鳩山内閣による予算見直しが、次世代スーパーコンピュータの開発にまで及んだ。
鳩山由紀夫首相を議長とする行政刷新会議による事業仕分け作業において、2012年度分の本格稼働を目指す次世代スーパーコンピュータの開発計画に関する2010年度予算が、事実上、凍結される公算が高まった。
11月13日の事業仕分け作業で、「見送りに限りなく近い縮減」に、次世代スパコンの来年度予算が位置づけられたからだ。建設段階にある施設を維持するための費用などは計上されることになるという。
理化学研究所が導入する次世代スーパーコンピュータは、世界一の処理能力となる10ペタFLOPSの実現を目指すもので、現在世界一となっている、米IBMが開発した米Los Alamos National Lab.が導入している「Roadrunner」の1.1ペタFLOPSを、約9倍も上回るものとなる。ちなみに、10ペタFLOPSという演算能力は、例えば、東京ドームが満員となる人数である5万人で、1秒間に1回の計算をしたとして、約6400年かかる計算を1秒以内に終わらせるほどのものと考えればイメージしやすいかもしれない。
当初は、スカラ部とベクトル部の複合システムとして設計されてきたのだが、ベクトル部の開発を担当していたNECおよび日立製作所が業績悪化などを背景に、今年5月、詳細設計以降の試作、製造段階への不参加を表明した。そのため、残る富士通1社によるスカラ単独構成での開発に変更されるなど紆余曲折はあったが、日本では、2002年にNECが稼働させた地球シミュレータ以来、実に10年ぶりに米国からの首位奪回となり、中国やインドの追い上げが激しいなかで、技術立国日本の象徴的存在のひとつとして、業界関係者からも注目が集まっていたものだ。
政府も2006年度には、この次世代スパコンを国家基幹技術と位置づけ、すでに神戸のポートアイランドの施設などを含めて、545億円の投資を行うなど、稼働に向けた準備は着々と進んでいた。
富士通では、45nm半導体プロセスを用いた「SPARC64 VIIIfx」を開発。128GFLOPSの性能を持つ、世界最高速の同CPUを数万個搭載することで、世界最高性能のスーパーコンピュータを実現できると自信を見せていた。
もちろん、このコンピュータが持つ「世界最高」の性能は、世の中の幅広い分野で応用が可能になるはずのものだ。よりきめ細かな気候シミュレーション、災害シミュレーション、最適なパラメータ設計、航空機まるごとの状態計算など、「大量」「精密」「複雑」「大規模」そして「組み合わせ」が意味を持つ計算分野に絶大な威力を発揮することになる。
事業仕分け作業における評価の中でたびたび指摘されたのは、「世界一」という点だ。「世界一の頂のみを目指す時代ではない」などといった言葉で、世界一にこだわることへの反論が相次いだ。さらに、具体的な成果が不明確であること、NEC、日立が撤退したことによるシステムの大幅変更への不安なども、仕分け人から指摘された。
事業仕分け作業では専門家からも次世代スーパーコンピュータの必要性、有効性などについて説明が行われたが、結果として関係者が意図した結果にはならなかった。
日進月歩ならぬ、秒進分歩で進化するIT産業において、最先端技術開発の1年間に渡る事実上の予算凍結は、多くの人が思っている以上に多大な影響を及ぼす。10年間の遅れをようやくキャッチアップしようとした矢先の事実上の予算凍結でもあり、日本が「世界最速のコンピュータ技術」を誇るタイミングを逸したことは明らかだ。
そして、これは仕分け作業で指摘された「世界一へのこだわり」という観点だけの話ではない。実際に1年間予算が凍結されることで、スーパーコンピュータの能力を活用した、様々な分野への技術応用が少なくとも1年間は遅れることになる。それが研究、学術、産業分野に及ぼす影響は少なくない。
スーパーコンピュータの分野では、グリッドコンピューティングの活用によって、中小規模システムが急速に増加している。この影響もあり、IDCの予測によると、2010年には全世界で約100億ドルとなるハイパフォーマンスコンピュータの市場規模は、2012年には156億ドルに拡大すると見ている。
日本のスーパーコンピュータの技術が世界一の座を得られれば、世界的に市場が拡大するハイパフォーマンスコンピューティングの領域において、日本の企業がリーダー的存在を維持しつづけることにもなろう。
たしかに、総額で約1200億円規模の投資となる次世代スーパーコンピュータだが、その存在がもたらす学術、産業、経済といった周辺分野への影響は、一部の政治家が抽象的にしか理解できない「世界一」という言葉から想像している範囲をはるかに超えるものだ。
万が一、今回の事業仕分けにおいて「世界一」という言葉の唯我独尊的なイメージのみをあげつらい、次世代スーパーコンピュータの存在意義を不当におとしめる意図があったとするならば、それは、日本の科学技術立国としての未来を捨て去る、甚だ拙速に過ぎる判断といえるのではないか。
日米が世界最速を争ってきたスーパーコンピュータ開発の歴史
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