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「人月ビジネス」と「パッケージビジネス」はどっちが得か |
ソフトウェア開発のビジネスにおいて、「人月」という単価ビジネスからいかに脱却するか、というのはよく議論される命題である。実際そこには個々のエンジニアのスキルを無視した、あたかも量り売りで材料を買い付けるような響きがあり、「平均単価xx円」で受注などと言われると、やる気も失せるというものだ。最近の受注単価動向を眺めつつ、その解決に関する議論をしてみたい。
そもそも、「単価」という言葉そのものが、その価格に込められたノウハウやスキルを表現するよりも、需給によって変動するコモディティ的な素材を表現するのに適している。それゆえに、ビジネス的にも景気動向に影響されやすく、差別化の要素がボリュームに依存することになる。
日本銀行が発表している「企業向けサービス価格指数」の中に「受託開発ソフトウェア」という、いわゆる受注単価をインデックス化したものがある。これを2000年からグラフ化すると下図のようになる。
2000年頃の好況期を経て、ITバブルの崩壊に伴ってSI企業の業績が軒並み悪化した状況が、この単価インデックスを見るとよく判る。2003年に急落した単価に対応するために国内のIT各社は開発リスクの管理を強化し、オフショア開発を拡大することで、価格下落への耐性を強めた。2006年から単価は戻り始めるが、その振れ幅は大きく安定していない。
今回の不況はその矢先に発生したものであり、2009年2月時点でその水準は2003年の急落前夜という水準まで落ち込んでいる。もし、ITサービスのビジネスがこの単価に完全に連動する需給型のビジネスであるならば、M&Aを通じて寡占市場を構築し、顧客や仕入先との交渉力を高めることが重要となる。
実際、インドの大手ITベンダーはITサービスビジネスを拡大させる過程において、社員数を10万人規模にまで増加させた。しかしながら、最近ではひたすら人数を増やしてビジネスを拡大するだけではなく、パッケージソフトウェアの販売など人数のみには依存しないビジネスの展開へも積極的である。おそらくは、人数も一定規模を上回ってくると逆に管理コストが大きくなり、効率化と収益性向上の限界に直面するのではないかと推測される。
さらに、サービスビジネスに関わる単価は、東南アジア地域だけでも中国をはじめとしてインドより安い国が多い。そうした中で単価に依存したビジネスモデルでは、競争力も失われてゆく。それゆえに、受託開発で培ったノウハウを、それを表現しにくい単価ビジネスではなく、自社で開発した、あるいは買収によって獲得したソフトウェアに集約することで刈り取っていこうというのがパッケージソフトウェアによるビジネスである。
日本においても、受託開発からパッケージソフトウェアによる高収益化を狙うという動きは見られるし、最近はそれをSaaSとして提供するということがトレンドである。つまり、パッケージソフトウェアの開発・販売というのは、インドのみならず、単価の呪縛から逃れようとする際のひとつの有力な手段として認識されている。
それでは、同じく日銀の「企業向けサービス価格指数」から「パッケージソフトウェア」を見てみよう。
驚いたことに、受託開発以上に目も当てられない状況である。受託開発との対比で言えば、2001年にはすでに大きく下落していることから、ITバブルの崩壊という景況感の悪化に極めて敏感に反応していることが良く判る。また、景気の改善が必ずしも単価の上昇には結びつかず、むしろ一度下がったら二度と元には戻らないのがパッケージソフトウェアだと言える。
パッケージソフトウェアは複製コストが実質ゼロであるが故に、売れれば莫大な収益をもたらす一方、一旦開発原価を償却してしまうと不況期の価格下落が止まらなくなる。さらに、開発原価をより薄く広く回収することを前提としたSaaSモデルは、投資原価を初期購入時に回収しようとするパッケージソフトウェアへの価格下落圧力となり、今後もこの傾向は続くと考えられる。
こうして見ると、受託開発単価から逃れるために、安易にパッケージビジネスへ走ったり、あるいはその新しいデリバリーモデルであるSaaS型ビジネスへ走ることが解決策につながらないことが判る。受託開発は、単価変動に晒されながらも初期投資が少ないことから、ローリスク・ローリターンであるのに対し、パッケージビジネスは初期開発コストを伴うだけにハイリスク・ハイリターンのビジネスとなる。とは言え、単価ビジネスがよりスケール・プレーヤーへ有利に働くことが明らかである以上、そこに留まっていることは解決にはならない。
まずは、受託開発とパッケージビジネスでは、ビジネスモデルが全く異なることを押える必要がある。ゆえに、ビジネスモデルがそれぞれに持つ特徴を押えたうえで、そのビジネスモデルを実現するのに必要なリソースとリスク管理能力を獲得するプロセスを地道に踏んでいくことが必要だろう。「受託開発は儲からないからパッケージソフトウェア」であるとか、「ライセンスは売れないからSaaS」へというように、ビジネスモデルの転換は単に方針転換の掛け声だけでは決して実現しないことは間違いない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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