--なるほど。組み込みの世界ではLinuxを採用するよりWindowsの方が安価で便利ということですね。では、競合と見ているのは何でしょう。シェアトップということですが、2位3位のシェアを握っているのはどのOSですか。
2位3位は正直なところわからないのですが、一番大きな競合となっているのは、独自の組み込みOSを開発している企業です。組み込み系開発者は、過去にやってきたことをあまり変えようとしない傾向にあります。つまりわれわれの使命は、このような開発者に対し、もっと簡単に使えて製品の市場投入を早められるソフトウェアがあると知らせることです。
--独自の組み込みOSを使った製品は、Windowsベースの組み込み製品の数より多いのでしょうか。
そうでしょうね。毎年何十億もの数の組み込み製品が登場していますから。その分、われわれがシェアを拡大できる余地もあるということです。Windows製品を使うことで、独自のOSを開発するために何カ月も何年も費やさなくて済む、ということを理解してもらえば、われわれのビジネスは今後もさらに拡張します。
--では、携帯電話やPDAに使われるWindows Mobileの競合についてはどうでしょう。
Microsoftとしてのゴールは、スマートフォン市場そのものを拡大することです。われわれの調査によると、世界の4億人のオフィスワーカーのほとんどが携帯電話を保有していますが、ほとんどの人は通話にしか携帯電話を利用していません。しかし、われわれが実際にブラウザやOffice製品を携帯電話上で動かすデモをすると、たいていの人は非常に興味を持ちます。つまり、これほどのことが携帯電話でできるのだということを理解してもらえば、スマートフォンの市場も広がり、われわれのビジネスも大きくなるのです。
--日本では携帯電話のOSとしてTRONのシェアが高いですよね。Microsoftは、TRON開発者の東京大学教授 坂村健氏が会長を務めるT-Engineフォーラムのメンバーでもありますが、TRONについてはどうお考えですか。
坂村氏は組み込み分野の知識が豊富なので、共に仕事をすることは大変面白いと感じています。ただ、TRONはリアルタイムカーネルなので、ウェブサーフィンやメディア関連機能には適していません。そこでわれわれはT-Engineフォーラムに参加してWindows CEを提供し、TRONとCEを同時に動かせるようにしているのです。CEにはInternet ExplorerやWindows Mediaも含まれていますしね。
TRONは多くの開発者に利用されています。Microsoftとしては、T-Engineフォーラムに参加して、Windows CEを日本の組み込み開発者に提供することで、より多くの機能を持ったデバイスをユーザーに提供したいと考えています。
4月4日には、Windows CEの開発者向け機能パックとなる「Windows CE 5.0 Networked Media Device Feature Pack」(NMDFP)も発表しています(関連記事)。NMDFPは、ネットワークメディアデバイスや、インターネットプロトコルを活用したセットトップボックスの開発を支援するものです。
--ユーザーはひとつのデバイスに2つのOSが必要だと感じるでしょうか。
ユーザーはOSのことなど気にかけないでしょう。ユーザーにとって重要なことは、デバイスでインターネットサーフィンができるか、音楽が聞けるか、コミュニケーションが取れるかといったことなのです。ただし、OEMメーカーはOSを気にするでしょう。彼らにとっては、製品を安価に開発し、迅速に市場に投入することが最重要事項ですから。
15年前を考えてみてください。携帯電話にはBluetooth機能もデジタルカメラ機能もテレビ機能も何もついていませんでした。ユーザーはOSよりも、こうした機能に魅力を感じるのです。メーカーも、ユーザーに見えないOS部分の開発に時間を費やすよりも、ユーザーにアピールできる部分で勝負したいと考えています。われわれのビジネスが伸びているのは、こうした理由が大きいのです。MicrosoftはすでにOSに多くのリソースをつぎ込んでいますから、別のバージョンのOSを用意することはデバイスメーカーが独自のOSを用意するよりも簡単なのです。
--すべてのデバイスがWindowsベースになると、PCでWindowsが狙われているようにセキュリティ上の問題が発生する可能性が高くなりませんか。
組み込み系のデバイスでウイルスなどのセキュリティ問題が発生したことはありません。というのは、ロボットにもレジにも冷蔵庫にもテレビにも有効なウイルスを開発することは困難だからです。先ほども説明したように、組み込み用のWindowsには構成要素が数多くあります。その構成要素をデバイスに最適な形で利用するため、すべてがWindowsベースとなっても、それぞれのデバイスのプラットフォームには大きな違いがあるのです。つまり、Windowsで統一されても、デバイス独自のOSを採用している状況と変わりなく、組み込み製品をアタックすることは難しいでしょう。