掲載日時: 2011-12-13 08:00

シリコンバレーがアメリカをテロから守る

国家をテロから守るインテリジェンス機能は国家機密であり、膨大な予算が投じられる。活用されるテクノロジも極めて特殊であり、余程の時間が経過しなくては民間への転用も難しい。

著者 : 飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

URL : https://japan.zdnet.com/article/35011766/

 国をテロから守るインテリジェンス機能は国家機密であり、そこには膨大な予算が投じられる。活用されるテクノロジもしばしば極めて特殊であり、余程時間が経過しなくては民間への転用も難しい。

 特に9.11以降、米国ではその強化に大幅な予算が投じられたに違いない。というような気がするが、「Bloomberg Businessweek」によれば今、国家のインテリジェンスに関わる情報探査のテクノロジにおいては、民間、しかもシリコンバレーが重要な役割を担っている。

シリコンバレーのスタートアップ

 FBI、CIA、米国防省、NY警察などなどをクライアントに抱えるPalantirというシリコンバレーのスタートアップ企業がある。この会社、2004年に設立され、以前Facebookが本社を構えていた場所に入居している。Palantirが提供するサービスは、所謂データマイニングであるが、複数の情報ソースから特定のパターンを見出して、ばらばらの情報を繋ぎ合わせて解を導き出すことにある。

 Bloombergによれば、CIAやFBIは、DNAサンプル、金融取引履歴、地図、音声、ビデオなど数千に及ぶデータベースは有するものの、それを統合するのには何年も掛かるとしている。また、それ故に、9.11のテロに関しても、それを防ぐための個々の情報は有していたのに防げなかったとする。つまり、情報を短時間で統合し、一つのシナリオに組み上げることがPalantirの得意技なのである。

Palantirの成り立ち

 面白いのは、Palantirのコアテクノロジの由来である。それはもともとPayPalから来ているという。PayPalがマネーロンダリングに使われるのを防ぐために、トランザクションのパターンから不正送金を見抜く技術を開発し、PayPalがeBayに買収された後、それを担当したエンジニアたちがPalantirを設立したのである。

 PayPalのようにオープンであることを前提とした送金サービスは、銀行を経由して送金するのに比すれば、不正に対する防備が脆弱である。これは、銀行のように窓口における本人確認など、多重の構えを取ることが難しい一方、単一のサービスで多様な通貨で容易に送金ができるからである。その分、送金のトランザクションパターンに基づく不正検知の仕掛けは、より高度なものである必要がある。

 PayPalのエンジニアたちは、そのパターンを認識する技術を開発し、不正送金を防ぐ仕組みを構築した。Palantirが活用しているのは、そこで培われたテクノロジだ。

そのリスク

 しかし、そもそも何でこうした技術が民間主導で開発されたのか。きっかけは確かにPayPalかもしれないが、記事の中にもう一つヒントがある。そのビジネスの立ち上げに関わるくだりの中で、何故ターゲット顧客を当初政府としたのかが語られている。

 その中で、政府はいかに多くの開発者を抱えていようとも、その技術の先進性においてシリコンバレーに敵うことはない。なぜなら政府は優秀なエンジニアを確保することはできないからである、としている。故に、ことテクノロジの活用にあたっては、政府とシリコンバレースタートアップとのコラボレーションが実現するのである。

 一方で、民間に頼ることによるリスクもある。Palantirは、そのビジネスの目的を「米国そしてその同盟国のもっとも深刻な問題を解決すること」であるとしている。しかし、ひとたびそのテクノロジが悪意あるクライアント、Palantir自身、あるいはその一従業員によって利用されれば、個人のプライバシーなどは容易に暴かれてしまうこととなるだろう。

 スタートアップの一企業である限り、そこには投資家、経営者、従業員、クライアントなど、様々なステークホルダーが各々の意図を持って関与する。それだけに、企業を統治するガバナンスの仕組みはより重要になる。

政府と民間のコラボレーション

 イスラエルは、軍事産業にて培われたテクノロジを民間に転用することで有名である。これは、軍事が主要産業であるイスラエルの産業振興戦略である。

 しかし、テクノロジのプラットフォームがよりオープンになればなる程、政府から民間という流れよりも、いかにして民間のテクノロジを政府が活用するかが重要になってくる。Palantirは、まさにその典型的な事例であると言える。

 そして、その際に重要になってくるのが、いかに投資資金が新しいテクノロジの開発に回る仕組みを有しているか、また、企業のガバナンスを健全に維持できる仕組みを持っているかである。国家の争いの主戦場が情報戦へと移行する中、テクノロジを国家として如何に活用できる仕組みを作れるか、いかに優秀なエンジニアを育てることが出来るかも、重要な国力と言えるだろう。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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