変化する日本語を追い続けるATOK
日本語入力システムの「ATOK」は、長い歴史の中で、単なるPC用の仮名漢字変換ソフトの枠を超えた。そのエンジンは、携帯電話や情報家電、携帯ゲーム機などにも組み込まれ、日本人がデジタル機器で日本語を扱う際の重要なフロントエンドとなっている。
ジャストシステム、ビジネス企画室ビジネス企画グループATOKビジネスオーナーの稲野豊隆氏は、「ATOKの開発に当たり、日本語文化というものに対する責任を強く感じている」と言う。
「デジタル機器での日本語入力が当たり前になっている今、民間の一企業が開発しているアプリケーションが、日本人の日本語感覚や、文化的な側面に影響を与える可能性もあることを常に意識している」(稲野氏)
そうした観点から、ジャストシステムでは、情報技術が文化的な側面に与える影響について研究する「デジタル文化研究所」を発足したり、ATOK辞書の内容について社外の有識者の意見を聞く「ATOK監修委員会」を組織したりすることで、情報技術の側面から日本語文化に貢献することを目指してきたという。
「ATOKには、変化し続けている日本語に対応した機能の搭載を常に目指している。実際には、年に1度のバージョンアップでも追いつけていないと感じるほどだ」(稲野氏)
最新バージョンのATOK 2006では、辞書に含まれる語彙の拡充と変換効率のアップといった、従来から継続して行われている機能強化に加え、ユーザーがより容易にATOKをカスタマイズするための新機能も搭載されている。例えば、「訂正学習機能」がそうだ。社内文書の作成時に「営業推進」を「営推」、「ロジスティック担当」を「ロジ担」などと略すことがあるが、こうした略語は普通に「えいすい」「ろじたん」などと入力しても、正しく変換することができない。その場合は、一度正式名称で変換してから不必要な文字を削除するといった方法をとるが、ATOK 2006では、このようにキーボードを使って修正した略語を、文章入力中に、即座に辞書に登録することができる。
また、ユーザーからの希望が多かった機能として、携帯電話で一般的になった「推測変換」を可能にする入力モードも用意されている。
そのほか、市町村の合併に伴う新自治体名への変換に対応した地名辞書のダウンロードサービスなどは、常に新しい環境に対応した製品を提供するというコンセプトをよく表していると言えるだろう。
ジャストシステムのレーゾンデートル
ジャストシステム製品の今後の方向性について、「今のビジネスシーンに最もマッチした機能を搭載する」一太郎と、「今の日本人に最もふさわしい言葉を、より素早く入力できるようにする」ATOKというスタンスに、大きな変化はないだろうという。
「デスクトップアプリケーションはユーザーにとっての文房具であり、ツールだと思う。つまり、そこで扱うファイルのフォーマットがどうかといったことよりも、使い勝手こそが最も重要視され、アピールされるべきだろう。一太郎やATOKには、使い勝手の向上によって、ユーザーが作る文書の中身そのものの質を高められるような技術を常に導入している」(稲野氏)
近年、ジャストシステムが発表して注目を集めている新技術として「xfy Technology」と呼ばれる、XML複合文書の閲覧編集環境がある。現状、まだサーバベースでの利用が主流となっているXMLデータを、エンドユーザーがクライアントベースで容易に扱えることを目指したものであり、今後、同社にとってのコアテクノロジーとなる可能性を秘めたものだ。このxfy Technologyと、一太郎、ATOKの融合の可能性も常に模索しているという。
「xfyにしろ、一太郎やATOKにしろ、共通するのは、人間のアイデアや思考といったものを、プラットフォームや製品、アプリケーションに依存しない形でストアし、必要なときに必要な形で引き出すためにはどうしたらよいかということを目指している点だ。ただし、その実現に当たっては、日本語を含むダブルバイト圏の言語の処理が特殊なものにならざるを得ないことも事実。ジャストシステムの存在意義は、そうした技術と、言語や文化のギャップを、われわれの持っているアプリケーションで埋めていくことにあるのかもしれない」(稲野氏)