IT分野におけるユニバーサルデザイン
現在、ユニバーサルデザインに対する取り組みは、主に家電製品や建築、都市開発などが目につくことが多いが、もちろんIT分野においても数多くの企業がユニバーサルデザインの実現に向けたさまざまな取り組みを実践している。
たとえばマイクロソフトのWindowsオペレーティングシステムには、ユーザー補助機能として「拡大鏡」や「スクリーンキーボード」などが標準で搭載してある。また、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)や日立製作所のウェブサイトでは、個々のユーザーが自分の見やすいウェブサイトにデザインを変更できる機能や、テキストを音声で読み上げてくれる機能などを利用してみることができる。
ウェブサイトの作成におけるユニバーサルデザインとしては、身体の障害や高齢などの理由により、通常の方法では情報にアクセスすることが難しい人たちのために、どのような設計/デザインをすべきかということが、W3Cの組織のひとつであるWAI(Web Accessibility Initiative)により標準化されている。
WAIでは、標準化したウェブサイト開発用のガイドラインを「WCAG(Web Contents Accessibility Guideline)」として体系化し、W3Cのウェブサイトで公開している。WCAGの中では、たとえば「各ページには必ず分かりやすいタイトルを付ける」とか、「画像には“ALT”属性を必ずつける」など、文字や画像、色、コントラスト、テーブル、リンク、フレームなどをHTMLにより設定する上で必要な事柄について、3つの優先度で定義されている。
ここまで書くと、「それでは、ZDNet Japanのデザインは……」と言われそうだが、そう言われると胸が痛むのが実情だ。現状では、「できることから少しずつ対応していきたい」としか言えないのがもどかしいところだが、「一企業としてユニバーサルデザインに対する取り組みを着実に推進していきたいと考えている」ということで現状はご容赦いただきたい。この分野については筆者自身も、まだまだ初心者マークがとれない状態であり、今後学ぶべきことが山のようにある。
少し古い調査だが、2000年に経済産業省が行った「ユニバーサルデザインの認知度」の調査結果では、男女別、年齢別、居住地別に関わらず、「全く聞いたことがない」という人が全体の60%以上を占め、「名称程度は知っている」と答えた人は30〜40%にとどまっている。「具体的な内容まで知っている」という回答に至っては、0〜3%しかなかったと報告されている。
この6年間で、ユニバーサルデザインに対する認知度は少しは向上しているであろうが、今後も啓蒙活動が必要なのは間違いなく、メディアとしてできる活動を推進していきたいと考えている。
IT分野におけるユニバーサルデザイン実現の取り組みは、ウェブサイトの開発以外でも、キーボードやマウスの操作を補助したり、画面をより見やすくしたり、点字が打ち出せるプリンタが提供されるなど、さまざまなハードウェアやソフトウェアが、数多くの会社から提供されている。
こうしたIT企業のユニバーサルデザインに対する具体的な取り組みについては、それぞれの企業を個別に取材し、この特集の中で順次紹介していく計画だ。