エンタープライズアーキテクチャ(EA)の取り組みによって、組織の業務と情報システムの全体像を表す「設計図」が作成される。一般に設計図とは、モノを作るときに必要となる、形やサイズ、材質や構造などの情報を示した図面のことである。EAでもこれに相当する図面を作成するが、EAに含まれるドキュメント類のなかでは、実はごく一部分にすぎない。EAでいう設計図は、より広い意味合いで使われており、ビジネスや情報システムの設計に必要となるあらゆる文書や図表などを含んでいる。その中には“ポンチ絵”のようなものもあれば、個別製品の名前がずらりと並ぶ文書も含まれる。
例えば家を建てるときとの比較で考えてみたい。家を建てるときに工務店が使う詳細設計図を依頼主がいきなり見て、どんな家が建つか想像できるだろうか。家を建てるときに最初に依頼主が使うのは、通常“間取り図”だ。子供部屋がいくつ必要か、応接間をどこに置くかなど、家の機能を最初に考えるときに必要となる。エンタープライズアーキテクチャでも、かなりシンプルな図が作成される場合がある。社内システムの一覧を図示したものなどがそれにあたり、“システムの間取り図”ともいえるだろう。
経営層にはシステムが具体的に記述された詳細設計図は理解しにくい。したがって、情報システムの注文主である経営層には、経営層向けの設計図となる、情報システムの間取り図を作ることが必要である。また、業務は設計図もなく作られていることが多いという事情もある。それをそのまま情報システム部門が理解することは容易ではなく、より根本的なシステムの改善提案を行っていくためには、業務の全体像を把握することが情報システム部門に求められるからだ。
EAで作成される設計図を利用する人には、経営者、ミドルマネージャー、CIO、アプリケーションの開発者、社内ネットワークの担当者など、様々な人がいる。それぞれの役割に応じて必要となる設計図は異なり、間取り図に相当する非常にシンプルなものは、経営層やCIOに特に必要とされる設計図といえるだろう。一方で、アプリケーションの開発者などには、より詳細な内容まで記した設計図を必要とする。
EAを構築するためのフレームワークの中には、どのような関係者の視点からとらえた設計図なのかを明示的に示すように要求しているものもある。EAの設計図とは単一の図面ではなく、業務と情報システムとを多面的にとらえるための資料群といえるだろう。あらゆる視点からの「設計図」を一度に整備することは難しい。自社にはどのような視点からの「設計図」が必要とされているのか、そのプライオリティ付けを行い、整備を進めていくことが、EAへの取り組みを始める際のポイントといえる。
(みずほ情報総研 EAソリューションセンター 近藤 佳大)
※本稿は、みずほ情報総研が2004年5月11日に発表したものです。