――こうした企業との関係構築というのは、他のオープンソースプロジェクトでもうまくいくものなんでしょうか?
おそらく、うまくやれると思います。こうした試みをしたのは、われわれが初めてで、その過程ではもちろん、いろいろ問題もありました。たとえば企業の側は関係をもつ際に、いろいろな見返りを期待するものです。
「私もMozillaの開発に参加したいが、参加することによってどのような見返りが期待できるのか」とストレートに聞いてくる人もいれば、見返りまでは期待しないでも、自分の会社とどのような関係を構築できるかと首をひねらせる人たちもいるわけです。
こうした疑問は、今後もまだいろいろと検討できる余地はあり、われわれもまだ応え切れているとは思いませんが、とりあえず、今、出ている結論は、そうした「見返りを保証するような契約は結べない」ということです。
ただ、長い長い議論を続けてきたことで、企業の側もこうしたオープンソースプロジェクトが成功することで、自分たちにどういったいいことがあるかを実感し始めてきました。
たとえば、われわれと関係のある企業は、ウェブ上のサービスは提供しているもののブラウザそのものはつくっておらず、これがどんな仕組みで動き、どんな標準をサポートしているかも完全には把握し切れていません。でも、Mozillaのプロジェクトに参加することで、自分たちの理解しているブラウザが手に入ります。おまけに、そのブラウザがオープンソースのプロジェクトということで、世界にも広く浸透しているのです。
一方、われわれの側も、業界の新しい技術や標準に精通した企業の方々の見識を得ることができました。 双方の関係は、これからも発展していくと思います。
「オープンソース×報償」への果敢な挑戦
――Mozillaプロジェクトでは貢献度の高い開発者に何らかの報酬を与えたいと考えているようですが。
われわれは「Community Given」というプログラムをスタートさせました。Mozillaの製品であるFirefoxは、何千、何百万というオープンソースの開発者たちの手によって開発はされました。
このプロジェクトが成し遂げた偉業は、会社として同じ人数の社員を雇ったとしても、なし得なかったでしょう。何しろ総勢では6000万人がかかわっているのですから。
この6000万人の中には、かなり大勢、Firefoxに心身を捧げてきた開発者たちがいて、彼らはわれわれの社員ではありません。

われわれは現在、幸運にもそうしてできあがった成果の上に企業を作って人を雇い、給料を支払っています。
こうしたことをやっていくなかで、雇用枠の範囲を超えて、そうした特に貢献度の高い開発者に対してなんらかの報償を支払うべきなのではないかという思いが強くなってきました。
貢献度の高い開発者の方々は、われわれのインターネットに対するビジョンの代弁者であり、それを形にしてくれた人々でもあります。これまでの経験から、そうした人々を無理矢理社員に迎える、ということが必ずしもよい結果をもたらすとは限らないことがわかってきました。
プログラムの目的は、そうした人々が、今後もわれわれのプロジェクトに貢献し続け、インターネットの発展に寄与しやすい条件を整えることにあります。
プログラムでは、まず貢献度が際立って高いごく少数の人々に報償を用意することから始め、そこから少しずつ他の人たちにも広げていく予定です。
どういう形で進めるのが最善の策かはわれわれにもわかっておらず、他のオープンソースプロジェクトの方たちにも、この議論に加わってもらっています。
そうしたなかで「そんなことはやめておいた方がいい」というアドバイスもたくさんもらっています。
もちろん、われわれとしてもオープンソースプロジェクトで、開発者に報償を支払うという、このプログラムが大変大きな危険性をはらんでいることは十分に覚悟しています。