掲載日時: 2010-06-30 15:00

クラウドコンピューティングの未来と金融システム--5月6日の株価急落から学ぶべきこと

記憶に新しい米国時間5月6日の株価急落は、一部では自動取引と電子取引の拡大が原因とされている。この現象は、クラウドにとって何を意味するのだろうか。

著者 : 文:James Urquhart(Special to CNET News) 翻訳校正:川村インターナショナル

URL : https://japan.zdnet.com/article/20415048/

 2010年5月6日という日は、電子取引の短い歴史の中で最も重要な出来事の1つとして、長く人々の記憶に残るかもしれない。広く報じられたように、米国東部夏時間5月6日午後2時15分ごろ、複数の金融指標が暴落し、ほんの数分で始値から約8%下落した。市場はその損失の大半を迅速に回復したが、全体的に前日より値を下げて同日の取引を終了した。

提供:Screenshot by Tom Krazit/CNET 提供:Screenshot by Tom Krazit/CNET

 この出来事の原因ははっきりと特定されていないが、金融市場専門家の多くはこの「フラッシュクラッシュ」の主因として、自動取引と電子取引の拡大を挙げている。The New York Timesは、自動化された新しい体制の重要性について、次のように説明した。

 近年、高頻度取引(High-Frequency Trading:HFT)、すなわち高速自動売買が拡大し、1日あたりの取引量の50〜75%を占めるまでになった。同時に、以前はニューヨーク証券取引所が処理していた取引も、その大半が新しい電子取引所へと移された。

 実際に、ニューヨーク証券取引所上場株の取引の60%以上は、別のコンピュータ化された取引所で行われている。

複雑適応系と予測外の挙動

 HFTを処理するのは、相手を打ち負かして、特定の株式に関して売り手と買い手の最高のマッチングを実現することを目指す自動システムだ。これらのシステムは、取引システム自体と同じデータセンター内に設置される。そして多くの場合、あるシステムが成功するかどうかは、ネットワークとコンピューティングのレイテンシを1000分の1秒減らすことにかかっている。

 しかし、ここで指摘しておくべき重要なことは、同一の市場環境において独立して稼働するHFTアルゴリズムの数がある種の「複雑適応系(Complex Adaptive System)」を作り出すということだ。複雑適応系の中では、既存の規則に従う多くの相互依存エージェントが、全体として予測不可能な挙動または予測外の挙動を示すシステムを作り出す。実際のところ、金融市場は複雑適応挙動の最たる例の1つと評されることも多い。

 複雑適応系に関して科学的に確認されている特性の1つは、ささいなことが重大な結果を引き起こす場合があるということだ。例えば、テーブルの上に砂山があるとしよう。砂山に砂を1粒ずつ落としていくと、砂山の形が徐々に変わっていくのではなく、比較的平静な状態がしばらく続いた後で、大きな地滑りが起きる。結局のところ、多くの砂粒を床まで押し流す地滑りを引き起こすのは、1粒の砂なのだ。

 一部の人は、「フラッシュクラッシュ」では正にこうしたことが起きたと考えている。予測外の大規模な取引が1件発生したことで、いくつかの自動システムが株の売却を開始してしまったようだ。主要な取引所で特定の株式の取引を停止して、株価の下落を食い止めようとする試みは、新しい電子取引所で売りが続いたために頓挫したが、その試みによって、HTFシステムをさらに混乱させてしまった可能性は高い。

 その結果、ダウ工業株30種平均は30分足らずで約800ポイント下げた。

複雑適応系としてのクラウドコンピューティングの将来

 では、この出来事はクラウドコンピューティングとどのような関係があるのだろうか。実際のところ、現時点ではあまり関係がない。クラウドコンピューティングの自動化の大半は、管理された形で行われる。管理下のシステムが、アプリケーションのニーズと利用可能なリソースのマッチングを決めるアルゴリズムのセットの1つに「属している」という形だ。現在のパブリッククラウドでもリソースを巡る一定の競合は存在する(Amazonが変動価格オプションを提供していることはこれを証明している)が、実際のところは、クラウドシステムの量も相互接続性も、真の複雑適応系の挙動を生み出すほどの規模には達していない。

 しかし、将来的にはどうだろうか。クラウドシステムが今よりもはるかに相互接続された状態で稼働する世界を想像してほしい。1つのアプリケーションのニーズを制御する自動化システムや、複雑な分散型アプリケーションシステムのごく一部分までもが、世界中のリソースを巡ってほかのすべてのアプリケーションと競合しなければならないような世界だ。その競争に、クラウドプロバイダー自身が運用するさまざまなサービス自動化環境が加わる。そして、その1つ1つが、それぞれサービスを構成するリソースの利益のために決定を下す。

 これは、相互依存度の高いソフトウェアエージェントが、ほかのアプリケーションや人間に代わって、ITリソースとサービスからなる「市場」の運用を試みるという環境だ。このシステム(インタークラウドとして考える人もいるかもしれない)では、全く予測しなかったような挙動がほぼ確実に発生するのではないだろうか。

 その多くは利点をもたらす可能性が高い。例えば、優れた価格効率性や、予測不可能な事態が発生したときにリソースを迅速に再プロビジョニングできることなどだ。しかし、どこかで発生した比較的些末な出来事(例えば、政治的な対立によるデータセンターの閉鎖)が、多数の顧客に悪影響を及ぼすような出来事の連鎖を引き起こす可能性も高くなるだろう。

 ほかのデータセンター自体もオーバーロードの状態になって、サービスレベル契約(SLA)の条件を満たせなくなるかもしれない。あるいは、アプリケーション管理システム同士が相手を混乱させて、互いが実際にはリソースを利用できるのに、利用できないと信じ込んでしまい、アプリケーションの利用が困難になったり、全く利用できなくなったりする可能性もある。

 価格が急激に変動し、すべてのコンピューティングコストが大幅に増大するというのが、最も可能性の高いシナリオだと思う。

 「フラッシュクラッシュ」という難問に対処するために、規制当局と取引所が共同で、いわゆるサーキットブレーカー制度の有効性の向上に取り組んでいる。クラウド市場のフェデレーション機能と相互運用性機能を拡張していくに当たって、この市場には独自の障害対策が必要だということを十分に理解しなければならない。

 ただし、今のところは大した問題ではない。そのため、おそらく手遅れになるまで、クラウド市場が2010年5月6日の出来事を思い出すことはないだろう。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

ZDNET Japanは、Ziff Davisからのライセンスに基づき株式会社4Xが運営しています。
ZDNET Japan is operated by 4X Corp under license from Ziff Davis.

Copyright © 2026 4X Corp, Inc. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.