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YouTubeは、やっぱり失敗なのか? |
Time誌が、テクノロジー分野における過去10年の10大失敗リスト("The 10 Biggest Tech Failures of the Last Decade")を公表して話題になっている。リストに載っているのは以下の商品やサービスである。
対象として選ばれる条件は、高い認知度があり、グローバルマーケットを対象とし、技術的にも優れており、莫大な収益をもたらす潜在性があるが、それが実現されなかった商材である(正確なところは原文を参照されたい)。そういう視点で見ると、なるほどと感じられる商品が多い一方、違和感を覚える商品もある。たとえばYouTubeは、収益性に難点はあるものの、「失敗(Failure)」とまで呼ばれるとしっくりこない。これだけの利用者がいて、社会的な影響力も大きいにもかかわらず、なぜYouTubeは失敗と言われてしまうのか?
YouTubeをはじめとして、ソーシャルメディア系のビジネスは、ユーザーに直接課金しないケースが多い(少なくとも、立ち上げ段階においては)。無料であるが故にユーザーが増え、データが蓄積され、そこにネットワーク効果が生じて、ますますユーザーが増える。そこまで来てから初めて広告モデルや課金モデルへの移行が恐る恐る実行される。これは、ある意味において「正の外部性」を活用したビジネス展開のモデルである。
「外部性」とは、商取引の直接的な対象者ではない第三者へプラス(正)もしくはマイナス(負)の経済効果をもたらすことを言う。たとえば、都市部における農業は、商取引としては農家が農産物を市場へ販売することである。ただ、その立地が都市部であるが故に、その畑の存在が近隣の気温を冷却するというプラスの効果もある。これは、直接的な商取引とは関係ないため、「外部性」と呼ばれ、かつプラスの経済効果を持つために「正の外部性」と呼ばれる。「負の外部性」の典型例は公害である。
YouTubeのようなソーシャルメディアは、直接的な商取引の相手ではない消費者(少なくとも当初は)に対して、意図的に「正の外部性」を提供することからビジネス展開を開始する。「外部性」であるから、費用負担なく利用可能であるから、前回触れた「ソーシャルオブジェクト」が有効であるならば、ユーザーはどんどんと増える。ここで特徴的なのは、本来の商取引が存在しない中で「外部性」のみを先行させることと、それが意図的であることである。
しかし、公共サービスではないので、「外部性」だけではいつかは潰れてしまう。故に、その前に本当の商取引の相手を見出す必要がある。しかし「正の外部性」の大きな問題は、課金することの難しさとフリーライドであり、「正の外部性」からビジネス展開を開始すること自体が当初より課題を内包している。都市部の畑がヒートアイランド対策に寄与しているからといって、近隣住民に課金するのは極めて非現実的であるように。
そこで消費者ではなく、確立したコミュニティーを活用して、企業の広告を獲得しようとサービスの提供者は動く。つまり、「正の外部性」はそのまま「外部性」として維持し、むしろそれを商材として商取引の相手を獲得しようとする。そのとき、その「外部性」の質が商取引そのものに影響を与えることとなり、YouTubeはそこで行き詰ってしまった。つまり、投稿されるビデオのクオリティの問題から広告出稿者の腰が引けてしまうのである。
一方、商取引の相手を明確に見定めた上で「外部性」の構築を行っているのが、NBC UniversalとNews CorpによるHuluである。こちらは、プロの製作したドラマや映画などのコンテンツを広告と併せて無料配信する。消費者は無料でサービスを利用できる点において「外部性」を活用したビジネスである点は変わらないが、コンテンツのクオリティが高いことによって実際の商取引が急成長している。現に、トラフィックではYouTubeに遠く及ばないものの、すでに広告収入ではHuluはYouTubeと互角とも言われている。
ここでポイントとなるのが、Huluが「外部性」先行ではなく、実ビジネスのターゲットを明確にしたうえで「外部性」を構築した点である。「外部性」を先行させて実ビジネスの構築へ移行したYouTubeとは、ビジネス展開のプロセスが異なっているのである。
だからと言って、我々はYouTubeが失敗の烙印を押され、高コストに耐えかねたGoogleがそれを閉鎖してしまうことは望んでいない。プロの製作したコンテンツであるHuluの人気が衰えることはないだろうが、YouTubeがHuluを真似してプロのコンテンツで満たされることも望んではいない。誰もがコンテンツを投稿できるYouTubeの持つ「外部性」としての価値は誰もが認めるところなのである。
しかし、「外部性」を先行させたことの課題は、先の都市部の畑と同様に、だれがどうやって享受するメリットへの対価を支払うのかに行き着く。その解決策として、課金モデルを構築するという話と、プロによるコンテンツで広告収入を拡大させるという話がある。前者は「外部性」を「外部性」ではなくし、ユーザーを商取引の当事者へと引き込むという選択である。一方、後者は、「外部性」を「外部性」として維持するために、商取引の当事者の歓心を得るための施策である。
Googleという、検索を中心におくオンラインコングロマリットが運営者であることを考えるならば、オンラインコンテンツを充実させる一サービスとして、あえてYouTube単独での収益化にこだわる必要もないようにも思うが、あえて収益化を狙うのであれば、プロ向けコンテンツを取り込むのではなく、ユーザーコンテンツにこだわりつつ課金モデルに挑戦してもらいたい。なぜなら、YouTubeのYouTubeたる所以は、ユーザー投稿のコンテンツで満たされていることにあるからである。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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