米SOX法の実態:第1回「SOX法は米国企業に何をもたらしたか」 - (page 2)

中山裕香子(野村総合研究所アメリカ)

2006-05-15 14:07

 SOX対応コストは企業規模よりも、むしろ業務の複雑さや既存文書の整備状況によって大きく異なっている。そのため平均的コストから自社の場合のコスト推計をすることは難しく、実際のところ、経費は当初の見込みを大幅にオーバーすることが多い。SOX法施行前、コンサルティング業界は、SOX対応コストは売り上げが年間10億ドル程度の企業で約100万ドルと予測していたが、RHR Internationalが売り上げ40億ドル以上の大手企業を対象にした調査では、実際には平均3500万ドルほどを費やしているとの結果がでた。

 大手運送会社Yellow Roadwayは、404条対応に必要な膨大な作業に、2004年の第4四半期だけで従業員200人を投入し、2004年度売上の3%にあたる900万ドルを外部監査法人に支払った。こういった重い負担を回避するため、英オンライン旅行代理店のLastminuteやドイツのソフトウエア企業Lion Bioscienceのように、米株式市場からの撤退を発表した外国企業もあるが、費用負担の重さが問題視されたことで負担軽減のためのロビー活動も活発化した。

提案者も「行き過ぎた面がある」

 当初SOX法は、膨大な対応コストだけでなく、他にもいくつかの問題点が指摘された。SOX法には、財務会計プロセスをどこまでブレークダウンして統制すべきか具体的には示されていない。したがって、コンサルティング会社ごとに異なる指導を行ってきた。

 さらに、これらのコンサルティング会社(会計事務所)は、Enron事件の際のAndersenの関与など、企業と会計事務所の癒着問題を恐れて、顧客企業に対して非常に厳しい指導を行ったため、会社の規模や業務内容を越えて必要以上の統制を要求された企業も多い。SOX法の提案者であるOxley下院議員でさえも、当時の内部統制のあり方について「行き過ぎた面がある」と言及したこともあった。

 このように、404条の内部統制ルールの曖昧さが引き起こす問題点が多く指摘され始めてきたため、PCAOBは2005年5月に新しいガイドラインを発表した。このガイドラインでは、内部統制のあり方、SOX法への対応の仕方についての基準を設け、過度に厳しい統制が要求されることを防護している。

上場を取りやめる企業も

 グローバルに展開している企業の場合、海外拠点や連結決算対象子会社など、連結決算対象全てが基準に沿った対応をしなければいけない。その他にも、外部委託しているシステム会社にも自社が定めた業務プロセスに従わせる必要があり、考慮すべき範囲は広大になる。これはコストだけの問題ではない。SOXが上場企業を対象としていることで、上場を取りやめる企業が増えてきたことも問題となった。

 従来、起業家にとって自社を上場させることは、富や名声を勝ち得ることを意味していた。それがSOX法導入によって、株式公開への魅力度が激減してしまった。起業家に対するカウンセリングサービスを提供しているサンフランシスコのMoney, Meaning and Choices Instituteの設立者であるStephen Goldbart氏は、2000年に彼がカウンセリングを行った起業家の75%はIPOを望んでいたのに、2005年には、彼らの多くはどこかの会社に買収されることを望んでいると語った。

 さらに、上場企業ではCEOのなり手が減少し、フォーチュン1000社の50%の社外取締役は、年間200時間を越えるSOX法対応の取締役会に追われること嫌って辞任した。

 米国でのこうした一連の動きがスキャンダラスに報道されたため、一時期、日本でもSOX法に対する批判的な意見が出たこともあったが、導入後1年以上が経ち米国では現実的な対応が進んでいる。次第にベストプラクティスも現れてきており、企業側にも自らが目標とすべき基準ができ始めている。

 次回は、SOX法対応が義務化された企業で進められた、一般的な検討・対応プロセスについて報告する。

日本版SOX法とITの関わり、ツール導入を実践する際の留意点などをまとめた「導入間近に迫る、日本版SOX法ソリューションガイド」もあわせてご覧下さい。

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