掲載日時: 2010-07-22 18:06

三菱重工、2つの海外新工場にERPシステムとして「Infor ERP LX」を導入--約9カ月で本稼働

三菱重工業の汎用機・特車事業本部は、タイおよび中国の大連に設立した新工場にERPシステムとして日本インフォア・グローバル・ソリューションズの「Infor ERP LX」を導入した。大連工場では、導入開始から本稼働まで約9カ月の短期間で本稼働を開始したという。

著者 : 柴田克己(編集部)

URL : https://japan.zdnet.com/article/20417220/

 IBMが2010年に世界のCEOを対象として行った調査によれば、日本のCEO(経営者)の約41%が自社の経営に最も影響を与える外部要因として「グローバル化」を挙げたという。この数値は他の地域と比較しても顕著に高く、激しく変化する経済環境の中で生き残りを図るにあたって、日本の経営者がグローバル展開を強く意識している様子が伺える。

 日本においては、中国をはじめとしたアジア新興国の経済面での躍進が、今後のビジネス拡大のカギになるという見方も強い。こうしたグローバル市場での需要拡大に対応し、競争力を高めるために、海外での拠点拡充を急ぐ企業も多い。今回のユーザーである三菱重工業(三菱重工)の汎用機・特車事業本部(汎特事業本部)でも、2009年にタイおよび中国の大連にそれぞれ新工場を設立し、稼働を開始している。

 三菱重工の汎特事業本部は、エンジン、ターボチャージャ、産業車両、特殊車両などの製造、販売を行う部門。同事業本部の売上は、三菱重工全体の10%以上を占める。中でも、特に「ターボチャージャ」と「フォークリフト」は、事業本部の総連結売上の5割以上を占める主力製品となっている。

 汎特事業本部では、世界的な排ガス規制の本格化とエンジンのダウンサイジングに伴い、ターボチャージャの需要が大幅に増加すると予測しており、これに対応するべく、2009年夏、部品サプライヤーが多数存在するタイに新工場を設立した。これに続いて、同年冬には、エンジン式フォークリフトについて世界最大の市場へと成長を遂げている中国において、為替リスクの回避やコスト競争力の向上を図りつつ需要に応えていくため、大連にフォークリフト製造を行う新工場を設立した。

MTAタイ工場 三菱重工が設立したMitsubishi Turbocharger Asia(MTA)タイ工場

 この2カ所の新工場では、工場運用の仕組みを短期間かつ低コストで確立する必要があった。また、それぞれの工場で生産に関するデータを一元的に管理することで、業務効率を上げ、意思決定のスピードを向上したいというニーズもあった。そのため、導入が迅速に行えるERPパッケージ製品の導入を検討し、最終的にIBM System iプラットフォーム上で稼働する日本インフォア・グローバル・ソリューションズ(インフォア)のERPパッケージ「Infor ERP LX」の導入を決定した。

 Infor ERP LXは、SSA Globalによって開発されていた製造業向けERPパッケージであり、旧称で「BPCS(Business Planning and Control System)」と呼ばれていた製品。2006年の買収により、現在は新名称でインフォアより提供されている。

MTAタイ工場 大連工場への導入を担当した、三菱重工、汎用機・特車事業本部生産管理部生産企画課主任の渡部一文氏

 Infor ERP LXの採用にあたっては、既にオランダや北米の子会社など、4カ所の海外拠点でのBPCS導入実績があった点が大きな要因という。また、大連工場においては、「中国の商慣習への対応が行われている点も重要なポイントだった」(三菱重工、汎用機・特車事業本部 生産管理部生産企画課主任の渡部一文氏)とする。

 あわせて、Infor ERP LXが主に製造業向けのERPであったという点も採用の大きな要因だ。タイ工場への導入を担当した、Mitsubishi Turbocharger Asia(MTA)、Production Control Departmentゼネラルマネージャーの岸谷浩氏は、「採用にあたっては他のERPパッケージとも比較したが、他製品が会計系の機能を重視しているのに比べ、製造系の機能についてはInfor ERP LXが詳細で、システムの全容が理解しやすかった」と語る。

プロジェクト開始から約9カ月で本稼働

プロジェクト開始から約9カ月で本稼働

 タイと大連でのERP導入プロジェクトは、それぞれかなりの短期間で行われた。タイでは2008年4月にプロジェクトを開始し、2009年4月にカットオーバー。同年10月から本格稼働に入っている。プロジェクトメンバーは約10名で、受注、調達、生産、営業、財務、会計など、勤労関係以外の領域で導入されている。一方の大連工場は、2009年1月にプロジェクトを開始し、2009年10月にカットオーバー。2010年1月から本格稼働に入った。こちらのプロジェクトメンバーは約15名で、勤労関係や政府関連に提出する書類以外の受注、生産、営業、財務、会計などの領域に導入されている。特に大連の「約9カ月」でのカットオーバーは「記録的な短期間」(渡部氏)での立ち上げという。

 一方、導入にあたってのアプローチは、タイと大連で若干異なっていたようだ。

岸谷浩氏 Mitsubishi Turbocharger Asia、Production Control Departmentゼネラルマネージャーの岸谷浩氏

 タイでの導入に中心的な役割を果たした岸谷氏は、システム部門ではなくユーザー部門の担当者としてプロジェクトをスタートさせた。「ERPシステムにかかわるのも初めての経験だった」という同氏は当初、「ERPを導入すれば、それで工場が立ち上がるものだと思っていた」と述懐する。しかし、その思いはプロジェクト開始早々に砕かれることになる。

 「実際には、まず“自分たちがやりたいこと”をしっかりと定義し、そこから主導してどの部分を標準として利用するかを考えるところから始めなければならなかった」(岸谷氏)

 タイ工場がかかわるターボチャージャは、エンジンの出力増大や燃費改善のために使われる自動車部品。同工場では、ターボチャージャ内部の「カートリッジ」と呼ばれる部品の材料を加工し、組み立てている。組み立てられたカートリッジは、オランダに送られ、そこで最終的な製品(ターボチャージャ)として組み立てられ、ヨーロッパ各国の自動車メーカーなどに出荷される。

 タイ工場では生産管理について、顧客満足度向上のため「フレキシブルな生産計画」「小ロット生産による状況の可視化」「カンバン降り出し後2日での部品調達」「在庫の最小化(1個流し生産)」といったコンセプトを掲げている。例えば、「小ロット化」においては、あらゆる部品を必ず12個のセットで回転させるというルールを設けている。こうすることにより、「1箱で20分」といった形で作業時間が見える化され、生産効率の向上につながるという。

 こうした生産管理を行うにあたって、システムで扱う「データの一元化」は極めて重要な要件となる。岸谷氏は、「ERPによって最も実現したかったのはデータの一元化。個別のシステムを利用することで発生するデータのズレを避け、すべてのデータに整合性を持たせる必要があった」と語る。

 現場が扱う「もの」と、事務方が扱う「書類」の動きを食い違いなくスムーズ行うために、導入にあたっては、この「動き」、つまり「プロセス」を先行して定義し、それをシステムに入れ込んでいくというアプローチをとった。

 また、トランザクションデータとマスタデータから、人間がわかりやすい形でのレポートを作成したいというニーズもあった。旧来は、表計算データや紙として送られてくる個別の注文データを手打ちしていたが、今回のERP導入にあたって、サーバを介してトランザクションデータの入出力の部分を汎特事業本部で独自に開発。データ精度と業務効率の向上を目指した。

「Infor ERP LX」導入イメージ MTAタイ工場での「Infor ERP LX」導入イメージ。中央の「BPCS」として囲まれた部分が相当する(画像クリックで拡大表示)

 そのほか、パッケージでのERP導入を進める上で、独自の機能については本体をカスタマイズせずに、外部にシステムを作って連携させるという方法をとった。同工場では、1つの製品を複数のラインで作るため、ラインごとに生産計画を立てる必要があったという。一方、Infor ERP LXの機能ではアイテムごとに計画を立てねばならず、ラインごとで管理する概念がなかったそうだ。この問題を解決するにあたっては、外部に計画用の仕組みを別途作り込んだ。一度、Infor ERP LXで作ったデータをそこへ送って処理し、最終的に書き戻すという方法をとった。

 「ERP本体にカスタマイズを行うと、バージョンアップごとに、その部分を作り直す必要が出てくる。そのため、独自機能の実現にあたって、本体のカスタマイズは行わない方針とした」(岸谷氏)という。

 一方、フォークリフトを扱う中国大連工場では、Infor ERP LXの導入にあたり、基本システムに業務プロセスを合わせる方針で導入を進めた。大連工場は、新興国市場へのフォークリフト販売、オランダや米国へのコンポーネントの供給基地、また為替変動に伴う日本への製品輸出などの機能を果たしている。

大連工場 フォークリフトの需要増に対応するため中国大連に設立された三菱重工の新工場

 大連工場における導入の基本方針は「カスタマイズなし」「汎特事業本部(日本)のBOM(部品構成表)とのデータ連係」「中国国内法と商習慣への準拠」「“コンフィグレータ”の実現」といったものだったという。ここでいう「コンフィグレータ」とは、顧客がネットワークを通じて、部品構成を独自にカスタマイズして発注できる機能のことを指している。

 生産管理のコンセプトとしては、「汎特事業本部のフォークリフト生産管理を手本にする」「状況の見える化を行う」「短工期に対応する(4日前までにオンラインで確定)」「在庫精度の向上」といったポイントを重視した。また、「その他の海外拠点でのベストプラクティスを活用する」ことも意識したという。

 こうした方針と取り組みも、約9カ月という短期間でのカットオーバーを実現したひとつの要因と言えよう。もちろん、まったく苦労がなかったわけでない。渡部氏は「パッケージ利用にあたっては、業務にかかわるあらゆることをパラメータ化して入れていく必要があり、そのための作業に苦労した。関係部門との調整などを含め、大量に行わなければならない“決めごと”の段取りが難しかった」と語る。

必要な時に必要なデータを迅速に取得

 岸谷氏は「プロジェクトの途中では、何度も心が折れそうになった」と語るが、そうした苦労を乗り越え実際に稼働を開始した両工場のInfor ERP LXは、すでにいくつかのメリットを生んでいる。そのひとつは、導入目的のひとつでもあった「データの一元化」による精度とスピードの向上だ。

 「必要なデータが必要なときにすぐに出てくるという点に、現在は一番メリットを感じている。従来では、必要なデータを出すにあたり、複数のシステムから、必要と思われるものを探し出す必要があり、かなりの熟練者でなければ難しかった。また、精度も問題になることがあった。ERPの導入によって、データがすべて整理され、だれが作業しても早く、正しいデータが出てくるようになっている。例えば、日々の製販在のフォローアップ資料などについては、従来2カ月かかっていたものが数日レベルにまで短縮された」(岸谷氏)という。

導入スケジュール 大連工場におけるInfor ERP LX導入プロジェクトのスケジュール(画像クリックで拡大表示)

 また、パッケージならではのポイントとしてトレーニングコストの削減も挙げられるという。汎特事業本部で旧来利用しているホストベースのシステムは、度重なる機能拡張などで構造が複雑化しており、利用マニュアルは存在するものの、使いこなせるようになるための敷居が極めて高かったという。一方で、Infor ERP LXでは、ベンダーがトレーニングコースを用意しており、このことも本稼働開始までの期間短縮と教育コストの削減に寄与したという。

 今後両工場では、ERPに反映された業務プロセスをベースに、さらなる業務効率の向上や意思決定の迅速化を目指して、他社との差別化を図っていく。また、タイ工場では、より広範なサプライチェーンへの対応を計画しているほか、大連工場では、フォークリフトにかかわる各拠点での密な情報連携や、さらに新たな拠点を作るときのシェアードシステムとして今回導入したシステムを活用していくことなどを計画しているという。

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