ICタグとJANコードのヒモ付けが
卸業者の作業負荷となる
西谷氏は、ICタグを支えるシステム面で、百貨店と卸業者側に課題は多いという。 たとえば、販売員にはPDA端末を利用して靴を検索するようにしているが、実際にはキオスク端末を使うケースが多い。PDAのバッテリーが2〜3時間しか持たないからだ。
また、これまで百貨店と卸業者の大半が、JANコードをベースとしたシステムを構築してきた。そのためJANコードとICタグをヒモ付ける作業が必要となる。現状では、卸業者がICタグを靴箱に貼り付け、タグにナンバリングされたシリアルコードをJANコードと結び付けている(図6参照)。これが、そのまま卸業者の作業負荷となっている。
将来的には、タグIDとJANコードが一体となったシールタグを専用の発行機から吐き出す仕組みが主流となるだろう(図7参照)。だが、発行機の価格は数百万円。それを数台導入するとなると、卸業者側のシステム投資額が1000万円を超えてしまう。その点が解消されない限り、ICタグシステムが標準にならないと西谷氏は見ている。
一方で、ICタグの導入でメリットを最も享受できるのは、実は卸業者だと同氏は指摘する。「現在、靴のサプライチェーン全体を取りまとめているのは卸業者です。そこが商品を企画してメーカーに発注し、必要に応じて社員を百貨店の靴売場に派遣してニーズを把握しています」と説明する。
現在、ICタグシステムに対応する靴の卸業者は、シンエイのみだ。今後は、ICタグの導入で「売上の拡大」という明確な効果があるため、参入する卸業者の数は伸びる見込みが高いという。
アクティブタグを使った
実証実験も試行
阪急百貨店では、この他にも、電池を内蔵したアクティブタグ(用語解説参照)を使った実験も積極展開してきた。
これは2004年11月に、堺市北花田の阪急百貨店オープン記念に合わせたものだ。家族連れやカップル等の入店時に、2つのアクティブタグを渡し、店内で買い物をしてもらう。別の買い物をしていても、そのタグを店内の数カ所にあるリーダー端末にかざすことで、互いの位置が瞬時に確認できる仕組みだ。アクティブタグは電波が約10〜20m飛ぶため、階をまたいで位置を確認できる。
ただし、チューニングに手間がかかる上、タグのコストが高く、配布・回収に手間がかかってしまう。実用化するには、乗り越えるべき課題は多い。
西谷氏は現在、顧客IDとICタグを組み合わせたサービスを検討している。たとえば、顧客がケーキを購入した際、顧客IDから帰宅時間を算出し、何も言わなくても1時間分のドライアイスをつけるといった具合だ。帰宅するまでの所要時間を聞いてドライアイスを詰めるのではない。
「個人情報との兼ね合いがあるので、今すぐは難しいのですが、ICタグを応用すれば、顧客一人ひとりに個別のサービスを展開できます」と話す。これが実現すれば、顧客の満足度を向上させるとともに、One to Oneマーケティングが可能になる。
阪急百貨店では、今後ICタグの導入範囲を拡大し、紳士靴やサイフ等のアイテムでの活用も見込んでいる。