会員情報を共有しサービスを向上
従来は会場ごとに分散していたデータベースを一元化したこともTOM@Sの特徴である。1万5000人の会員情報を全社で共有することによって、顧客サービスの向上が見込める。CRM(顧客関係管理)など攻めの営業も視野に入る。
会員情報を全社で共有するメリットはこうである。例えば、火曜日に九州会場で車を売った会員が木曜日に関東会場で車を売るといった場合に、売り買いの結果を相殺させる会員サービスが可能になる。例えば、与信機能の一元化も可能になる。従来は、設定した取引上限額を超える取引を、取引を複数の会場に分散させることによって実現していた業者もいた。こうした想定外の取引を把握して対処する運用が可能になる。
温暖地で売れ残った四輪駆動車を寒冷地で再出品するといったケースで、車の写真など出品伝票に付随するデータを使いまわせるメリットもある。まったく同じ手続きを会場ごとに独立して実施する必要がない。
従来はデータベースを個別で持っていたため、上記のサービスは実現できなかった。目的に応じて会場を使い分ける需要は高いため、会員情報の全社共有は重要である。
ブレードでMetaFrameの拡張性を吸収
TOM@S移行後でも、競りのシステムと基幹系システムは連携はするものの、互いに独立する。競りシステムは各会場ごとに存在し、相互にINSネット64を経由して落札に参加する。競りで流れるデータは20〜30バイト程度であり、1件の競り案件はわずか数秒で完了する。帯域よりも遅延が重要になるリアルタイム系システムである。
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一方、基幹系システムはNECのデータセンターに集中化させ、各会場からはKDDIの広域イーサネット接続サービスを経由してアクセスする。データセンターは10Mビット/秒、7つの会場は1.5Mビット/秒の帯域を保証した3Mビット/秒の回線で接続する。競りのシステムは、競りに使うデータを基幹ネットワークを介してデータベースから抽出し、競り機能を実行後、競りの結果をデータベースに反映させる。
TOM@Sでは、オークション対象車のデータベースを一元化したことによって、競りのシステムと基幹系システムを連携させたサービスの向上も可能になった。例えば、競りのシステムが全会場のオークション取引履歴を更新・参照することで、落札者がオークション端末を用いて売り買いの計算書を即座に印刷して持ち帰る運用が可能になった。
基幹系業務のクライアントは、2005年5月現在、TOM@Sを導入した横浜会場の80〜90ユーザーが使っている。今後、他の会場がTOM@Sを取り入れることで、基幹系システムの利用者は増える。こうしたユーザーの増加に耐えられるよう、TOM@Sでは米Citrix Systemsが開発した画面情報端末ミドルウェア「MetaFrame」と、MetaFrame用にCPU処理能力をスケールアウトするためのブレードサーバ「Express5800 Blade Server」を採用した。
業務クライアント・アプリケーションはVisualBasicで画面を開発。このVBアプリをブレードサーバで稼動するMetaFrame上で実行させる。データセンターで実体が稼動するアプリケーションの画面情報だけを手元のPCで表示させる仕組みを採った。
ブレードサーバと画面情報端末を同時に採用することで、横浜以外の他会場が順次TOM@Sに移行して業務クライアントのユーザー数が増加していく際に、データセンター側でブレードを追加するだけで対処できるようにした。ブレード1枚でMetaFrameユーザー20人を想定しており、横浜会場の80〜90ユーザーに合わせて現在のブレード数は5枚である。全国展開に合わせてブレードの枚数を増やす計画だ。
現場に愕然、急遽トラブルに対応
4月9日に稼動を始めたTOM@Sの裏側には、システム・エンジニアが予期しなかったトラブルがあった。出品伝票の画像を撮影する現場は、明るさ(露出)の変化が想定外だったのである。デスクスタンドスキャナNS-1000は規格上、700〜2500ルクス程度の明るさに対応するが、「実際は西日が差すと1万ルクスを振り切った。安定した露出を得られるよう、現場周辺を改造して対応した。舞台の大道具さんのような仕事になった」(NECの村田淳夫氏)。
データ入力アプリケーションの設計に際しては当初、OCR(光学式文字読取)化も考えたが、「字が汚くて人間でも読めないものがある」(内山厚一氏)ことや「伝票に靴で踏んだ痕とか泥とかが付着していることもある」(千原朝明氏)ことから、機械で読み取るのは無理だと判断するに至った。データ入力の仕組みは、現場を知って初めて現状の形態に絞り込まれていったのである。
工夫と苦労を経てTOM@Sは完成した。今後は、取引履歴データの可視化など、営業支援機能を視野に機能を拡張していく。直近では、2005年にインターネットを経由した競りの参加も可能にする。リアルタイムのオークション参加ではなく、購入希望車両と落札価格を事前に登録して当日は不在参加するスタイルを採る。インターネットを併用することでオークションへの参加率を増やす狙いである。