IBM研究部門責任者が語る「バランスの妙」 - (page 3)

文:Martin LaMonica(CNET News.com)
翻訳校正:坂和敏(編集部)

2006-03-23 16:24

--IBMは昨年、DataPowerを買収しました。DataPowerの創業者であるEugene Kuznetsov氏は、XMLアクセラレータのような、ミドルウェアの機能をハードウェアに取り込むというアイデアを持っていました。これまでソフトウェアで処理されていたことが、今後は専用チップに組み込まれるようになり、それらがブレードサーバのラックに組み込まれるようになることが増えると思いますか。

 絶対にそうなると思います。実際に、DataPowerの大きな強みは、ソフトウェアの賢い使い方にあります。そのため、ハードウェアはソフトウェアほどユニークではありません。それは、ボックスや、プラグイン可能な機器の中に組み込まれ、サーバのフロントエンドとしてXML処理を高速化します。今後は、こういった類のことがもっと一般的になってくると思います。

 そういったことが起こる根本的な理由はたくさんあります。従来の半導体技術には、電力消費量の増大などの問題が立ちはだかっています。一方、特殊用途向け(機器)の利用価値をかつてないレベルに高めるさまざまな状況が存在しています。アクセラレータは昔から存在していました。しかし、アクセラレータの開発が終わる頃には、汎用プロセッサはもっと速くなっていたのです。そのため、すべてのアプリケーションを汎用プロセッサ上で稼働させることになり、特殊な市場以外では、アクセラレータが普及することはなかったのです。今後は汎用プロセッサの動作速度が、従来ほど大幅な向上を遂げることはなさそうですし、アクセラレータを構成するテクノロジーやツールやソフトウェアも進歩してきています。そのため、接続するだけで利用可能になる特殊用途向けの機器が次々と登場することになるでしょう。

--過去数年の間に、IBM Researchで生み出された話題のプロジェクトの1つに、「企業向けのGoogle」と呼ばれた「WebFountain」があります。WebFountainを今後、どのようにしていこうと考えていますか。

 IBMおよびIBM Researchにとって、WebFountainが重要であることに変わりありませんが、ことはWebFountainだけに留まりません。実は、根本的な問題は、自然言語の理解一般についてです。WebFountainを強力なのは、ウェブサイトにアクセスしてテキスト文書を読み込み、人々が述べている内容を照会できるよう、その内容について十分理解する能力があるからです。人々が述べている内容を知るために、ドキュメントや、公開されている文献さえも読み込み、その内容をチェックするということに大きな関心を寄せる国家が、米国を含めて世界中に多数存在していることは想像できるはずです。WebFountainの初期においては、英語、アラビア語、中国語という3つの言語で多くの成果が成し遂げられました。この点から、このプロジェクトのスポンサーを推測できるはずです。

 WebFountainは、人々が述べている内容を知性という観点から分析することを可能にする自然言語処理技術の一例です。しかし、これは企業が抱える膨大な数の問題や、話し言葉の英語をロシア語に翻訳したり、またはその逆を行うというような、自然言語を理解してそれを何かに利用する上での問題のごく一部でしかないという点に着目しておく必要があります。

 コールセンターについて話したと思います。コールセンターにオペレータを抱えている場合であっても、通話を監視し、何が問題となっているかを理解しようと思えば、自然言語を理解する技術が大変有効なものとなります。企業が顧客とやり取りを行う過程では、自然言語に関する、分析の必要な問題が数多く存在しています。WebFountainは、自然言語処理技術と検索技術の具体的な適用例でしたが、それは一例に過ぎません。

--あなたは顧客と深くかかわっているように聞こえますし、IBM Research Centerはライセンス供与で多額の収入を得ています。あなたは、特定の製品グループと結びついている、商業指向の製品を意図的に研究しようとしているのですか。また、そういったプロセスをどのようにやりくりするのでしょうか。

 うまくやらなければいけないということは事実です。われわれは、バランスを保つよう気をつけています。先進的な研究を行ったものの、市場とのつながりを持たなかった昔のBell Labsのようにはなりたくありません。われわれは自らの技術革新とアイデアを市場に環流するためのチャネルを確実に構築したいと思っています。また、われわれは適正なバランスをとることについて、時間をかけて検討しています。つまり、短期的な市場の仕事や短期の開発ばかりを行うことはできないのです。そんなことをすれば、開発研究室になってしまいます。また、企業の資金援助を受けた基礎研究ばかりを行うこともできません。それでは、知的財産を市場に環流させるチャネルを持つことができなくなってしまいます。要するに、バランスをとることが必要であり、われわれはそのバランスを重視しながらすべてのことをしています。結局のところ、私にとっては適正なバランスをとることこそが、リサーチ部門を統括する秘訣です。

この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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