アプリに最適なプロセッサを提供するサン:プロセッサメーカーの歩む道 - (page 2)

藤本京子(編集部)

2006-02-10 21:02

サンの起こしたプロセッサの波

 野瀬氏によると、サンはこれまでに「プロセッサ市場で3つの波を起こした」と言う。まず1つ目は、1980年代後半に起きたRISCプロセッサの波だ。RISCの登場前に汎用機やミニコンピュータなどで使われていたプロセッサは、命令セットが多く複雑だった。こうしたプロセッサから使用頻度の低い命令セットを外して簡素化し、回路もシンプルにしてクロック周波数を上げるように作られたプロセッサがRISCだ。野瀬氏は、「このRISCの概念を商用で普及させたのがサンのSPARCだ」と説明する。

 次の波は、対称型マルチプロセッサ(SMP)だ。これは、サーバの中にプロセッサを複数個つめこみ、それぞれのプロセッサが並列して処理を分担するものだ。SMPにおいては、CPUとメモリをつなぐデータ転送部分がボトルネックになるとされていたが、サンではこの課題を解決する「Ultra Port Architecture(UPA)」を独自に開発、1997年にリリースしたサーバ「Sun Enterprise 10000」では64個のプロセッサ搭載を実現した。

「システムベンダーとしての強みはここにある」と主張する、サン・マイクロシステムズの纐纈昌嗣氏(左)と野瀬昭良氏(右)

 このデータ転送技術は、コアを増やす技術にも応用されている。纐纈氏は、「他社がいまだ数個のコアしかチップ内に搭載できていないにも関わらず、T1が8つのコアを搭載できたのは、サンがデータ転送のアーキテクチャにおいて優れたテクノロジーを持っているためだ」として、同社のアーキテクチャの強みをアピールした。

 そして、3つ目の波がCMTだ。SMPにおいてサーバ内で実現していた並列処理を、チップ内部で実現しているのがCMTとなる。つまりT1は、「Enterprise 10000をチップの中に入れたようなものだ」と野瀬氏。普通のデュアルコアでは2つのスレッドしか実行できないが、サンのT1では8つのコアで32スレッドが実行できる。

 「この3つ目の波が、今プロセッサ市場で新たに始まろうとしている」と野瀬氏は主張する。「これはプロセッサの歴史に残るものとなるだろう。サンはこのCMTの世界で市場をリードしていく」(野瀬氏)

 サンとしても、CMTのコンセプトがすぐに市場に受け入れられるとは考えていない。ただ、「データ領域のプロセッサで最初にCMTを採用するのはRockだが、すでにRockでしか処理しきれないと思われるアプリケーションが見えつつある」と纐纈氏は語る。例えば、RFIDのデータベースアプリケーションなどがそれに当たる。「RFIDのデータベースは、大量のトランザクションを同時に処理する必要がある。これはCMTのような技術でないと難しいだろう」(纐纈氏)

「エコ」を推進

 プロセッサの消費電力をいかに抑えるかについては、どのプロセッサメーカーも重要だと考えており、AMDなどは「ワット性能」というキーワードで同社の戦略を推進している。この動きはサンも例外ではない。

 12月にリリースしたT1プロセッサでサンが大きなメッセージとして伝えていたのは、T1が「エコプロセッサ」であることだ。T1では、これまでのプロセッサのように、キャッシュの大きさやパイプラインの深さ、周波数の高さなどをアピールしていない。こうした要素は、すべて消費電力を上げる原因ともなっているからだ。

 ただ、「消費電力を抑えるためにこうした要素を重視しなかったのではなく、スレッドの多さに対応するためのプロセッサを設計するには、これらの要素が特に重要でないことがわかっただけだ」と野瀬氏は説明する。同氏は、これまでのプロセッサを「スピードは速いが荷物を積めないスポーツカー」とし、T1を「たくさんの荷物を同時に運べるトラック」と表現している。スポーツカーを10台走らせるより、トラックを1台走らせた方が効率がいいのは明白だ。T1に求められているのは「瞬間最大風速」ではなく「同時に処理できる情報量(スループット)」で、「アプリケーションの適正を考えたからこそ、高性能で低消費電力のプロセッサが誕生した」(野瀬氏)という。

 OSやアプリケーション環境など、すべてを考慮した上でプロセッサを開発できるサンの強みは、システムベンダーであるという事実そのものなのかもしれない。


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