アプリケーション分野での覇権を目指したオラクルの買収劇
ライバル企業を業界から消し去ることによるビジネスチャンスの拡大と、ライバルの顧客基盤の獲得を目指す敵対的買収として注目を集めたM&Aが、オラクル、ピープルソフト、J.D.エドワーズの三つ巴戦だ。
3社はいずれもERPパッケージ(統合業務パッケージ)と呼ばれる業務アプリケーションベンダーであった。2003年6月2日、ピープルソフトがJ.D.エドワーズを買収することで最終合意したと発表。当時で、両社を合わせると年間売上高は約28億ドル、150カ国にわたる1万1000社の顧客を抱えることになり、「世界第2位の企業アプリケーションソフトウエア会社が誕生する」(両社)というシナリオを描いたM&Aだった。
ところが、その発表の4日後の6月6日に、今度はオラクルがピープルソフトを買収する計画であると発表する。このオラクルによるピープルソフト株の公開買い付けの提案に対して、ピープルソフトのCEOは「ピープルソフトが今週初め(6月2日)に発表したJ.D.エドワーズの買収計画を阻止する試みなのは明らかだ」と猛反発、両社はお互いに訴訟を起こして買収合戦は泥沼化、長期化していく。結局、2004年12月にピープルソフトがオラクルの最終買収契約に合意し、業務アプリケーション業界は第1位のSAPと第2位オラクルの二強時代に突入した。
絶え間なく続くM&A
同様に、2005年12月に完了したアドビシステムズによるマクロメディアのM&Aも、競合する製品を持つライバル会社を取り込んで業界の地位を高めようとするものと考えていいだろう。
1982年に設立され、ページ記述言語の「PostScript」を開発することによってデスクトップパブリッシング(DTP)の礎を築いたアドビシステムズは、「Illustrator」「Photoshop」といったプロフェッショナル向けのグラフィックソフトに加え、電子ドキュメントプラットフォームとしての「Acrobat」およびPDFを開発することでデジタルデータのオーサリングという分野に注力してきた。一方、マクロメディアは早くからマルチメディア市場に進出し、オーサリングソフトの「Director」、およびそのウェブ配信技術である「Shockwave」でその地位を確立した。マクロメディアは、1997年にFutureWave Softwareを買収し、同社の技術をベースとしたウェブアニメーション作成ツール「Flash」でその地位を高めた。現在、Flashはウェブにおけるアニメーションやユーザーインターフェースの配信プラットフォームとしてスタンダードな技術に成長した。
アドビシステムズとマクロメディアには、ウェブオーサリングツール(DreamweaverとGoLive)や画像編集ツール(FireworksとPhotoshop)など競合する製品も多い。PDFによる電子ドキュメントの分野ではかなりのポピュラリティを得たものの、やはり旧来のDTPツールベンダーとしてのイメージが根強く残っていたアドビシステムズから見ると、ウェブをターゲットとしたコンテンツ配信技術やオーサリングツールで評価の高いマクロメディアを獲得することは、市場における立場の強化につながると判断したのだろう。余談だが、アドビのDTPソフトウェアである「PageMaker」と、マクロメディアがかつて発売していたベクトルグラフィックツール「FreeHand」は、いずれもアドビが1994年に買収したアルダスの製品であった。
このほか、シマンテックとベリタスソフトウェアの合併、倒産したERPパッケージベンダーのバーンを買収して設立されたSSAグローバル・テクノロジーズによる、CRMソフトウェアベンダーのエピファニーと人事管理パッケージベンダーのボニバの買収など、ライバルを取り込もうとするITベンダーのM&Aは絶え間なく繰り返されている。
一方、日本のベンチャー企業が米IT企業を買収した最近の例として、iモード向けの携帯ブラウザで国内市場を制覇したアクセスによる、PDA(携帯情報端末)の最大手、パームから分離されたOSメーカー「パームソース」の買収がある。売上84億円、営業利益12億円の赤字だったパームソースを総額381億円を投じて買収した背景は、マイクロソフトからの潜在的な脅威に備えるためだといわれている。マイクロソフトがウェブブラウザでネットスケープコミュニケーションズを駆逐したように、今後、同社が携帯端末OS市場を強化すれば、携帯ブラウザ市場でのアクセスの地位は大きな脅威にさらされる。そのため、パームソースの技術力を取り込んで、アクセス自身がOS市場に参入する戦略を選んだと見られているのだ。