掲載日時: 2009-06-29 08:00

クラウドコンピューティングとオープンソースの対決

クラウドコンピューティングにオープンソースが採用されるということは何を意味しているのか、そしてオープンソースが今後、クラウドコンピューティングに対して競争力を維持する道について考察する。

著者 : 文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子

URL : https://japan.zdnet.com/article/20395758/

 クラウドコンピューティングにはロックインや、統制の欠如、セキュリティにまつわる少なからぬ懸念があるにもかかわらず、この話題は2009年のIT業界において相変わらず大きな関心を集めている。開発の容易さや、コストの削減、柔軟性に富んだスケーラビリティ、次世代のアーキテクチャといった呼び声に惹かれて、IT業界やWebコミュニティの多くの人々がそのメリットとリスクを真面目に検討しているのである。

 一方、オープンソースは、クラウドコンピューティングを実現するうえでの鍵となっている。オープンソースを用いることで、クラウドサービスプロバイダーは豊富な機能を安価に(場合によっては無償で)入手できるようになるのだ。しかし、不吉な前兆も見え始めている。クラウドコンピューティング業界はオープンソースを利用して、プロプライエタリなPaaS(Platform-as-a-Service)という新たな世代を生み出そうとしているのだ。これはコンシューマー市場で開花したWeb 2.0サービスがオープンソースプラットフォームを採用することで顧客を囲い込み、そのデータをロックインしたという状況に酷似している。

 Dana Blankenhorn氏が6月11日付けで執筆した「IBM expects Linux to make money」(IBMはLinuxから収益を得ようとしている)という記事には、IBMがオープンソースから収益を得るための取り組みに改めて力を入れるようになることで、大手コンピューティングベンダーもクラウドの持つ経済的な側面を重視するようになると書かれている。

 IBMはサーバの販売に加えて、販売も貸し出しも可能であり、自社の収益にも貢献できるクラウドの開発に大きな力を入れている。

 (IBMのBob Sutor氏は)クラウドコンピューティングについて、「Linux上で稼働させない理由などあるだろうか?」と問いかけている。Linux上ではさまざまな仮想化ソリューションが利用可能になっており、Windowsデスクトップを使いたいと思っているユーザーでも、実際に自分の使っているデスクトップがWindowsデスクトップそのものではないということを知らないままでいられるのである。

 また、IBMはクラウドの採用により、Windowsのような見た目のデスクトップを数多く提供しながら、バックエンドでLinuxを稼働させることで、収益につなげることができるようになるのだ。さらに同社は、同社のクラウドと内部的な互換性を持つサーバの販売を行うこともできるのである。(後略)

 またSutor氏とZemlin氏は、エンタープライズシステムが巨大化し、クラウドの構築が経済的に見合うようになる、「企業クラウドの境界」とでも言うべきものについても考察している。Sutor氏は、大規模な仮想化が行われるようになった際にクラウドが経済的に見合うレベルに到達すると述べている。

 そしてIBMのケースでは、Linuxによるクラウドベースの製品が顧客に対して従量制(たいていは時間従量制)で提供された場合に利益がもたらされるようになる。オープンソースは、クラウドコンピューティングにおいて脇役となることが多いものの、クラウドコンピューティングを普及させていくための推進剤としての役割を果たすことになるだろう。その一番の理由として、ソフトウェアというものはコンピューティング環境における1つの構成要素に過ぎない(とは言うものの高価である)ものの、経済的な面からクラウドを見た場合、ほとんど常にと言っていいほど、オープンソース製品の導入が望ましい選択肢となるという点を挙げることができる。しかし、オープンソースの採用によって価値がもたらされたのは、IBMのSutor氏も明言しているように、規模の経済に関する部分だけなのである(オープンソースがもたらす価値は、本質的には開発コストにおいてのみなのだ)。

クラウドコンピューティング

 このことは、Eucalyptusを搭載したUbuntu(関連英文記事)に代表される製品ではクラウドサービスを提供できないということを意味しているわけではない。そういったことは可能なのだ。しかしこういった製品は最終的なソリューションを構成するパーツというわけではなく、特定の状況において内在している経済的なメリットや技術的なメリットを生み出すようなエコシステムを作り出すわけでもないのである。というのも堅牢で皆に受け入れられるコンピューティング環境を構築するためには、インフラや管理、研究開発、サポートを含めた強力かつ完成度の高いソリューションを作り上げることが重要となるためである。こういったものすべてが、十分に包括的なサービスを作成するために1つにまとめ上げられることでコンピューティングが可能になり、さらにはアウトソーシングにふさわしい効率的な環境にもなり得るのである。コンピューティングのエコシステムがそれに依存する複数の利害関係者によって構成されている場合、コストと労力を彼らに分散させることが可能になる。顧客の数が増えるほど、そのクラウドのプロバイダーと顧客にとってより良い結果がもたらされるのである(この行き着く果ては「大き過ぎてつぶせない」という状態になる。これはクラウドコンピューティングが抱えるまた別の問題であり、重要ではあるものの、本記事では扱っていない)。

 結局のところ、クラウドのプロバイダーはたいていの場合、2つの利点を市場にもたらすことができるのだ。その利点とは、ものごとを行うためのより優れた方法を提供するということと、コストを引き下げるということである。規模の経済を適用することで(例えば、インフラのコストや研究開発はすべての顧客に分散させることができる)、クラウドはオープンソース単独では成し得なかったような完成度の高い強力なソリューションを提供できるようになるのである。

 クラウドコンピューティングがあなたのビジネスを変革するという主張とその理由については、「クラウドコンピューティングがビジネスを変える8つの方法」を読んでみてほしい。

 規模の経済を実際に適用することで生み出されるリターンと、理論的に算出される理想的なリターンの間で差が生じるのは、大規模なクラウドデータセンターや、研究開発に特化した専門施設などに対する投資のような巨額の固定費が現実世界における規模の経済に大きな影響を与えるためである。古典的なミクロ経済理論では、投資を集約しても経済状態が向上することはないため、固定費が存在する場合には規模に応じたリターンの増加は見込めないのである。このため、企業がオープンソースを自社内で利用することは、クラウドを利用することに比べると明らかに不利になるのである。

オープンソース:暗雲(クラウド)のたちこめる未来

 では、クラウドコンピューティングとの競争力を維持するうえで、オープンソースにはどういった選択肢があるのだろうか?コンピューティングにおけるソリューションすべてが日常化された製品になりつつある世界で、オープンソースはどのように進化していけばよいのだろうか?テクノロジの歴史を振り返ると、オープンソースモデルが魅力的な素晴らしい成果を上げてきたという点は誰の目にも明らかである。しかし、プロプライエタリなコンピューティングプラットフォームへの回帰を目の当たりにすると、オープンソースはまたしても機械の歯車の1つとなってしまうのである(ただし今回の機械には経済機構が深く絡んでいるのだ)。

 幸いなことに、オープンソースには未来へと続く道が少なくとも2つある:

 クラウドとの協調:道の1つは、クラウドコンピューティングのためのオープンソースインフラを作り上げるために取り組むことである。これはクラウド協調モデルの1種であり、そういったインフラを生み出したコミュニティに対してイノベーションとベストプラクティスを還元するための規模の経済を実現するということである。クラウドコンピューティングの構成要素すべてをオープンビジネスモデルによって開発することで、理論的にはコンピューティングにおけるすべてのレイヤにオープンソースの利点が適用できるようになる。オープンソースとクラウドのこういった協調によって、Web自体を別にすれば(Webはそれ自体が、シンプルなクラウド協調モデルとなっている)、最大にして単一のクラウドエコシステムが実現できる可能もあるのだ。

 オープンソースによってクラウドの連合を実現する:2つ目の道は、似たようなデータセンター間における相互運用性を容易にしたり、インフラの共有を促すための、クラウドコンピューティングや動的プロビジョニングに関する規格の出現(関連英文記事)を利用することである。これによって大企業は、自社のリソースと他社のリソースを組み合わせてプールしておけるような「仮想プライベートクラウド」を作り出すうえで必要となるスケーラビリティと規模の経済を入手できるようになるのである。オープンソースはこれにどう絡めばよいのだろうか?本当の相互運用性というものは、Linuxのような、基盤となるOSというプラットフォームに内在されている能力であるべきなのだ。既に企業が保有しているリソースを利用し、経済効率に優れたクラウドの連合を作り上げたいと考えている企業群をまとめあげるためのファシリテーターとしての役割をオープンソースが果たすことで、単なる仲介役という位置付けだけでなく、本当の意味で連合化されたクラウドを生み出す源泉ともなるのである。そしてこういったクラウドは、中央集権的なクラウドよりもずっと重要なものとなるはずなのだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事をシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。 原文へ

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