エンタープライズ分野に浸透し始めたWeb 2.0 - (page 2)

文:Martin LaMonica(CNET News.com) 翻訳校正:坂和敏(編集部)

2006-05-09 22:12

 企業顧客をターゲットにするソフトウェアベンダーにとっては、従来のエンタープライズ向け販売モデルの断念が生き残りにつながる場合もある。

 4月に行われたSoftware 2006カンファレンスで講演したRay Lane氏によると、エンタープライズソフトウェア企業は、最大手のソフトウェアベンダーに対抗するために、価格設定のモデルを見直す必要があるという。同氏はOracleの元社長で、現在はベンチャーキャピタルのKleiner Perkins Caufield & Byersに在籍している。

 「ソフトウェア業界全体が1990年代後半に大変な間違いを犯した。ユーザーではなく、購入担当者を重視したのだ」とLane氏は基調講演のなかで述べていた。

 同氏は、そうしたやり方の代わりとして「個人重視型」のアプローチを勧め、新しいソフトウェアベンダーは、無償で試用できる使いやすいソフトウェアを用意して、企業内個人に狙いを定めるべきだと述べていた。

ソフトウェア業界における「適者生存」

 アナリストやソフトウェア企業の幹部らによると、Virtual Earthや写真共有サイトのFlickrなど、皆が気の利いた消費者向けのWebサービスに親しんでいるため、ビジネスユーザーの期待も結果的に高まっているという。

 つまり、ビジネスアプリケーションのデザインがかつてないほど重要になっていると、JotSpotのCEO、Joe Kraus氏は述べている。JotSpotは、wikiアプリケーションのホスティングサービスを提供している。

 「もし自分がメーカーの購買担当者で、Google Earthを使ってライバルの工場の様子を見ているとする。そこにSiebelの営業担当者が現れて、データベースソフトを複雑にしたような製品に200万ドルを支払えと言ってきたら、そこで関係は消滅する」(Kraus氏)

 GoogleのDavid Girouard氏(エンタープライズ検索事業部ゼネラルマネージャー)によると、消費者を重視する企業のほうが市場で激しい競争を繰り広げているという。たとえば、YahooからMicrosoftのMSNへの乗り換えは数回クリックするだけで済んでしまうが、大規模なソフトウェアやデータベースの場合は使用を中止するまでに何年もかかる。

 Girouard氏はApple ComputerのiPodを例に挙げながら、「技術革新が起こっているのは消費者市場のほうだ・・・そこでは強者だけが生き残り、またうまく物事を進められた時には膨大な利益を獲得できる機会があるからだ」と語った。

 同氏によると、エンタープライズ向けの検索ソフトウェアでは、設計者やマーケティング担当者がエンドユーザーから隔離され過ぎているという。もっと使いやすくなれば、社内ネットワークの検索がインターネットを検索するように当たり前になると、同氏は述べた。

 Thomas Manes氏は、企業によるソーシャルネットワークやタグの利用が今後増加する可能性が高いと予想している。

 一部の専門家は、企業向けソフトウェアと一般消費者用ソフトウェアの間には、設計に関して不自然な断絶があると主張している。ビジネス関連の著書を持つJohn Hagel氏は、あるブログのなかで、サービス指向アーキテクチャ(SOA)と呼ばれるモジュール型システムデザインの導入を進めている企業は、Web 2.0の特徴である簡潔性という概念や各種の技術を借りてくる必要がある述べていた。

 IBMは企業内におけるSOAの概念を提唱しているが、同社がやっているのはまさにそうしたことだ。IBMのRod Smith氏(新技術担当バイスプレジデント)によると、同社のQEDwikiプロジェクトは、正式なプログラミングのトレーニングを受けていないビジネスマンでも「マッシュアップ」を構築できるように設計されているという。マッシュアップとは、さまざまな情報源から入手した情報を組み合わせてつくるウェブアプリケーションを指す。

 マッシュアップを利用することで、たとえば、社内情報と一般公開されているデータを組み合わせて、鳥インフルエンザが社員に与える影響を追跡することができる。

 Microsoftでも、Web 2.0とSOAや「サービスとしてのソフトウェア」が重なり合う領域を探り当てようとしている。同社は、3月に開いた「Mix '06」カンファレンスのなかで「Spark」というワークショップを開催し、企業向けソフトウェアと消費者向けソフトウェアの両方に応用できる、技術・設計についての共通のパターンを見つけようとした。

 しかしSmith氏によると、多くのWeb 2.0ソフトウェアには、いまだにセキュリティのような部分に深刻な技術上の落とし穴があり、そのことが企業ユーザーを不安にさせているはずだという。「AJAXとwikiを組み合わせたら、ハッカーが大喜びするようなものができるだろう」(Smith氏)

 またマーケティングに関しても、企業内のエンドユーザーに直接訴求するというアプローチにはやはり限界がある。CIOや他のIT関連の責任者がソフトウェアの導入プロセスに関与するタイミングが以前よりも遅くなる可能性はあるが、だからといって彼らをある種の障害として扱ってはならないと、Kraus氏は述べている。

 消費者向けの技術やテクニックの及ぼす影響が、エンタープライズソフトウェア業界にどれほど深く浸透するかはまだわからない。しかし、どんなことが起こるにせよ、エンタープライズソフトを開発する企業かが、消費者向けの技術からなんらかのインスピレーションを得る余地は以前として残ることになるだろう。

 「だれもが、エンタープライズソフトの市場に先はないと言っている。しかし、本当に死んだわけではない。単に新しいモデルが出てきているだけだ」(Kraus氏)

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]