ビジネスや業務を考える上で、ITを抜きにすることはできない。だが、業務へのITの適用方法を考えるのは、誰の役割か?業務担当者自らが先進の情報技術を学習し、自業務への適用を考えていくべきなのか?「それは理想的かもしれないが、現実的ではない」という声がある。技術の進歩が早く、ビジネスへの影響力が大きい現在こそ、ITを専門家の手に委ねるべきとの考えだ。「ITと業務に精通した人材を探しているのだが、なかなか見つからない」という声をよく耳にする。
背景には、ITが経営に与えるインパクトがますます大きくなっている現実がある。ITの力を借りない企業経営や業務など、今や考えられない。むしろITをどれだけ活用できるかによって、企業の競争力が決まると言える。
システム担当者、特に上流設計者には以前から、「先端の情報技術と同じように、業務知識も重要」と言われている。業務がイメージできなければ、ユーザーから出されるリクエストを理解できない。ユーザーと円滑にコミュニケーションを進めるために必須の知識という理由からだ。
同様に最近では、業務や事業に精通した経営者や業務担当者が、相応のITスキルを持ち、積極的に使いこなすべきという考えが出てきている。
もちろん、「専門家ではないので、システムのことはよく分かりません」と避けて通ることはすでにできなくなっている。
だが本当にエンドユーザーがITの深い知識を持てば、さらにコミュニケーションが円滑になると同時に、より理想に近いシステムを構築できるようになるのだろうか?
これに対して、デルや旭化成は、ITの知識は専門家に任せるべきと考え、「現場担当者にIT知識は求めない」と言い切る。IT担当者から歩み寄るべきとの見解だ。
技術の進化はますます早くなり、専門家であっても追随していくのは至難の業だ。ITに力を割くなら、本来の業務の改善や改革に注力した方が、企業全体の利益になると考えるからだ。
2社の先進事例から、IT導入を円滑に進め、最大限の導入効果を引き出すための、ITスキルの適材適所と、部門の役割分担を考える。
旭化成--業務担当者に必要なITスキルは知識全体の5%で十分!
経営におけるITの役割は増すばかりだ。経営者が事業戦略やビジネスモデルを検討する際にも、現場の業務担当者が仕事の流れや業務プロセスを見直す場合にも、ITをどれだけ活用できるかで、選択肢の幅に大きな差が生じるようになってきた。
そうした流れを受け、業務担当者であっても、ある程度のITスキルを求める企業が出てきた。そんな中、旭化成では「現場の業務担当者に、中途半端なITの知識は不要」と言い切る。
間違えてはいけないのは、「ITの知識はゼロで良い」というわけではない点だ。巷には3文字熟語やITのキーワードが反乱しており、日常のビジネス会話でも頻繁に登場する。それらが分からなくては、最低限のコミュニケーションすらままならない。
一方、システム開発において、「IT担当者とエンドユーザーのコミュニケーションギャップ」が、プロジェクトの進捗を大きく左右するという声がある。
もっとも、ビジネスや経営、業務におけるITの重みが増すにつれて、ITの知識も一般常識となってきている。そのため、基本的な用語の解説を必要とするケースはほとんど見られない。
- 旭化成 井上均情報システムセンター長
井上均情報システムセンター長は「エンドユーザーの頭の中に、ITの知識は5%あればいいと思います」と話す。会話の中にIT用語が出てきた場合に、「それは分かりません!」と突っぱねるのではなく、興味を持って耳を傾けられる程度の知識と姿勢、これが5%位だというのだ。そしてこれは、新聞や一般のビジネス雑誌を継続的に読んでいれば、自然に身に付く程度だと言う。
もちろん、話を進めていく中で、深く突っ込んだ話をする必要が生じるかもしれない。「そうなったら、専門家に詳しい説明を求めれば良いのです。そもそも専門分野が違うのですから、お互いの話を完全に理解できるはずはありません」(同)。
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