また、販売方法もパッケージベンダーとASPベンダーでは異なってくる。ASPの場合、IT部門にアプローチするのではなく、直接業務を行っている部門にアプローチするケースが多い。ASPでは、一部の機能を単体で利用することもできるため、現場レベルで「この機能だけが欲しい」となれば、IT部門を通じてカスタマイズすることなしに、すぐにでもウェブで利用可能なためだ。つまり、IT部門の仕事をASP業者が受け持ってしまうため「IT部門はある意味ASP業者のコンペティターだ」と丹羽氏は話す。
特に大規模なソフトウェアパッケージの場合、全社的な導入となるケースが多く、購入はシステム部門の責任で行う。そのため大手パッケージベンダーは通常システム部門にアプローチするが、これをASPの営業にもあてはめてしまう。こうした既存パッケージベンダーの営業方法について丹羽氏は、「本来業務アプリケーションは、実際に業務を行っている現場にアプローチする方が効率的。こうしたあたりまえのことができていないパッケージベンダーは数多い」と警告する。
ASPの課題はどこにあるのか
成長が見込まれているASP市場ではあるが、成長の阻害要因がないわけではない。ガートナーによるユーザー調査では、「企業規模が大きくなればなるほど、ASPは浸透していない」と丹羽氏は言う。大企業は独自のシステムを持っているケースが多いことも理由だが、丹羽氏は「自社のデータを他社に任せることに不安を抱いていることも阻害要因となっている」と話す。
また河本氏も、「パフォーマンスや速度を気にするユーザーもいる」と指摘する。ネットワークの進化で大きく発展したASPだが、更なる発展もネットワークの進化にかかっているのだ。また同氏は、既存のアプリケーションとの統合がスムーズに行くかどうか、さらにはASP業者が買収されてサービスが消滅することへの不安、長く使い続けた場合の“レンタル料”が購入した場合より高価になってしまうことなども懸念材料として挙げている。
ASPの未来を予測する
ASP専業ベンダーは、将来的にすべてのアプリケーションがウェブで利用可能となる世界を描いているが、実際にそのような時代はやって来るのだろうか。ガートナーでは、2010年までに新規ソフトウェアの30%がASPモデル経由で提供されるようになるだろうとし、このモデルを活用していないベンダーは活用するベンダーにシェアを奪われるとしている。
ただし丹羽氏は、「すべてがASPになるということはありえない」と話す。システムが一定規模以上になると、自社専用にシステムを作り込む方が安価で使いやすい場合があることや、これまでのシステム運用の考え方を変えられない大企業もいることなどがその理由だ。同氏は、「アウトソーシングと同様、企業のコアコンピテンシーとならない部分をASPにアウトソースするという形が主流になるだろう」と予測している。河本氏も、「ASPベンダー自身も、ミッションクリティカル部分には踏み込まないよう見極めているのではないか」述べている。
さらに丹羽氏は、現在のASPが「1 対 1」のきめ細かなサービスではなく、「1 対 多」となっているため、どうしても最大公約数的なサービスしか提供できていない点を指摘する。つまり、すべての顧客の個別のニーズに対してうまくカスタマイズできるところまでASPは発展していないということだ。「すべての顧客が満足できるようなサービスを提供することは難しい。特別な要求があると、ある程度は対応できても限界があるだろう」と丹羽氏。
例えば、ASPは常に最新機能を提供しようと頻繁にアップグレードを行っているが、変更を好まない顧客もいる。そのような顧客にどう対応するか、古いバージョンをサポートするための体制があるかなども課題となる。「既存のパッケージソフトも、どうしても旧バージョンを使用したい場合、別料金でサポートするという場合がある。このような値付けを考える必要も出てくるかもしれない」(丹羽氏)
「1 対 多」のASPに対し、「1 対 1」の対応を求める場合、「アプリケーションアウトソーシングという選択肢もある」と丹羽氏は言う。アプリケーションアウトソーシングとは、企業ニーズに個別に対応するASPサービスだ。現在アプリケーションアウトソーシングは、ガートナーの提唱するハイプサイクルにおいて、黎明期から過度に期待されるピーク期を迎えようとしているが、丹羽氏は「将来的にASPがアプリケーションアウトソーシングと二分化する可能性もある」との見解を示した。