無線LANの兄貴分から、携帯電話ビジネスとの整合性確保へ
WiMAXは、当初は固定通信の無線代替を意図しており、「巨大な無線LAN」のようにユーザーの眼に映ることになりますが、これを商用サービスとして提供するに際しては、すでに多くの顧客と大量の基地局を有する携帯電話事業者側のビジネスモデルとの整合性、携帯電話との共食いへの注意が必要となります。
無線LANに比較すれば、広いエリアをカバーできるものの、ビジネス用途などを想定すれば、多数の基地局(日本の場合で人口普及率90%ならば、2万局超)が必要となります。また、データ通信を主対象としたサービス仕様となりますが、現実の屋外通信のトラフィック、収入確保のためには音声通信を無視することはできません。
そこで、WiMAXは複数の標準化方式のなかに、移動体通信対応の「802.16e」方式を定めることで、移動体通信との親和性を高めました(位置照会、無線基地局間の通信引き渡しなど)。また、IP電話を併用した電話サービス提供のための仕様も定められることになっています。
一方、WiMAXへの期待は、従来の携帯電話事業者だけでなく、ADSLなどの固定通信事業者にとっても、既存の通信ネットワーク資産を活用できる無線サービスのインフラとして極めて大きなものとなっています。特に、携帯電話との比較における優位点として、インテルの支持があることが挙げられます。近い将来、ノートPCなどにチップセットとして無線LAN同様、WiMAX機能が標準搭載されれば、従来型の携帯電話ビジネスと異なり、端末開発投資を劇的に抑制することが可能となります。これにより、資本規模などで劣る新規通信事業者にとっても事業機会となることが期待されています。
今後の動向予測
現在、総務省において、日本市場におけるWiMAXなどへの無線帯域割当審議が進んでいます。詳細の決定は、2006年夏以降となりそうですが、伝え聞くところでは約70MHz、2〜3事業者相当分が割り当てられる可能性が高いもようです。次世代PHS等の別方式の無線ブロードバンドへの帯域割当の可能性も十分考えられますが、要素技術、ビジネスモデルはWiMAXと共通点も多く、日本市場へのWiMAXもしくは類似技術の商用化は、2007年には本格化しそうです。
すでに多くの通信事業者が非公式ではありますが、帯域取得に向けた意向を表明しており、場合によっては、10社超の申請が殺到する可能性があります。この場合、かつての携帯電話向け電波帯域割当のような審査、評価が必要となります。各社にとっては、移動体通信市場への新規参入、取り組み強化を図るめったにない機会であり、帯域割当を巡る激しい競争が起こることも予想されます。
既存の携帯電話事業者に、この帯域が割り当てられ携帯電話の補助システムとなるのか。固定通信事業者に割り当てられて移動体通信サービスとの市場の境界が活性するのか。あるいは全くの新規移動体通信事業者に割り当てられることで、移動体通信市場全体の競争活性化が進むのか。2006年秋には、通信市場の新たな方向性が明らかになっていると思います。
筆者プロフィール:桑津浩太郎(Kotaro, Kuwazu)
株式会社野村総合研究所、情報通信コンサルティング2部部長、主席コンサルタント。86年京都大学工学部卒業後、野村総合研究所に入社。通信分野全般、特に光ファイバ、無線帯域、データセンタ等の通信インフラ、技術開発に関する調査、コンサルテーションに従事。
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