掲載日時: 2009-10-29 07:00

Mozilla Labsのユーザーエクスペリエンスチーフに聞く--FirefoxとWebの未来

モジラ・ラボのユーザーエクスペリエンス担当チーフを務めるエイザ・ラスキン氏は、ユーザー体験の観点からモジラやウェブの将来について考えている。このインタビュー記事では、同氏の考えの一端を紹介する。

著者 : 文:Zack Whittaker 翻訳校正:石橋啓一郎

URL : https://japan.zdnet.com/article/20402360/

 顔すれすれのところでドアがぴしゃりと閉まり、もう少しで鼻を打ちそうだった。部屋に入ると、筆者はMozilla Labsでユーザーエクスペリエンスの責任者を務めるAza Raskin氏とともに腰を下ろした。インタビューの目的は、現時点でMozillaが近い将来に何を目指しているのか、次世代のウェブはどんなものになると考えているのかを尋ねることだ。

 このインタビューは、人の出入りのある慌ただしい部屋でコーヒーを飲みながら行ったものだ。ここに記した内容はすべてRaskin氏自身の言葉をもとにしており、筆者がインタビューの内容を書き留めたメモをもとに表現を一部わかりやすく変えている。

ユーザーエクスペリエンスから見た世界

 Mozilla Labsでユーザーエクスペリエンスの責任者を務めるRaskin氏は、組織としてMozillaの将来について検討する役割を担当しており、特にウェブに着目している。彼はFirefox以外のプロジェクトを支援することもあるが、大部分の時間をFirefoxにあてている。彼と彼の率いるチームはFirefox開発チームから独立した存在だが、開発チームに多くの情報を提供している。だが、Raskin氏によればすべての指摘が反映されるわけではないようだ。

 Mozillaが提供しているオープンソースのブラウザFirefoxの次期リリースはFirefox 3.6で、特にWindowsユーザーを念頭に置いてデザインされる予定だ。次期バージョンで刷新されるユーザーインタフェースは、Aeroのテーマなど、Windows VistaやWindows 7に搭載された多数のテクノロジと連携するものになるが、取り入れられる機能としてはWindows 7のものが多い。例えば、このバージョンではブラウザにマルチタッチ機能が組み込まれる。

personas for firefox

 いかなる形でも、ウェブの将来像を想像したり、予想したりするのは難しい。とはいえ、誰もがオープンなウェブを望んでいるのは確かだ。Microsoft、Apple、そしてGoogleは、それぞれのブラウザで市場支配を目指している。しかしRaskin氏は、市場シェアはMozillaの目標ではないと明言した。非営利団体であるMozillaは多彩なユーザーを持っていることでメリットを得ているが、ユーザー層の大部分は個々人が実際に使って得る体験と「口コミ2.0(Word of Mouth 2.0)」で勝ち取ったものだという。彼らの目標は市場シェアの100%を獲得することではなく、革新と創造の歩みを進めるに足る大きさのユーザー層だ。

 「オープンなウェブ」の話題では、FlashやSilverlightなどの、ソースを見ることができないプラグイン技術にも話が及んだ。彼の考えでは、ユーザーが目にし、使用するすべてのものは、そのコードも同時に提供されるべきだ。ソースを確認できず、したがって何が起こっているのかわからないものは「オープンなウェブ」ではないことになる。もちろん例外もあるだろうが、彼の言いたいことはおわかりいただけると思う。

 次に私は、個人的な体験から、なぜFirefox 3.5が重くなったのか、品質と操作性においてより応答が遅く、動きが鈍くなったように感じられるのかと尋ねた。

 私の印象では、Raskin氏は果敢なまでに実直で同時に非常に聡明でもあり、エンドユーザーに対する責任を十分理解している人物だ。彼はFirefoxが重くなっている理由は主にAdobe Flashにあると述べたが、おそらくそれは本当なのだろう。たいていのWebサイトにはFlashの広告があるため、ランダムに選んだ10のWebサイトを10枚のタブで開くと、各ページの広告の表示にメモリが使われ、Firefoxのメモリ消費は爆発的に増加する。彼の話は筋が通っている。

 彼は、Firefox 3.5は現状を改善するべく提供されたと話した。それぞれに異なる技術を統合してよりユーザー志向な体験をもたらす機能セットにした例が、GeoLocationやPrivate Browsingモード、SeaMonkeyなどだ。これらは基本的な機能で、エンドユーザーをより(クラウドではなく)クライアント寄りにし、ユーザー体験の全体的な水準を押し上げるものだ。こうした統合は、Mozillaの意思だけでなく競合製品に遅れをとらないために進められるという側面がある。

 GoogleとMicrosoftには巨大な研究部門があり、数千人もの人たちがブラウザの使いやすくするために仕事をしている。また将来の製品リリースに向けた機能開発を行う力も潤沢に備えている。一方Mozillaは「数十人」体制だが、Firefoxはオープンソースであり、学術的専門家や学生、大学、開発者、個人ユーザーなどが、はるかに民主的な方法で研究プロセスを進めている。それが、彼が「Mozilla Ubiquity」アドオンに取り組んでいる理由だ

Mozilla Ubiquity

 この機能と、上の図にあるカスタマイズできるテーマ「Persona」を使うと、ブラウザはユーザー自身のものになり、ブラウザを開発している組織がブラウザの外観を規定することはなくなる。ユーザーは自分のサイトやブックマーク、アドオンなどを自分に合わせてパーソナライズするのが好きだ。そのことが、Firefoxが伸びてきた理由の1つでもある。

Firefoxの未来

 Raskin氏によれば、次々期バージョンとなるFirefox 3.7では、「Flashのプロセス」(あるいはメモリを激しく使用するアドオンやプラグイン)を他のプロセスと分離し、それだけを独立したプロセスとして処理するようになるため、メモリ管理は従来よりも改善されるという。

 その先のFirefox 4.0はまるで次元の違うものになるという。Internet Explorer 6が優勢だった4年前(欧州連合の騒動が持ち上がる前)、オンライン上でのユーザー体験は新味の欠けたものだった。IEチームはレイオフされ、残った人員の取り組みは停滞していた。ウェブはコンピュータを使った体験の中で最も重要な要素のひとつであることから、他のあらゆるプレーヤーがこの市場に参入した。参入者が増えて以前よりも競争が激しくなったため、Raskin氏は変革の決め手を見極め、次に何を開発すべきかを決定した。

Firefoxテーマ

 Raskin氏は次の2点を重要だと考えた。

  1. FacebookであれTwitterなどを通した形であれ、ウェブが現在機能している方法で、自分自身のWebサイトを作れることは疑いなく素晴らしいことだ。誰もが参加できるということが、多くの作業や役割のあり方を変えており、ジャーナリズムもその変化の渦中にある。
  2. HTMLとJavaScriptを使った「純粋な」Webサイト構築に関する知識を少し得れば、それらを組み合わせることで新たなFirefoxの拡張機能を作ることができる。これが「Ubiquity」に力を入れているもう1つの理由でもある。

 Firefoxが大きな成功を収めた理由の1つは、拡張機能やアドオン、カスタマイズ性、外観の変更が可能であるなどの特徴を備えていることだ。Firefox以降、他のブラウザもこれにならって追加ツール提供し始めた。

 Firefox 4.0は、2010年末ごろリリースされる予定だ。しかしこれは開発段階での計画であり、リリース予定は定期的に見直される。次期リリースの「目玉機能」の1つがJetPackで、これは自分が使いたいテクノロジや開発言語を使ってアドオンを作成できるAPIだ。前述の2つめの話題と関連があり、相乗効果のある機能だ。

 この後、話題は実に広範囲にわたり、マルウェアやセキュリティ、次世代デスクトップのWebブラウザ化といったテーマにも話が及んだ。

セキュリティとインシデント予防

 現在流通している他のソフトウェアと同じように、Firefoxも有名なソフトウェアの1つとして攻撃の標的になりつつある。Raskin氏によれば、最先端の「何らか」の機能がJetPackに追加され、他のセキュリティ技術に追加される形で今後搭載されるアドオンの安全性を確保するという。

 彼は、現在のブラウザはユーザーの「信頼の仲介役」を果たしており、セキュリティ上の問題に関してユーザーにアドバイスや情報を提供していると表現している。SSL証明書のドメイン名が一致しない場合やサイトがフィッシングに遭っていることが疑われる場合、ブラウザはそのことを教えてくれる。これは車の運転と同じだ。車に乗って運転をするとき、運転者はそこにある道に沿って進む以外のことはあまりできない。そして自動車のボディは、その道のりで否応なく出くわす道の段差や接触から運転者を保護してくれる。

 Mozillaはプライバシには非常に配慮しており、特に欧州連合圏のユーザーには配慮している。2009年10-12月にはFirefox Mobileが公開され、Raskin氏によればデスクトップのブラウズ体験がモバイルユーザー、特にNokia製品ユーザーに広がるという。Firefox Mobileには同期機能があり、タブの履歴やパスワード、閲覧履歴をデスクトップとモバイルの間で同期できるようになる。ブラウザを開きっぱなしにしてオフィスから出ても、携帯電話で続きを閲覧できるようになるわけだ。

 これを実現するのに用いられる暗号化技術には公開鍵暗号を使い、Mozillaはクラウド中にアクセスデータをまったく保存しない。Raskin氏によれば、警察がやってきてMozillaが法令に基づいてデータを提出することがあっても、Mozillaにさえそのデータが復号化することはできないという。

ソーシャルブラウジング?

 Raskin氏は、セキュリティがWebの将来を決める大きな要素になるという点を強調していた。われわれが現在体験しているセキュリティの水準は相対的に低く、同じような機能がすべてのブラウザにあって「泥沼状態」だという。その大半はユーザー体験に関係しており、ユーザーをブラウザが安全でないとみなす振る舞いをとるように誘導してしまう点が問題だという。

 Raskin氏が取り上げた最大のポイントの1つが、ウェブ(ブラウザ)とデスクトップの連携だ。連携はアドオンやActiveXコントロール、Flashなどで行われているが、真の意味でウェブとデスクトップとの間を行き来できるようにするレイヤは存在しない。

デスクトップとブラウザの連携

 Raskin氏の考えでは、今後ブラウザは自動的にUSB経由でカメラにアクセスしたり、ハードディスクにアクセスしてコンテンツのアップロードやダウンロードを行ったり、オンラインのバックアップ空間を利用したり、Flickrに写真をアップロードしたりできるようになるという。また、ウェブの今後のソーシャルな展開として、セキュリティ上の問題で助言をする際には、2人あるいはそれ以上の数のユーザー間で相互作用が発生するようにするといったことも語った。上の世代の人たちは大半がウェブや技術的事象を十分理解していないため、こうした役割は下の世代にアウトソースされることになる。

 つまり、Raskin氏は技術的問題やセキュリティ上の問題に個別に対処するのではなく、そうした事象を社会的な問題に落とし込みたいと考えているわけだ。ある人のブラウザにセキュリティ警告が出ていたら、ソーシャルネットワークにつないで、セキュリティ警告を受け入れるか拒否するかを本人に代わって技術的に詳しい親友に判断してもらうことができる。これを評判の構築に使うこともできるだろうが、ソーシャルネットワークの他の人たちやネットワーク外の人たちに広げていくこともできるだろう。こうした問題は、技術的な問題を社会的問題に変換するアドホックなソーシャルネットワークによって解決できるとRaskin氏は続けた。

 彼は自動車の中で過ごすよりもブラウザの前で過ごす時間の方が長くなっていると指摘した。デスクトップアプリケーションがクラウドと組み合わせられることで広がる潜在的可能性は、ブラウザから見ると、必要な変化であるばかりでなくウェブが適応していかなければならない進歩でもある。

結論

 本稿を書き終えた時点で、筆者は彼の考え方やツイードの帽子で現れたアメリカ人Raskin氏の雰囲気、帽子をとった仕草のかっこよさに圧倒されてしまっている。今後のキャリアの中でも、彼にインタビューができたことは光栄なことだ。本稿で内容を正しく伝えられていることを願うばかりだ。

 ウェブブラウズの今後のあり方について、読者はどんなことを考えただろうか。どうなってほしいだろうか。ぜひコメントや読みたい記事に関する意見を残してほしい。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。原文へ

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