--具体的に、今回の進出は過去とどう違うのでしょうか。
江島:日米の違いはテイストが違うという部分なので、まずは向こうの味を知ることが一番大事だと思います。つまり、ユーザーがどんな風にASTERIAを使うのかを見て、導入事例となるような顧客を数社見つけるのが初年度のミッションだと思います。前回は、マーケティングについて日米間のやり取りはありましたが、米国で実際にどういうオペレーションがなされていたか、ユーザーがどう使っていたのかという観点では、把握できていませんでした。
ASTERIAには企画段階から関わっていて、日本の顧客と一番最初にやり取りした経験があるので、米国でも同様に顧客の意見を聞きたいと思っています。前回のように、一度に巨額の投資をするのではなく、地道に企業に顔を出して、製品を使ってもらい、導入事例を積み重ねていく戦略です。ビジネス上のコネクションも、小さなところから始めます。
平野:今回の米国法人の社長は、米国市場に詳しいかどうかよりも、ASTERIAという製品を理解しているかどうかという基準で選びました。ASTERIAは単なるツールではなく、私たちがこれまでやってきた思いと、これから5年先、10年先やりたいことが込められた製品なんですね。ですから、その思いを持った人間が直接行き、直接人々に伝えることが重要なのです。布教活動と一緒ですね(笑)。
江島:最終的に米国法人は現地の人間に任せることが必要だとは思っています。ですから、彼らの生態系にとけ込んで、雇用を作ることのできるような会社にしたいと思っています。
ソニーやホンダもまた、最初は日本人が自ら乗り込んだんです。ホンダは、最初は米国市場に合わせて大型バイクを販売していましたが、売り上げが伸び悩んでいました。しかし、社員の使い走り用に50ccのスーパーカブを乗り回していたところに問い合わせがあり、絶対に売れないだろうと思っていた50ccバイクが売れに売れ、ホンダの成功のきっかけになったのです。このようなケースもあるので、思い込みではなく、現地でアンテナを張って動けば道は広がると思います。
--ミドルウェアの分野は、日本というカラーがつきにくい製品という意味では強みですが、その一方で競合企業も存在するのではないでしょうか。
江島:競合企業は、私たちの製品を宣伝してくれるので存在した方がいいと思っています。競合となるwebMethodsやTIBCO Softwareは、大手企業向けのハイエンド志向ですので、ASTERIAとは事業モデルや対象企業が異なります。
たとえば、ASTERIAでの開発手法をテーマにした解説書『ASTERIA実践ガイド』(翔泳社、3360円)で無償の評価版のCD-ROMを付録につけていますが、これは今までどの企業もやったことがない試みです。ASTERIAという名前は聞いたことがあるが、使う機会のなかったエンジニアに対して大きくアピールするやり方ですし、こういったマインドでビジネスを進めていきたいと思います。
米国法人ではガラス張りの経営を目指します。製品自体のオープンソース化までは行ってませんが、ASTERIAのアーキテクチャ自体をオープンにしてしまおうという計画は以前からあります。バリエーションが出て来てほしいんですね。しかし、まずは成功しないと、オープンソース・ソフトウェアを作りたいと思う人も出てこないですから。
--米国法人における5年後の目標を教えてください。
平野:海外の売り上げが半分を超えることを目標にしたいですね。世界のソフトウェア市場における日本の占める割合は、全体の2割くらいなのです。オラクルなどは売り上げの2割は日本市場からのものですが、ほかの外資企業で日本市場が2割を占めるところはあまりないです。そう考えると、5割といっても相対的に日本の割合がまだ高い。
また、米国は世界市場に対して依然大きな影響力を持っているので、アジアや欧州への効果も期待しています。日本の情報は見ていませんが、米国の情報にはアンテナを張り巡らせている欧州・アジアの企業は多いですからね。最終的な目標は、米国で成功した日本のソフトウェア企業の最初の事例になることです。
江島:5年後には、米国で開発部隊を持てるようにしたいですね。市場に向けたメッセージを日本だけが考えるのではなく、一緒に考えていけるような新しい事業体制を構築して、日本と米国がどちらが上ということではなく、一緒に開発できる体制にしたいですね。そのための情報インフラは整ってきていますので、感覚は昔と大分変わっています。社会が変わる以上、会社も変わるべきです。