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ハッカーマインドでいこう!後編--求められる企業文化の変化 |
前回、楽天 開発部アーキテクトグループの技術理事であり、12年の歴史を持つOSS勉強会「カーネル読書会」を主宰する吉岡弘隆氏にオープンソースとしてのLinuxが果たした役割について語ってもらった。
後編でさらに吉岡氏は「それを実現したのはハッカーマインドであり、今の日本企業が持つべきもっとも重要な要素だ」という。
Linuxのオープンソースとしての始まりは、20年前、フィンランドの大学生だったリーナス・トーバルズ氏が、インターネットに公開したOSのソースコードを、たまたま他の誰かが改良したのがきっかけでした。ですから、最初から精密な設計のもとにプロジェクトが始まったわけではなく、当時21歳の若者だったリーナスが「世界制覇」を目指していたわけでも、現在のような躍進を予見していたわけでもありません。偶然がきっかけとなって生態系のような改良の循環ができ、その過程でコンフリクトが生じたものは微調整され、さらにリーナスの人柄もあり、発展してきたものだといえます。
そしてそれを実現したのは、世界中の大勢のハッカーたちでした。ここでいうハッカーとは、マスコミがいうところのコンピュータネットワークの犯罪者という意味ではなく社会貢献する「善玉」のハッカーのことです。彼らは、自分が持っている技術を使って世界を変えたいと考えています。とくに世界では、そうしたハッカーが積極的に活動しています。
日本においては、個人としてプログラミング能力が高い人はたくさんいますが、会社や組織、社会を動かすという意味でのハックは、これまで必ずしも多くありませんでした。それは日本の大手ベンダーも同様で、そこに所属する個人のレベルではいくつかの例が出てきているものの、組織としてそれを理解した上で、コミュニティとがっぷり四つに組み、マスコラボレーション、あるいはウィキノミクス的なものに寄与できているところは、これまで残念ながらほとんどありませんでした。
しかし、今年の3月に起きた東日本大震災が、それまで潜んでいた日本のハッカーたちを喚起する大きなきっかけになりました。その例として、東日本大震災直後にNTTデータの社員である三浦広志さんが合同会社Georepublic JapanのCEOの関治之さんらと立ち上げた震災情報集約サイト「sinsai.info」があります。また、Googleの及川卓也さんの呼びかけで始まった震災からの復興を支援するための復興アプリ開発支援コミュニティ「Hack For Japan」もその一つです。どちらのプロジェクトも企業を超えてIT開発者が活動に参加しています。これはまさにハッカーの世界です。
これらは、むしろ例外的にオープンソースに適応している組織の事例だといえます。しかし、オープンソースを理解する人たちがどんどん育ってきて、組織の中にオープンソースの価値を個人として理解している人が複数人いれば、組織を横断して会社の動きも変えてしまうことが起こるのだと予感させる事例でもあります。
彼らのようなハッカー精神を発揮した文化を広げていく動きが、震災以降、顕在化してしていることは誇れることであり、日本にとっても大きな希望になっていると思います。こうした活動の芽をこの先どのように広げつつ、持続していくかがとても大事です。
私は、これまでカーネル読書会やオープンソースコミュニティでの交流の中で、マスコラボレーションやコミュニティによる価値の創造に方法論があることを理解しています。また、インターネットのサービスを作っている企業のほとんどもそれを理解しています。たとえばそれは、FacebookやTwitterであり、Googleですらそうです。
「Googleですら」というとたいへん失礼ないい方に聞こえるかもしれませんが、彼らは非常にProprietary(独占的)でClosed(閉鎖的)で、外部にテクノロジをあまり出さないというイメージがあります。しかし一方では、「Android OS」や「Chrome OS」を作り、スクリプト言語である「Python」に貢献するなど、オープンソースを自分たちのビジネスに積極的に組み込もうとしているのです。
いずれにせよ、インターネットのサービス会社は、オープンソースを無視して真空地帯で生きていくことはできないので、オープンソースに何らかの形で関わっています。ただし、その関わり方に上手と下手があるわけです。
私は、オープンソースと上手な関わり方ができている会社が、結果として残っているのではないかと思います。つまり、日本のインターネットサービス会社が世界に進出していくためには、単にオープンソースに関わるだけでなく、さらに上手に関わるような企業体質にならなければならないと考えています。
ハッカーマインドを持もつ人たちを増やしていくためには、多くの人がその価値観に目覚めることが必要であるとともに、受け皿となる企業の考え方も変わらなければなりません。そのためには、オープンソースとの関わり方を会社の内部から変えることが一つのチャレンジとなります。新しいことに挑戦し、たとえうまくいかなかったとしても、そこから何かを学ぶという価値観でビジネスを行わない限り、何も起こりません。過度のコンプライアンス順守のために、起こってもいないことを心配して何もしないよりは、失敗を恐れず行動するべきです。まず、行動を起こし、社会的なコンフリクトが起きたら、そのとき合意を形成すればいいのです。
それこそがハッカーセントリックな企業文化を作ることだと私は信じていますし、そのために会社の中にハッカー指向の価値観をどうやって育成していくかが課題だと思っています。それは私が所属している楽天も例外ではありません。それができなければ、我々が望んでいるような「インターネットサービスでNo.1企業になる」ところまで行き着くことはできないと思っています。
米ソフトウェア業界におけるリーン開発の第一人者で、アジャイル開発分野のリーダー的存在としても知られる米3Mのメアリー・ポッペンディーク氏は、「Agile Japan 2009」の講演の中で「許可を求めるな、謝罪せよ」という3Mの社是を引用しました。
3Mの社是は、さらに続きます。
"It is easier to ask forgiveness than permission. With a sincere attitude toward one’s work, the chances of doing real damage or harm are small. Consequences from bad calls, in the long run, do not outweigh the time waiting to get everyone’s blessing."
『許可を求めることより許しを乞う(謝罪する)方が簡単である。ひたむきに仕事をすれば、深刻なダメージや危険にあう可能性は低い。間違った決定による時間が、長期的にみて、みんなの許可を得るために待つ時間を上回ることはない)』
出典:A Century of iNNOVATION - The 3M Story(PDF)
これは、いまの日本のコンプライアンス重視に名を借りた「許可を求める文化」の対極にあるチャレンジ精神です。そしてこのチャレンジ精神こそが、イノベーションをもたらすマインドとして非常に重要なものなのです。
インターネットは、許可なんか求めていないクレージーな人たちによって作られてきました。それによって社会にイノベーションが起こったのです。もし彼らが許可を求めていたら何も起こらなかったでしょう。そんな社会を我々は求めているのでしょうか。
もちろん法律違反を勧めているわけではありません。最低限の守るべきルールはありますが、自分で考えて自分で行動することが重要だということです。もちろん、誰かに指示されるより自分で考えるほうが大変ですし、責任も伴います。しかし、それこそがハッカー精神でもあるのです。
これをもっと日本に根付かせなければなりません。その第一歩となるのが、オープンソースであり、それを生み出すハッカーマインドを理解し受け入れていくための企業文化の変化であるのだと思います。それが出来れば、山のように潜在する優秀なエンジニアによって、新たなイノベーションが生まれるはずです。
すくなくともインターネットは、ハッカーマインドをもった会社によって成長してきました。そして今の経済は、インターネットの成長によって支えられているといってもいいでしょう。それが、すべて米国企業に抑えられているということはあまり健全ではありません。20年間、日本が低成長に甘んじてきた背景には、つねに言い訳を探し、ハッカーマインドが不足していたからではないかと考えています。
これからのグローバルな時代に日本の企業は、もっとインターネットの成長に関与することが必要なのです。そのために重要な要素となるのがハッカーマインドであり、それを持つ企業でなければ世界に太刀打ち出来ないと思います。日本の企業が、それに目覚め、そこに舵をとらなければ、日本の経済成長もないのではないでしょうか。
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