

 どこの国もまずはネット企業が人気を集めるようだが、ロシアのIT企業にはセキュリティベンダーとして日本でも著名なKaspersky Labがある。

 Kaspersky Labは、現CEOのEugene Kaspersky氏、現会長のNatalya Kaspersky氏らが立ち上げたセキュリティ企業。現在までプライベートカンパニーとして運営されているが、昨年8月、IPOに向けた組織改編を実施した。

 ロシアのIT市場やKaspersky Labの事業戦略について、同社会長のNatalya Kaspersky氏に話を聞いた。なお、同氏はDLP(情報漏えい対策)製品を手がけるInfoWatchのCEOも兼務している。

Kaspersky Lab会長でInfoWatchのCEOを務めるNatalya Kaspersky氏 Kaspersky Lab会長でInfoWatchのCEOを務めるNatalya Kaspersky氏

Yandexやmail.ruはIPOに向けて着々と準備を進めている。外からはロシアのIT市場が加熱しているように見えるが、市場をどう見ているか?

 IT市場のプレイヤーをインターネット企業とソフトウェア企業の二つに分けて考えてみたい。

 まずはじめに、ロシアのインターネット関連市場はとても加熱している。インターネットはもはやファッションの世界だ。昨年、Yandexは上場する考えを公に示したが、彼らのIPOが成功するかどうかは正直分からない。ただ、現時点において、Yandexには上場するだけの能力があると考えている。このタイプの企業は、ロシアで大きく成功できる位置にあると言えるだろう。

 一方のソフトウェア企業はロシアにそれほど多くはなく、またロシア国外に展開している企業はもっと少ない。そのため、市場はロシアのソフトウェア企業を二つの点で判断している。

 その第1点が経済的な要因だ。ロシア経済はこの点において非常に優秀で、2007年度のGDP成長率が7%と非常に大きな数字をたたき出している。これが、ロシア経済が優良であり、経済がロシア企業への投資を妨げるものではないと言える要因だ。

 第2点は市場に大量の資金が流れ込んでいることだ。今ではロシアに多くの銀行、多国籍企業が進出しており、これらがロシア市場で多くの投資を行っている。90年代後半は資金の獲得に難航していたロシア市場が、現在は豊富な資金を有しているのだ。

 以上の点から、ロシアのIT市場は急発展しており、最高に良い時を迎えていると言える。ネット企業にとっては特にそうだろう。

投資家やIT業界の関係者は、Kaspersky Labがいつ上場するのか、どこに上場するのかに注目している。今年になるのか、来年になるのか……。昨年8月にIPOに向けて経営体制を整えたが、その後の進捗はどうなっているのか?

 来年も今年も、現時点においては「ない」としか言えない。

 と言うのも、取締役会や株主総会において、IPOに関する意志決定を一つも行っていないからだ。我々の株主は上場したがっているが、今はまだあなたに良いニュースを伝えることができないのが現状だ。

Kaspersky LabのCOOであるEvgeny Buyakin氏は、財務状況は良好だと話していた。今後、ポートフォリオや地域事業の拡大を目指して企業買収をする可能性はあるか?

 もちろん可能性はあるし、私たちには企業買収をするだけの体力がある。InfoWatchが企業買収に耐えうる体力があるかと言われれば、ほとんどないと答えるが、Kaspersky Labにはその能力がある。それは上場していなくても可能だ。

 その理由の筆頭としては、Kaspersky Labが多くの独自資産を保有している点が挙げられるだろう。また、キャッシュフローが潤沢なことから、他の企業に資金を投下することもできる。投資銀行が望むのであれば、共同で投資してくこともできる。

 しかし、企業買収については一つ、重大な疑問がある。それは合併による組織の変容だ。

 私たちも企業買収をしたことがあるが、それは20人規模のごく小さなグループと製品を吸収したに過ぎない。しかし、この規模であっても、プロジェクトの吸収という点で私たちは非常に大きな問題に直面したことがある。

 その問題とは企業文化の違いだ。私たちは会社のスピリットを変えることなく、吸収した従業員の文化を変化させなければならなかった。これは非常に難しい仕事だといえる。

 巨大ベンダーを見てみると良い。企業買収をしても、彼らには獲得した人員、資産、製品を組織にしっかり吸収するだけの時間もないだろう。この問題は現在進行形だ。彼らはあまりに多くの企業を買収した挙げ句、組織を管理できない状況に陥っている。

セキュリティ企業がITインフラ企業に変容したり、あるいは逆にITサービス企業がセキュリティ事業を手がけるようにもなった。セキュリティ専業ベンダーは生き残れないと発言したベンダートップもいるが、あなたはどう思うか。

Natalya Kaspersky氏 Natalya Kaspersky氏

 答えはもちろん「ノー」だ。

 一例を挙げよう。企業向けのセキュリティ市場において、巨大ベンダーは市場シェアを落としている。と言うことは、どこかの企業がその分を占有したことになるが、それはビッグプレイヤーではないのだ。

 なぜなら、巨大ベンダーが顧客にむかって「我々は全てを提供できます」と言っても、顧客はインフラ全てを一社に任せるようなことはしない。情報セキュリティやリスクマネジメントの観点から言えば、これは当然のことだ。

 二つの異なる市場アプローチがあると考えれば良い。一つは巨大ベンダーに任せるやり方で、もう一方がニッチプレイヤーだ。

 ニッチプレイヤーは市場で生き残ることができる。それどころか、その分野のリーダーになることもできる。Kaspersky Labが良い例だ。

 我々は当初、スクラッチでセキュリティソフトを開発していたが、今ではコンシューマ市場で四番手だ。(創業者でCEOの)Eugeneもこれを大きな成功だと考えている。我々はどこからも融資を受けずに、ここまで成長したのだ。

 我々は一つの分野に集中する。別の分野に進出する時には、InfoWatchのように新たなブランドをスタートさせる。顧客は我々が全てを提供することを望んでいないからだ。「Kasperskyと言えばアンチウイルス」のように、明確なメッセージが求められている。

 「カスペルスキー=アンチウイルス」というアプローチは、一般の消費者の認知度向上という点でも有効だ。消費者に向けてブランドを集中させなければならない。

 InfoWatchはまだそれほど有名ではないが、明確なメッセージは既に持っている。「InfoWatchと言えばDLP」だ。Kasperskyのメッセージとはミックスせず、それぞれのブランドにフォーカスしなければならない。

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